「技術よりも気合いです。逆に気合い以外の方法があるなら教えてほしい(笑)」萩原利久が振り返る最新主演映画の“名シーン”
2025年4月27日(日)7時0分 文春オンライン
キングオブコント2020で優勝したジャルジャル・福徳秀介の原作を実写化した『 今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は 』。冴えない日常を送る大学生・小西徹を萩原利久はどう演じたのか。大九明子監督への思いも語った。

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出演を決めた一番の理由は……?
──萩原さんが本作に出演を決めたのは、大九監督の作品だからという理由も大きかったそうですね。
萩原利久(以下、萩原) 大九監督とは以前もご一緒したことがあって、お名前を見た時点で、オファーをお受けする気持ちはかなり固まっていました。大九監督にはぶれない信頼感やリスペクトがあったので、怖れずに安心してチャレンジできるだろうという期待もありました。
──本当の自分をさらけ出すのが怖く、友達もほとんどいない小西をどう役作りされたのでしょうか。共感するところはありましたか?
萩原 僕はどちらかというとポジティブで合理的なので、答えの出ないことにいつまでも悩む小西の姿には、共感することはできません。でも、演じる上で大事なのは「共感できるかどうか」ではなく、「理解できるかどうか」だと思っています。「晴れている日でも傘をさす」というマイルールを固持していることや、親しい友人以外には心を閉ざしている姿などは、小西という人間を理解するのに非常に役立ちました。
役作りに関しては、普段は自分なりにキャラクターの軸となる部分をつくってから臨むのですが、小西はつかみどころがなく、軸を固めることが難しかったです。そこで今回は、共演の方や大九監督の反応を見ながら現場で役を固めていきました。僕を信頼してやらせてくれた大九監督には、感謝しています。
──本作にはかなりの長台詞もありました。どうやって覚えましたか。
萩原 あの分量になってくると、技術よりも気合いです。逆に気合い以外の方法があるなら教えてほしい(笑)。
バイト仲間のさっちゃんを演じた伊東蒼さんが、10分近く話し続けるシーンでは、さっちゃんの独白を聞いている僕も一緒に撮影しました。暗がりで、お互いの顔が見えるか見えないかという絶妙な距離感で、「相手の話を聞いているようで聞いていない」という演技をするのは大変でしたが、別撮りでは出せない温度感と空気が生み出せたと思っています。
全力で挑んだ迫力の演技バトル
──河合優実さんが演じた桜田花との「長台詞対決」のシーンも印象的でした。
萩原 僕自身も、すべてあのシーンに向かっていったのだなと思えるほど強く心に残っている場面です。表現が適切かどうかはわかりませんが、僕にとってあのシーンは、「河合さんとのカードゲームにおける僕のターン」でした。かなりの長台詞ですが、純粋にお芝居でああいった「戦い」をした経験がこれまでなかったので、演じていても楽しかったです。それに、それまでの撮影のなかで、河合さんにならどんな芝居をしても大丈夫だろうという信頼関係が構築できていたので、遠慮なく全力でぶつからせてもらいました。河合さんもそんな気持ちであのシーンに挑んでくれていたとしたらすごくうれしいです。
──本作では「セレンディピティ」もテーマのひとつでした。萩原さんはセレンディピティをどうお考えですか?
萩原 僕はあまり「セレンディピティ」という考え方をしません。起こることはすべて行動の結果で、どんなに偶然な幸運のようにみえても、それはその幸運をたぐり寄せるだけの努力を自分がしたからだと思っています。とはいえ、僕がいまこの仕事をして、大九監督と何年ぶりかでまたご一緒できたことなどを考えると、これはある種のセレンディピティなのかもしれません。
本作には「あの瞬間がここにつながっているのか」という驚きや発見、感動がたくさん潜んでいますが、それらのどこがどう響くかもセレンディピティだと思います。ぜひ劇場で確かめてほしいです。
撮影 深野未季/文藝春秋
スタイリング 鴇田晋哉
ヘアメイク Emiy(Three Gateee LLC.)
衣装協力 メイカム、ホモ・ルーデンス
はぎわら・りく 1999年生まれ、埼玉県出身。2008年にデビュー。ドラマ「美しい彼」(21年)で注目を浴び、以降、映画・ドラマに多数出演。近年の主な出演作に、映画『劇場版 美しい彼〜eternal〜』(23年)、『ミステリと言う勿れ』(23年)、『キングダム 大将軍の帰還』(24年)、ドラマ「めぐる未来」(24年)、「降り積もれ孤独な死よ」(24年)などがある。
INTRODUCTION
キングオブコント2020の優勝に輝き、熱狂的ファンも多いコント職人・ジャルジャルの福徳秀介が小説家デビューを果たした『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』を実写映画化。映画『勝手にふるえてろ』(17年)、ドラマ「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(23年)など、数々の話題作を手がけた大九明子が監督を務めた。萩原利久、河合優実をはじめ、強烈に“今”を感じさせる若手俳優が競演。物語のキーとなるレジェンドバンド“スピッツ”の楽曲「初恋クレイジー」が強烈な存在感を放っている。
STORY
思い描いていた大学生活とはほど遠い、冴えない毎日を送る小西徹(萩原利久)。唯一の友人・山根(黒崎煌代)や、バイト仲間・さっちゃん(伊東蒼)と他愛もないことでふざけ合う日々のなか、授業でお団子頭の桜田花(河合優実)に目を奪われる。思い切って声をかけると、拍子抜けするほどの偶然が重なり、意気投合。さらに「今日の空が一番好き、って思いたい」という桜田の言葉は、半年前に亡くなった大好きな祖母の言葉と同じだった。ようやく自分を取り巻く世界を愛せそうになった小西だが、運命を変えるできごとが起こる──。
STAFF & CAST
監督・脚本:大九明子/出演:萩原利久、河合優実、伊東蒼、黒崎煌代、安齋肇、浅香航大、松本穂香、古田新太/2025年/日本/127分/配給:日活/©2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会
(相澤 洋美/週刊文春CINEMA)