あと5分で始まるのに、観客が1人も来ないのはなぜ?「俳優は2人だけ」柄本明が映画館で朗読劇をやる理由
2025年4月24日(木)12時0分 文春オンライン
「おもしろいか? それを言葉で説明するのは難しいですね……。ほら、ピカソの絵もそうでしょ? どこがどういいかはうまく言えない。それと同じ。でも、人それぞれに感じるところはあると思いますね」
柄本明さん率いる劇団東京乾電池の次回公演は朗読劇だ。演目は『今は昔、栄養映画館』。竹内銃一郎作、1983年初演のナンセンスコメディで、もともとは2人芝居用に書かれたものを、柄本さんと西本竜樹さんの2人で“読む”。
「僕は、イヨネスコやベケット、別役実など、そのあたりの作家が好みなんです。いわゆる不条理劇ですね。で、竹内さんも、すごくおもしろい作品を書く方ですから」

柄本さんの役どころは映画監督。西本さんはその助手だ。舞台は、とある街の映画館。あと5分で新作映画の完成披露試写会の幕が開く。とにかく急がなくては。ところで、観客が1人も来ないのはどういうわけだ? おかしい、あと5分しかないのに……。
ステージ上には、椅子に腰掛けた俳優2人だけ。セットは背後に貼られたスクリーンのみ。想像力を掻き立てられるストーリーは、朗読劇にはうってつけだ。
「まあ、テレビドラマのような“わかりやすさ”はないかもしれませんが、たまにはこういうのもいいでしょう。何でもそれだけが価値じゃない。よくわからないけど、なんかおもしろい。この感覚を生で体験してもらいたいですね」
実は昨年、渋谷区のホールと下北沢にある劇団のアトリエでも上演し、好評を博した。きっかけは、毎朝無料で開催している朗読会だった。
「朝9時から30分、うちのアトリエで毎日やっています。団員たちが日替わりで舞台に立って、自分の好きなものを1人5〜10分、読む。これも最初はそのネタの1つでした」
大きな宣伝はせず、明日の出演者を入り口に掲げるだけ。それでも地元の常連客もいれば、話を聞きつけてわざわざ遠方から訪れる人もいる。
「始めたのは2年ほど前でした。せっかくこういう場所があるんだから使わないともったいないと思ったんですよ。寄席みたいなイメージで、ここに来れば何かやっていて、おもしろいものが観られるというのがいいなと。それに朗読ならすぐにできるし」
やっていくうち、当初思っていた以上の可能性を感じるようになった。何しろ、朗読劇ならわずかなスペースでのパフォーマンスが可能なのだ。そう、例えば映画館のようなところでも——。
「要は、椅子を置いて座れる程度のステージと客席があればいい。映画館ならスクリーンはあるからセットもいらない。音響もいい。それにこれは映画館の話だから映画館でやるのはぴったり。ふと、思いついちゃったんです(笑)」
こうして、本公演の舞台は、文字通り“映画館”となった。
「僕自身、映画ファンだし、家族にも常々“映画は映画館で観るもの”と。映画館のファンでもあります。しかもシネコンよりもミニシアターが馴染み深い。雰囲気が合うんですよね。それで今年は5月いっぱい、全国のミニシアターを回ります」
えもとあきら/1948年生まれ、東京都出身。76年に劇団東京乾電池を結成、座長を務める。98年に映画『カンゾー先生』で第22回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞などを受賞。ほかに舞台やドラマにも多数出演。2011年に紫綬褒章、19年には旭日小綬章を受章。舞台では、『また本日も休診〜山医者のうた〜』への出演が今年10月に控えている。
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朗読劇『今は昔、栄養映画館』
5月1日(木)より全国の映画館にて順次上演/埼玉:川越スカラ座、茨城:あまや座、静岡:静岡シネ・ギャラリー、シネマイーラ、愛知:刈谷日劇など23カ所
https://www.tokyo-kandenchi.com/stage-2025-5-eiyoueigakan.php
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2025年4月24日号)
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