専門医が教える「のど筋トレ」。入浴中にウトウト、食事中にムセるは危険!風呂カラオケで食い止める

2024年4月23日(火)12時30分 婦人公論.jp


のどこそ、要介護にならずに、自分のことは自分でやって生きていくカナメ(写真提供:Photo AC)

令和3年の厚生労働省「人口動態調査」によると、浴槽内または浴槽への転落による溺死で亡くなった65歳以上の方の数は、約5000人だそう。「鼻と口が湯に浸かっても目覚めなかったり、動けなかったりすると数分で窒息して、命を落としてしまいます」と話すのは、声とのどの専門医・渡邊雄介先生。渡邊先生がおすすめするのは、「のどの筋トレ」を兼ねた「風呂カラオケ」。早速今日から始めるための実践ガイドです。

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入浴中にウトウトしたら、風呂カラオケの始めどき


風呂カラオケを、もっと世の中に広めよう。

「声とのどの専門医」である私が、そう決心したきっかけは、「65歳以上の高齢者が、交通事故死の2倍以上、年間5000人も入浴中に溺れて亡くなっている」というニュースを知ったことでした。

「いい湯だな」とゆったりしすぎて、ウトウト寝入って、ブクブク沈んでしまう。

長湯でのぼせて熱中症になる。

立ちくらみなどで失神して浴槽に倒れこむ。

鼻と口が湯に浸かっても目覚めなかったり、動けなかったりすると私たちは数分で窒息して、あっけなく命を落としてしまいます。

交通事故死を減らすための対策は、酒酔い運転の取り締まりから免許返納プッシュまで、「国を挙げて」という感じで長年、大々的に行われています。

けれども「入浴中の溺死」を減らす対策というのは、ほとんど聞かないですね。

「お湯の温度は41℃まで、入浴は10分以内が安全です」という呼びかけや記事を時々見かけますが、「10分」の見極めは、なかなか難しい。

もうちょっとなら大丈夫……と思っているうちに、ふっと寝入ってしまいそうです。

かといって、せっかくのリラックスタイムに、タイマーをかけるのも気ぜわしいでしょう。

お風呂の溺死は、私の専門である「声・のど」と深くかかわります。

そこでひらめいたのが、のどの筋トレを兼ねた「10分以内の風呂カラオケ」でした。

歌い終えたら浴槽から出る。これなら溺れる心配がない!

とっさのときに踏ん張れる「のどの筋トレ」


私は声の専門医です。山王メディカルセンターの東京ボイスセンター長として、梅沢富美男さん、天童よしみさん、DAIGOさんなどのプロフェッショナルから一般のかたまで、8000人以上の「声とのど」の外来診療、リハビリ、手術をあずかってきました。

いつも不思議に思うのです。

私たちは食べ物などがのどに詰まったら命にかかわることもありますし、のどがちょっと腫れただけでも、しゃべるのも食事するのも不自由になって、もう大変です。

それなのに「健康のために、何かやっていますか?」と聞かれたとき、「足腰を鍛える」「脳トレをする」「栄養のバランスを考える」などの回答はよく耳にしても、「のどを鍛えている」と答える人は、ほとんどいませんね。

のどは、「発声」「呼吸」「嚥下=食物をゴックンとのみこみ、食道から胃に送る」という、命と直結する働きだけでなく、実は「力を出す」ことや「とっさのとき、転ばないように足を踏ん張る」こととも密接にかかわっています。

のどこそ、要介護にならずに、自分のことは自分でやって生きていくカナメ。

その働きを支えるのが、のどの筋肉群です。

「のどの筋トレ」は、人生100年時代に必須のトレーニングなのです。

私はこれまで、風呂カラオケを「楽しく効果的なのどの筋トレ」として、テレビ番組などでもおすすめしてきました。

湯気の上がる温かい浴室は、のどを痛めない、理想の環境です。

「入浴中にウトウトしてしまう」
「最近つまずきやすい」
「食事中によくムセる」

ひとつでも思い当たったら、風呂カラオケの始めどきです。

今は問題ないかたも「転ばぬ先の杖」として、ぜひ習慣にしてください。

「効く」風呂カラオケ、5つのポイント


ここからは、今日から始めるための実践ガイドです。

・POINT1 今こそ歌おう、昭和のヒット曲。日本レコード大賞受賞曲・懐メロ人気曲、童謡・唱歌がおすすめ

昭和の日本レコード大賞受賞曲や、懐メロの人気曲は音域が広い歌が多く、歌詞やメロディーを思い出しやすいのでおすすめです。

好きな曲、感情を込めて歌える曲を選んでください。

・POINT2 時間は10分以内

風呂カラオケは、「10分以内」がルールです。

お風呂で溺れる高齢者は、高温のお湯に15分も20分も浸かり、脳貧血になったり、熱中症のため意識不明になったりして湯船に沈んでいます。

「お湯の温度は41℃まで。時間は10分まで」が、安全とされています。

「3曲で10分まで」の持ち歌をいろいろ用意しておく。歌い終わったら、血圧が急降下しないよう湯船からゆっくり出る。これで「お風呂での溺死」を、劇的に減らせます。

・POINT3 3曲がちょうどいい。定番の1曲目で、のど診断

定番曲を決めて、1曲目は毎回「1番」を2回歌います。

同じ歌を毎日2回歌い続けることで、「今日は高音が出にくい。風邪ぎみ?」「息がいつもより続かない気がする。2回目も同じだったら問題だ」など、その日の健康状態を、のどの調子から自分でつかめます。

あとの2曲は自由に、楽しんで歌ってください。

POINT4 腹式呼吸で歌う


息を吸うとき横隔膜をグーッと下げて、お腹に空気を思いきり入れます。次に息を吐きながら、お腹をできる限りへこませてください。これが腹式呼吸。

空気をたくさん取りこむことができて、上半身がリラックスし、のどにも負担をかけない呼吸法です。胃腸のストレッチにもなり、食欲増進や便秘の解消に役立ちます。


「のどの筋トレ」は、人生100年時代に必須のトレーニングなのです(写真提供:Photo AC)

・POINT5 歌詞を忘れていてもOK

普通に歌うほか、このあと紹介するハミング、「ねいねい歌唱法」も、よいのど筋トレになります。とにかく「声を出して歌う」ことが大切です。

浴槽でできるのど筋トレーニング


お湯に浸かりながらできるのど筋トレーニングを紹介します。

・ハミ活(ハミング活用)
好きな歌をハミング、いわゆる鼻歌で歌います。

口を閉じて「♪ん〜んん〜ん〜」と、鼻に声を軽く響かせます。

頬や鼻に軽いビリビリとした振動を感じたら、鼻腔(鼻の穴の内)で共鳴しているサインです。共鳴している感じをつかみましょう。

・ねいねい歌唱法
風呂カラオケ曲を、歌詞をつけずに「ね」と「い」だけで歌います。

「ね」は鼻腔に響かせやすいN音。「い」は出口の狭い母音で、どちらも歌詞をつけて歌うより、のどに負担をかけません。

高音も無理なく出るので、うまく歌いたい曲の練習にもぴったりです。

※本稿は、『毎日10分-長生き風呂カラオケ』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

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