川中美幸「母の生きざますべてが遺言だった。母の好きだった松竹新喜劇、今の自分やからこそ出してもらえるんやろうな」

2024年4月28日(日)10時0分 婦人公論.jp


(撮影◎中西正男)

2月21日に発売した新曲「人生日和」が有線の演歌歌謡曲リクエストランキングで1位を獲得するなど、力強く歩みを重ねる演歌歌手の川中美幸さん(68)。5月に行われる松竹新喜劇公演にも初出演し、新たな一歩も踏み出します。歌手生活47年。道のりを支えてきたのは2017年に亡くなった母・久子さんの教えだといいます。(取材・文・撮影◎中西正男)

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前回「海原かなた76歳「相方の薄い髪をフッと吹いたらドーンと笑いが」50歳で売れた男が語る〈辞めたらアカン〉の力と自らの引き際」はこちら

松竹新喜劇さんに出してもらうことに


歳を重ねると、去年できていたことができなくなる。身長も低くなる。そんなことを日々感じます。「しんどいなぁ」となることも増えてきます。(笑)

ただ、歌手をやって47年。本当にいろいろなことを経験してきましたし、歳を取ることの意味も感じています。今回、初めて松竹新喜劇さんに出してもらうことになりました。これもね、今の自分やからこそ出してもらえるんやろうなと思います。

昔から松竹新喜劇は大好きで、亡くなった母とずっと見てました。そんなことが影響しているのか、自分のコンサートもね、よく考えたら松竹新喜劇に似た味になっているなと。トークで笑ってもらって、話の内容によっては涙を流してくださる方もいらっしゃる。そして、もちろん歌でも楽しんでいただく。あらゆる感情を揺さぶることが、泣き笑いの松竹新喜劇と共通しているのかもしれない。そんなことを思ってはいたんです。

先日、松竹新喜劇の方とお食事に行かせてもらった時に「いつか出たいんです」と思い切って言ってみたら、言霊というのか、それが実現しました。

売れない時期があって本当に良かった


今までね、夢なんて口にするものではないと思っていたんです。静かに自分の中に秘めておくものだと。でも、口に出すことで実現するものもある。それを今回教えてもらいましたし、それと同時に、言霊が成立するのは日々の自分がきちんと暮らしていてこそ。積み重ねをしていてこそ。この歳になって、それも感じました。


(撮影◎中西正男)

47年を振り返ると、歌手として大きかったのはやっぱり最初のヒット曲「ふたり酒」。これで人生が変わりました。世界が変わりました。それまでは売れない時代が続いてましたから。でもね、売れない時期があって本当に良かった。それも今思うことです。

常に「いい気になるなよ」と言ってくる自分がいてくれるんです。「今は商品価値が出てきたから、皆さんがいてくださる。でも、そうじゃない世界なんてまたすぐに来る。その世界を知ってるやろ?」。それを言い続ける自分がいる。だからこそ、なんとかやってこられたんだと思います。

若い時の苦労は買ってでもしろ。そんなことを言いますけど、正直、苦労の中にいる時は「そんなことまでして苦労なんてしたくないわ!」と思ってました(笑)。でも、それがあってこその今だとつくづく感じています。

母の生きざま全てが遺言だった


そう思える根本にあるのが母の教えでしょうね。ある程度、私がお金をいただけるようになっても、母は大阪でやっていたお好み焼きの店をやめなかったんです。「今は元気に歌えているけど、歌えなくなっても生活ができるように私がつないでおくから」と。

一人のお客さまから何百円の儲けをいただいて暮らしていく。その中で母が示してくれていたこと。今から思うと、母の生きざま全てが遺言だったと気づきました。

嫌なことから逃げたらアカン。いつもニコニコしてなアカン。人によって態度を変えたらアカン。全てが教えやし、母が亡くなってから言葉がより一層色濃くなってきました。

そしてね、自分の引き際、そんなことを尋ねられる歳にもなってきました(笑)。ボロボロになるまで舞台に立つとか、まだまだできるうちに引くとか、いろいろな考え方があると思います。ただ、私の場合、そういう美学は日によって変わるんです。

「ステージの上で死ねれば幸せ」と思う時もあったら「そんなことしたら、片づける人が大変やで」と思う時もある(笑)。本当に変わるんです。

明日どうなっているか分からない


寝起きが悪かったら「もうアカンわ」と思う。お肌の調子が良かったら「あと10年はできる!」と思う。それが本当のことだし、人の考えは変わります。物事に絶対はない。絶対ということはただ一つ。人間は絶対に死ぬということだけ。それを最近つくづく思います。

明日どうなっているか分からない。だからこそ、結局、今日必要とされていることを精いっぱいやる。それしかないんやなと。

今の歳にならないと分からないこともある。その歳にならないと表現できないこともある。それがあるから、松竹新喜劇にも出してもらえる。なので、歳を取ることを悪いことと思わず、積み重ねを続けていけたらなと思っています。

…まじめなことばっかり言い過ぎましたかね(笑)。でも、今本当に思うことですし、一つ一つ感謝しながらやっていけたらと考えています。

■川中美幸(かわなか・みゆき)
1955年12月5日生まれ。大阪府出身。本名・山田岐味子。73年、春日はるみの芸名でデビューするも低迷。77年、川中美幸に改名しテイチク・レコードより「あなたに命がけ」で再デビューする。80年に発売した「ふたり酒」がミリオンセラーとなりヒット歌手の仲間入りをする。81年、『NHK紅白歌合戦』に初出場。以後、紅白には計24回出場する。NHK連続テレビ小説『てっぱん』(2010年)にレギュラー出演。今年2月発売の新曲「人生日和」が有線の演歌歌謡曲リクエストランキングで1位を獲得。大阪松竹座での公演『松竹新喜劇 喜劇発祥120年』(5月10日〜19日)に出演する。

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