「あの人たちは、出演者のことを人間だと思ってない」木村花さんの母が訴えるフジテレビ“隠蔽と責任放棄”の壮絶な実態《テラスハウスとだれかtoなかいは同じプロデューサー》

2025年4月25日(金)18時0分 文春オンライン

〈 フジテレビ「テラスハウス」炎上で命を落とした木村花さんの母が慟哭の告白「もういまさら、何をどうしても、花がかえってくるわけではありません」 〉から続く


 響子さんは「花が生きることができたはずの社会」を目指し「2つの闘い」を続けてきた。


 1つが誹謗中傷との闘い。花さんの自死をきっかけに侮辱罪を厳罰化する改正刑法が成立。響子さんは NPO団体「Remember HANA」 を立ち上げ、SNS上の誹謗中傷を減らす活動を行っている。


 もう1つが、フジテレビの責任を明らかにする闘いだ。闘いを決意した理由にはフジの度重なる不誠実な対応があった。フジは花さんの死後、第三者委員会など外部に調査を委ねず、社内調査による検証報告書を20年7月31日に発表。花さんの証拠LINEを検証した形跡はなく、やらせを否定。小誌に実名告発した共演者にヒアリングすら行っていないお手盛りの検証だった。



親子でプロレスラーだった


 21年3月にはBPO(放送倫理・番組向上機構)の放送人権委員会が「出演者の精神的な健康状態に対する配慮に欠けていた点で、放送倫理上の問題があった」とする決定を公表した。


 BPOが問題視したのも、花さんが最初に自殺未遂した後のフジの対応だ。花さんはリストカットした直後、血まみれの写真をインスタグラムにアップ。だが、フジの制作責任者が、花さんの自傷行為を把握するまでに4日を要していた。さらに問題なのは、地上波放送までの間、この責任者が花さんに連絡することも対策を講じることもなかったことだ。中居正広のトラブルを港浩一社長(当時)が把握していたにも関わらず『だれかtoなかい』を約1年半も延命させ続けた問題と重なる。


 BPO決定を受けフジは声明を発表。この時点では一部非を認めていた。


〈従来の番組制作体制においては、リアリティ番組が持つ特性の認識、インターネット上での誹謗中傷対策、出演者の健康状態への配慮、SNS時代に適した番組づくりなどにおいて、不十分なところがあったことを改めて認識しました〉


 だが響子さんはBPO決定に納得がいかなかった。「人権侵害があったとまでは断定できない」との結論を示したからである。やらせ問題についても「実際には一定の演出が不可避である」「出演者との関係で演出上の指示が許されないことにはならない」と、フジ側を半ば擁護する意見を示していた。響子さんは絶望し、22年12月、訴訟に踏み切った。


慟哭の日々を告白


 それから2年あまりの月日が流れた。響子さんがこれまでの慟哭の日々を告白する。


「フジテレビの主張を読む度に涙が溢れて止まらず、文字が理解できなくなる日もたくさんあります。裁判がある度に生きる気力をなくす。でも裁判をやめてしまったら生きる理由がなくなる。だけど裁判は進まない。生殺しみたいにされてギリギリで生きてます」


 フジとの闘いは遅々として進んでいないのだ。これまで裁判所に書面で主張を提出する手続きが行われてきたが、次のステップである証人尋問は未だ開かれていない。


非公開の裁判になりフジが豹変


 実は裁判は非公開で行われてきた。


「証言してくださった方への誹謗中傷を防止するため、証言者は匿名のアルファベット表記にして欲しいと求めました。それに対しフジ側は、スタッフらフジ側の証言者もSNS上に晒され誹謗中傷される可能性があるという理由で訴訟記録全部の閲覧制限を請求し、そのうえ裁判がクローズドになった」(響子さん)


 非公開を逆手に取るかのように、フジは“隠蔽”に動いた。響子さんの代理人弁護士の伊藤和子氏が語る。


「原告側は、被告に対し関係証拠の開示を求めたが頑なに拒まれました。求めたのは、番組の音声記録や花さんが過呼吸になった未公開動画の一部始終を記録した映像、地上波放送を決定した際の被告間のやりとりなど、真相究明に必要なもの。フジはほとんどの証拠の存在を認めず、『制作現場の表現行為を萎縮させる』などを理由に手持ち証拠の開示にも反対していました」


 非公開の裁判となって以降、フジは豹変する。そして驚くべき反論に出る。


「番組と自死に因果関係はない」


 と、安全配慮義務を怠った責任を完全否定してきたのだ。前述した21年3月のフジの声明「誹謗中傷対策や出演者の健康状態への配慮が不十分だった」からも大幅に後退。そして、


「死体検案書や戸籍謄本の提出を求めてきました。明らかな遅延行為の上に、花や家族の尊厳やプライバシーまで踏みにじられた。フジが送ってきた書面上の“死体”という文字を目にした時は本当につらかった」(響子さん)


「誹謗中傷した人たちの責任である」


 反論は具体的にどのようなものなのか。1つが、ソーシャルメディアでの誹謗中傷は“社会問題”でありフジテレビらには責任がないというものだ。つまり「誹謗中傷した人たちの責任である」と問題をすり替えている。


