企画から撮影開始までわずか1か月、“奇跡”に“運命”も…『街並み照らすヤツら』Pが明かす放送実現の舞台裏

2024年5月11日(土)6時0分 マイナビニュース

●通常は1年以上かけて準備する連ドラ撮影
SixTONES森本慎太郎が主演する日本テレビ系ドラマ『街並み照らすヤツら』(毎週土曜22:00〜)。潰れかけのケーキ屋店主が店と家族を守るため、偽装強盗という悪事に手を染めてしまうことから予期せぬ展開が次々に巻き送るヒューマンエンタテインメントだ。
当初予定していた小学館漫画原作ドラマの制作が中止となったことから、急きょ立ち上がった今作。連ドラは通常1年以上準備をかけて撮影に臨むところ、企画の立ち上げからクランクインまでわずか1か月という期間の中で、無事4月から放送が走り出した。
その舞台裏では何が起きていたのか。藤森真実プロデューサーに話を聞くと、この作品を何とか世の中に届けようと一つになる現場や、信頼関係で結ばれたキャスト・スタッフたちの様子が伝わってきた——。
○今このタイミングだからこそできる作品を
土曜22時枠で予定していた作品の準備を取りやめ、新たにオリジナルドラマを制作することが決まったのは、2月中旬のこと。今回の企画は、将来の放送のために構想していたものではなく、この中止決定を受けてゼロから作り上げたものだ。
「このチームでドラマを作りたいという気持ちがあったので、今このタイミングだからこそできる作品を考えていこうとなりました。この短期間で制作に臨むというのはみんな初めての経験だったのですが、一致団結して進めてきました」(藤森氏、以下同)
監督や脚本家と企画を考える中で話題に上がったのは、刑事が張り込み捜査のために引き継いだチキン店が繁盛してしまう韓国映画『エクストリーム・ジョブ』や、銀行強盗のカモフラージュのために始めたクッキー屋が繁盛してしまう米映画『おいしい生活』。これらをヒントに、寂れていく商店街の人たちが復興に向けて正しい方策でなく、保険金目当てで偽装強盗に手を染めるという誤った手段を選択し、様々な騒動が巻き起こる……というストーリーが練り上げられた。
脚本作りがスタートしたのは、クランクインの1か月前。このため、キャスティング、スタジオの美術セットの発注、主題歌のオファーについては、「ざっくりとした全体のお話と、第1話のプロット(あらすじ)みたいなものを作り、作品に込めた思いを説明しました」という形で進めたが、それぞれが事情も察してくれた上で快諾し、順調に動き出した。
○森本慎太郎のキャスティングは「本当に奇跡的なこと」
主人公・正義役の森本をキャスティングできたのも「本当に奇跡的なことだったと思います」と振り返る。
「主人公は本当に商店街にいるような普通の青年なので、皆さんに親しまれている人がいいなと思ったときに、『だが、情熱はある』での山里(亮太)さんの役や、『ザ!鉄腕!DASH!!』で体を張ってみんなで頑張る姿も見ていて、この役に合っていると思ってオファーしたら受けていただきました。通常であれば、顔合わせの2〜3カ月前にプロデューサーが会って話をした上で…という感じなのですが、それもないのに快く“頑張りましょう!”と言ってくださって。本当に感謝ですし、現場を引っ張ってくれているので、本当に素晴らしいです」
ケーキ屋の店主役ということで、本業の職人からケーキ作りの特訓も受けたが、「ものづくりが得意な方ですぐに習得していったので、そこもさすがだなと思って見させていただきました」と、限られた期間でモノにした。
そんな正義の妻・彩を演じる森川葵についても、「気の強さと、引っ張ってくれる感じがありながら柔らかさがあり、悲しみも表現できる人はなかなかいないなと思っていたときに、森川さんがいいなと思ったんです。森本さんとは『ナンバMG5』(フジテレビ)でご一緒されていたので、夫婦という芝居感を短期間で出しくれました」と、見事にハマった。
●ベテラン名コンビが急ピッチで脚本執筆
近年は各局で連ドラ枠が急増し、ただでさえキャスティングの難易度が上がっている中で、ほかにも、月島琉衣、浜野謙太、吉川愛、曽田陵介、萩原護、宇野祥平、皆川猿時、伊藤健太郎、船越英一郎という、クセ者だらけの登場人物を演じるにふさわしい役者陣のブッキングに成功。「スケジュールの合間を縫って出てくださっている方がほとんどなのですが、内容の面白さを含めて、“これだったらやりましょう!”と参加してくださったので、本当にありがたいです」と感謝する。
顔合わせからクランクインまで、わずか10日。当初はセリフを覚えるのも苦労が見えていたそうだが、「脚本の高田(亮)さんと清水(匡)さんが急ピッチで打ち合わせして書いてくださっているのですが、2話の放送時点で6話ぐらいまで出来上がっているんです。なので早く台本を渡して、皆さんも先が分かった上で演じることができていると思います」とのこと。
それができるのは、脚本を担当するベテランの2人が数十年来の仲で、様々な作品を共に作ってきた関係値がある。「おかげで、役者の皆さんに台本の部分だけは苦労をかけないようにできていると思うので、あのおふたりに脚本を書いていただけたことも、運命だなとすごく感じています」と感激した。
○タイトな期間も書き下ろしの主題歌を選択
ドラマの主題歌に、イメージに合った既存の楽曲を使用するケースは珍しくない。それでも今作は、タイトな準備期間にもかかわらず、ササノマリイに書き下ろしを依頼し、「窮鼠(きゅうそ)」がエンディングに流れている。そこには、どんなこだわりがあるのか。
「こんなに時間がない中で悠長なことは言っていられないはずなので、有り物の曲でも全然良かったのですが、ドラマは、主題歌とともに一緒に認知してもらうほうが、やっぱり大事だと思うんです。なので、ちょっと無理を言って作っていただきました(笑)」
