「癌は治る。頑張れ。俺のドラマはダメだったけど(笑)」ステージ4のがんで入院した見栄晴(57)に届いた木梨憲武からの粋すぎる“メッセージ”「普段こんな真面目なことを言う人じゃないのに」――2024年読まれた記事

2025年4月29日(火)8時0分 文春オンライン


2024年、文春オンラインで反響の大きかった記事を発表します。重病・難病部門の第5位は、こちら!(初公開日 2024/08/31)。



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 下咽頭がんのステージ4を宣告されてから現在に至るまで、その経緯を自身のインスタグラムで細かく発信していた見栄晴さん(57)。


 多くのファンからの反応と同時に、たくさんの仕事仲間のお見舞い報告も含まれていた。見栄晴さんの心に残った、友人や師匠からの心遣いを伺った。



見栄晴さん ©文藝春秋 撮影・石川啓次


◆◆◆


木梨憲武から届いた『癌は治る。頑張れ。俺のドラマはダメだったけど(笑)』


——たくさんのお知り合いの方々がお見舞いに駆けつけられていましたね。闘病中の、周りの方々との印象深い出来事を教えてください。


見栄晴 昔から可愛がってくれてる(木梨)憲武さんとのやりとりは印象に残ってます。俺が番組で癌を公表したら、ノリさんからすぐにショートメールがきて。


『癌は治る。頑張れ。俺のドラマはダメだったけど(笑)』って。


 そのときちょうど、ノリさんがドラマで、癌になって余命宣告される役を演じてたんですよ。最後の文はシャレてるけど、普段こんな真面目なことを言う人じゃないんですよ。だから逆に、本当に心配してくれてるんだなとも思いました。


1カ月気づかなかった、萩本欽一からのお見舞金


——師匠の萩本欽一さんとご連絡は取られましたか?


見栄晴 大将には番組で公表する前日に、電話で直接伝えました。「治る治る、今の医学は進歩してるから」って励ましてくれました。最近はテレビで一緒になることは少ないけど、プライベートではしょっちゅう電話してるんですよ。大将が持ってる馬を俺が管理してるっていうのもあるしね。


 そしたら翌日、俺の口座に黙ってお見舞いを振り込んでくれてたんですよ。でも普段使わない口座だから全然気が付かなくて、1ヶ月くらいしてから事務所の人からメールがきて、初めて気が付いたの(笑)。大将も言ってくれればいいのに、恥ずかしがりのところがあるからわざわざ言わないんですね。


——入院中、ご家族はいらっしゃったんですか?


見栄晴 来なくていいって言ってました。入院は1週間ずつだったし、元気だから来てくれてもやることないんですよ。毎週金曜日だけ、奥さんに競馬新聞をお願いしてました。病院内にローソンがあるんだけど、流石に競馬新聞は売ってなくて(笑)。土曜日は、大学時代の親友がわざわざ川崎から車で来て、毎週買ってきてくれました。


——競馬はやはり、闘病中の楽しみでしたか。


見栄晴 うん。病院も土日は休みだから、点滴入れてるだけなんですよ。これまでは仕事だったから、土日にこんなゆっくり競馬を見たことなかったし、家にいることもなかったから不思議な感じですよね。身体は元気だったから「俺休まなくてもいけたんじゃないかな」って思いながら家で『競馬予想TV!』を観てました。


——弱音みたいなものをどこかに吐くことはありましたか?


見栄晴 治療に関するツラさがあったら、インスタにあげてたと思います。感情的なところでいうと、やっぱり癌になってからの夜はね、寂しい。今まで夜は毎日お酒を飲んでたから、憂鬱になることはなかったんだけど。これから一生こうなのかなって思うと……お酒はやっぱりね、飲みたい気持ちはあります。


——もう、すっかり飲んでいないですか?


見栄晴 飲んでないですね。それがわかってたから入院前日まで飲んでたけど(笑)。病院で喉の写真を見せてもらっている間に怖くなって、タバコもやめたしね。


「タバコは本当にやめられたな。……でも」


——大好きだった嗜好品をいきなりやめるのは大変ではなかったですか?


見栄晴 人間ね、本当に切羽詰まるとやめられます。実は先生に、「ノンアルもダメですか?」って聞いたことがあるんです。そうしたら放射線科の先生は絶対ダメだって言うけど、耳鼻科の先生は0%ならいいかな? って感じだったんです。だからたぶん、本当はいいんだと思う(笑)。


 でも、僕も一応聞いてるだけなの。ノンアルを飲むぐらいだったら飲まなくていいかなと思うし。今日の夜もヒデ(中山秀征)と久しぶりに飯を食うんですけど、そこでも飲まない。


——中山さんは飲まれる方ですか?