 BPOはリアリティ番組について「視聴者の共感や反発は、生身の出演者自身に向かうため、誹謗中傷によって出演者自身が精神的負担を負うリスクはドラマなどのフィクションよりも格段に高い」との見解を示していたにも関わらず、それを無視するように反論してきたのだ。


「他の同居人との衝突など炎上を招きやすい内容を選別し放送してきた。花以外にも激しい誹謗中傷を受けた出演者は多くいます。番組の特徴の1つが、タレントによるスタジオトークや副音声。彼らのコメントには出演者への辛辣な批判もあり、視聴者による炎上を煽っていたように思う。YouTubeでの未公開動画の配信をはじめ、SNSと連動し炎上が発生しやすい状況をつくっていたのではないでしょうか」(響子さん)


フジの反論により、裁判は長期化


 フジの責任放棄はこれだけではない。


「花がうつ病等の精神疾患に陥っていたことも否定されました。リストカット後の花の言動を詳細に調べた医師が作成してくれた意見書に対し、フジ側は信ぴょう性がないと。花は現場スタッフに『死にたくなってきた』とLINEでSOSを送っていたのに、自殺念慮もなかったと反論してきたのです」(同前)


 かくしてフジの反論によって争点は明確にならず、裁判は長期化している。


「同意書兼誓約書も問題ないと主張。ただ、フジテレビは自分たちの主張を裏付ける証拠のほとんどを提出していません。表現の自由を守るために制作プロセスに関わる証拠は出せないとのスタンスですが、自身の権力性にあまりに無自覚で責任あるメディア企業の姿勢からはほど遠いと思います」(前出・伊藤氏)


 小誌取材班は花さんのLINE記録を改めて精査。その中からフジの責任を示す“新証拠”が見つかった。


 その証拠とは、番組スタッフと花さんのLINEのやり取りだ。スタッフが〈SNSアカウント情報の管理をさせていただければと思います〉と、ツイッターとインスタのログインパスワードを教えるよう指示。花さんはそれに従った。


人権軽視という点で地続き


「制作側に許可なく番組に関する投稿をしないよう監視するのが目的でした。そのためのSNS担当スタッフがいた。裏を返せば、誹謗中傷をリアルタイムで感知し、花さんに対策を助言したり、『死ね』などの悪質なダイレクトメッセージを見られないよう設定したりする機会もあったわけですが、特段何もしなかった」(番組関係者)


 つまりSNSを管理する一方で花さんへの安全配慮義務を怠ったといえる。響子さんが憤る。


「誓約書の読み合わせの時に、制作会社のプロデューサーが『最近の傾向として、出演者個人のSNSに批判が来る』と花に伝えたそうです。制作側は番組による炎上リスクをはっきりと認識していたのです。花が出演する前にリアリティ番組の出演者が世界で42人自死している。危険性を熟知しながら炎上を招く番組を制作し放送を続けていたのではないでしょうか」


 フジは亡くなる直前の花さんは「元気で悩んでいる様子はなかった」と主張しているが、


「巨大組織のフジに対し圧倒的に立場の弱い、スターを夢見る若者たちは無理してでも制作側の期待に応えようとするもの。私も体感してみて分かりましたが、誹謗中傷は実際に受けた人にしか分からない苦しみがある。花を危険に晒している以上、制作スタッフの皆さんには医師やカウンセラーなどにケアをお願いしてほしかった」(同前)


 響子さんは、亡くなる直前に花さんがこぼした言葉が今も頭から離れない。


「スタッフも信用していない。あの人たちは、出演者のことを人間だと思ってないから」


 花さんが亡くなってから今年で5年になる。響子さんはあの日以来「1歩も前へ動けずにいる」と言う。


対照的に、フジのスタッフたちは出世


 フジ側のスタッフの歩みはそれとは対照的だ。『テラスハウス』の生みの親で花さんの自傷行為の報告を受けた後も問題を放置したフジの40代男性チーフプロデューサーはNetflixに移籍。昨年、男性同士による恋愛リアリティ番組『ボーイフレンド』をエグゼクティブプロデューサーの肩書で企画制作し、番組をヒットに導いた。


 また制作会社所属の40代女性チーフプロデューサーは事件後も複数の人気番組に携わり、そのうちの1つが『だれかtoなかい』(肩書はプロデューサー)だった。


「所属制作会社では取締役に出世。『テラスハウス』では撮影現場に顔を出すことが少なく、現場スタッフのやらせ演出を十分にチェックしていなかった」(同前)


「フジには人権感覚が全くない」


 響子さんが嘆息する。


「お二人から花が亡くなった直後にお手紙をいただきました。“真摯に検証している”と書いてありましたが、あの言葉は嘘だったということですね……」


 フジに一連の経緯について訊くと、概ねこう答えた。


「(響子さんの主張は)我々の認識と異なる点が複数ございますが、司法の判断にゆだねております。原告の主張を伺いながら、真摯に向き合ってまいります」


 響子さんは、中居の問題を受けて「フジには人権感覚が全くない」と訴える。


「立場の弱い人たちが傷ついても、フジは面子を守るために保身に走っています。人権軽視という点で地続きの問題だと思います。中居さんの問題と同じく、花のことも第三者委員会で調査して欲しいです」


『テラスハウス』と中居問題で浮き彫りになったフジの無責任体質。若者たちの夢と命を奪った罪は重い。


(「週刊文春」編集部/週刊文春)

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