ササノは「あらすじを見せていただいた時点で、“これは好きなやつだ…”となり、この作品に寄り添える曲を…と作らせていただきました。個人的な部分ではありますが、今回制作するにあたって“自分が楽曲制作でやってこなかったことをたくさんしよう”と追い込んでみました」と思いを語っている。
○森本衝撃の商店街セット「何者だ!?」
撮影については、スケジュールの都合も考え、「スタジオで撮れるものは撮ってしまおう」という姿勢。そこで、ケーキ屋「恋の実」周辺の商店街の一角を、美術セットで建てた。森本は「街一個作ったのかと思いました。コンクリート敷いて、電柱も立って、電線も通って、それをこの期間で作ってるから、(美術スタッフは)“何者だ!?”と思っちゃいますよね(笑)」と驚きを隠せない様子を見せていた。
藤森氏は「普通だったら1話・2話の台本を作ってから美術打ち合わせですが、企画書の段階で“こういうものが欲しいんです”とご相談したので、美術スタッフの皆さんもこんな経験はないと思いますが、“何より一番大事なのは、ちゃんと放送できるということだ”という思いで作ってくれました」と振り返る。
一方でロケを行う場合は、都内の商店街をメインに、その近場の公園などを利用。これにより、時短効果に加え、「本当にリアルなコミュニティで起こっていること」が映し出されている。
●バラエティ制作の経験も生きる「何とかなるでしょ!」
こうして急ピッチの作業で無事放送にたどりつくことができた今作。藤森氏は以前、バラエティの制作現場にいたが、「バラエティは、急にゲストが決まって新しい企画を立ち上げなきゃいけないということが結構当たり前で、それがどんどんやってくる感じがあるんです。さすがに今回、ゼロから立ち上げて1か月でクランクインというのは焦りもありましたが、“何とかなるでしょ!”という気持ちで取り組むことができたのは、バラエティの経験があったからかもしれません」と分析する。
また、すべてのキャスト・スタッフから、「自分1人が欠けたら作れないんだ」という高い意識と熱気を感じながら制作しているという。
「もちろんどの作品でも皆さん熱い思いはあるのですが、普通のドラマは毎回チームが代わり、最初は探り合っていてだんだん仲が深まっていく感じのところ、今回は最初の時点で“これは頑張って放送して、みんなでいいものを作るんだ!”というプロジェクトの感じがありました。だから最初からコミュニケーションが取れて、誰一人文句も言わず、とてもいい現場だなとすごく思っています」
そして、今回の経験を通して、「この作品は、私一人が頑張ろうと言っても絶対に作れませんでした。周りの人をいかに信頼できて、信頼してもらえて作っていくかというのが、ドラマはバラエティよりも大事だと思うんです。これからも、周りの人たちに信頼を持ってもらうために、感謝して頑張らなければと、改めて気付かされました」と、思いを新たにした。
○ドラマ作りに込める思い「信頼できる人が隣にいるということ」
きょう11日に放送される第3話には、伊藤健太郎が久々に地上波ドラマに登場しており、「正義の運命に関わる人物として出てきて、新たにドラマを引っかき回していく役どころなので、ポイントです」と予告。また、「正義は本当にいい人だったのに、一度悪い方向に行ってしまうとそれがどんどん加速していくので、どこまで進んでどうなってしまうのかにも、注目して見ていただけたらと思います」とも語る。
今作で1つの柱として描かれるのは、結婚7年という年月を重ねた夫婦の関係性だ。「ちょっとなあなあな関係になっている中で、妻の日々の鬱憤(うっぷん)が爆発するとともに、シュン(曽田陵介)という新しい男性が出てきてそっちに気持ちが向いてしまったり、リアルな夫婦の感じが3話から5話へどんどん出てきて、結婚して5年以上経った人たちにすごく共感してもらえると思います。パートナーの大切さを感じるかもしれないし、もしかしたら“一緒にいていいのだろうか…”と思うかもしれませんが、自分に置き換えて見ていただければ」と呼びかけた。
ここには、藤森氏がドラマ作りにおいて一貫している思いが込められている。
「人って、自分のためだけだったらなかなか変わらないし、変われないんだろうなと、すごく思うんです。だから、夫婦もそうですし、仲間もそうですし、いつも近くにいる人が本当に大切な人だということにちゃんと気づけることが、すごく大事だなと。それは正義にとっての彩もそうだし、商店街の仲間たちを助けたいという気持ちもそうです。信頼できる人が隣にいるということが、どれだけ大切なことで、かけがえのないことかを伝えたくて、日々作っています」
今作では異例の制作スケジュールによって、多くの仲間たちによる協力を特に感じているだけに、その思いは一層込められているようだ。
●藤森真実1983年生まれ、千葉県出身。早稲田大学卒業後、07年に日本テレビ放送網入社。バラエティ制作からスタートし、『行列のできる法律相談所』『人生が変わる1分間の深イイ話』『メレンゲの気持ち』『ニノさん』『しゃべくり007』などを担当。ドラマ制作に異動し『ハコヅメ 〜たたかう!交番女子〜』『祈りのカルテ』『Dr.チョコレート』『となりのナースエイド』『街並み照らすヤツら』などをプロデュースする。GP帯ドラマ初担当の『ハコヅメ』は第48回放送文化基金賞でテレビドラマ番組最優秀賞、個人でも2022年エランドール賞プロデューサー奨励賞を受賞した。

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