見栄晴 ヒデはたぶん飲むんじゃないかな。退院後に何度か飲みの席には行ってるけど、俺には気を遣わないでって言ってます。お酒は未練があるけど、タバコは本当にやめられたな。……でも、70歳を過ぎたら吸うかもしれない。いや、65歳かも(笑)。


——65歳は早くないですか?


見栄晴 癌って5年経ったら完治らしいし、自分の生き方として自制しつづけるのはどうなんだろうって思っちゃう。だから実は「一生お酒は飲みません。タバコも吸いません」ってことはインスタにも書いてないんですよ。


——現在、お酒やタバコの代用品みたいなものって見つかりましたか?


見栄晴 退院して3週間後くらいから味覚も戻ってきてるんで、今いろいろ試しているところです。味覚障害を経て甘いものが好きになって、3キロ太っちゃったの。だから次回の検診では、採血もお願いして、糖分の数値も調べてもらおうと思って。飲み物はコーヒーだと利尿作用がちょっとキツいから、水を飲むようにしてるんだけどね。


「死ぬことは怖くないけど、生きたいんだって」


——通院を終え仕事にも復帰し、経過観察中となった今、一番楽しいことってなんですか?


見栄晴 当たり前のことが当たり前にできてること。癌になる前は、土曜日の夜が一番好きだったんですよ。『競馬予想TV!』を終えて家に帰って、まずビール。で、タバコを吸ってご飯食べて、次の日は休みだから競馬予想をしながらゆっくり寝れる。


 今は、お酒は飲めないけど仕事に復帰できて、ものすごい充実感。“帰ってきた土曜日”っていう感覚です。


「仕事に関しても、改めて考えたような気がするんですよ」


——生きること、死ぬことに対しての意識に変化はありましたか?


見栄晴 今でも死ぬことは怖くないですよ。でも、自分が生きたいんだって思いました。


——そんな見栄晴さんが、「声を失うと完全に仕事を失ってしまう」と仰ってたのが印象的です。


見栄晴 この世に生きてる意味が感じられなくなる恐怖なんですよね。それぐらい、仕事ができなくなるのは僕にとってツラいこと。


 その仕事に関しても、改めて考えたような気がするんですよ。15歳からこの仕事をして、気がついたら42年。他の仕事もしたことないし、現実的に考えたら今の仕事以外のお金の稼ぎ方がわからなくて。競馬をやってきたから貯蓄もない(笑)。そう思ったときに、働けなくなったら生きてる価値があるのかなって。


 僕は昭和の人間なんで、「男が稼いでなんぼ」みたいな考えが正直残ってるんです。今ダメなのはわかってるけど、自分のこととしてはどうしてもね。俺の両親がそうだったっていうのもあるのかな。


——見栄晴さんにとって、お母様の存在はやはり大きいですね。


見栄晴 そうですね。僕は無宗教なんですけど、先祖は大切にしてるんです。その先祖が僕のことをいろいろ決めてるような気がするんです。だから、僕を癌にしたのがおふくろだとしたら、どういうつもりだったのか聞きたいんですよ。


 よく「お母さんが治してくれたんだよ」なんて言う人もいるんですけど、「だったら癌になる前に守ってよ!」って思いますから(笑)。でも大腸の早期発見もあったし、もしかしたら病院に行くきっかけをくれたのかも、とかね。そう思うと、おふくろが僕に与えた試練だったのかも。


「人間の根本って、やっぱそんなに簡単に変われないのかなって思うけど」


——これからの目標はありますか?


見栄晴 目標はないです。今までも目標って持ったことがなかったから、本当に正直に言うと、癌になっても何も変わってないのかもしれないです。「こう変わりました」とか美談で終わりたいような気もするんだけど(笑)。


 人間の根本って、やっぱそんなに簡単に変われないのかなって思うけど、人間って切羽詰まったら強いんだっていうのはわかった。勉強になったことはすごいあったし、今後この経験を活かして生きていくんだろうなとは思います。


 あ、同じ癌の人に自分の経験を伝えたい思いはあるかな。癌の知識をどういう風に活かせるかはわからないけど、先生とか看護師さんに「みんな前向きじゃなくなっちゃうのに、なんでそんなにツラそうじゃない顔してるの?」ってすごく聞かれてたし。


 実際本当に治療はツラくなかったし、医学って本当に進歩してるし、そんなに簡単に死なないから、前を向いて頑張って治療してほしいです。


 終焉って必ずくるけど、また癌になっちゃうのか、ならずに死ぬのか、今後のことってわかんないじゃないですか。でもこの期間の意味は、今後の人生でわかるんだろうなって思ってます。


(佐々木 笑)

文春オンライン

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