「死んだら出してもらおうと思っていたけど」がん治療による1年半の休載を経て…夢枕獏が「最終話を先に出す」前代未聞のチャレンジをした理由
2025年5月16日(金)7時0分 文春オンライン
「『キマイラ』も、連載44年目に突入しました。これは病気をする前から読者に言われていたことなんですが、『キマイラを早く終わらせてほしい』と。ちゃんとシリーズの最後まで読ませてほしい、ということですよね。その気持ちは僕にもよく分かります」
「陰陽師」シリーズや「餓狼伝」シリーズなど、数々の小説を発表し、読者を楽しませ続ける夢枕獏さん。3作連続で著作が刊行されるのを記念して、サイン会&講演会「キマイラを語り俳句を謡(かた)る」が開催される。

刊行されるのは『仰天・俳句噺』(文春文庫)、『キマイラ聖獣変』(ソノラマノベルス・朝日新聞出版)、『キマイラ23 魔宮変』(角川文庫)。3作のうち、どれか一冊を購入することが参加申し込みの条件だ。
己の内に幻獣・キマイラを秘めた高校生の大鳳吼と久鬼麗一を中心に、壮大な物語が展開する伝奇大河小説「キマイラ」。『キマイラ聖獣変』は、がん治療による1年半の休載を経て連載再開した分が一冊にまとめられたシリーズ最新刊にして、“最終話を先に書く”という前代未聞の試みがなされている。
「『キマイラ』のラストは、この20年くらい、僕の中で想定していたものがあったんです。病気のあと、そのラストを先に書く覚悟ができたんですね。もし僕が『キマイラ』を書き終えずに死んだら、それを本にして出してもらおうと思っていた。でも、書き上げたら出したくなっちゃって(笑)。もちろん、前回からの続きもまた書きますよ」
今回のイベントは2部構成。前半に行う講演会は、「物語が終わるとはどういうことか」をテーマに語る予定だという。
「僕ももう50年近く書かせていただいて、奇跡のようです。皆さんに感謝ですね。いろんなシリーズを書いてきて、まだ終わっていない連載もけっこうあって。そんな中で、常々考えているのが、『物語が終わるとはどういうことか』ということ。今回はこれを喋らせていただこうと思います」
イベント後半は、ゲストに清元節の三味線方・清元斎寿さんと、浄瑠璃方・清元栄寿太夫さん(歌舞伎役者の尾上右近さん)兄弟を迎えて、清元の演奏が披露される。その題材は“夢枕さんが詠んだ俳句”だ。
「お二人とは以前、夢枕版『怪談 牡丹灯籠』というイベントでご一緒したんです。その時に、斎寿さんから清元のことをいろいろ教えてもらったのですが、僕が『俳句って清元で謡えるんですか?』と聞いたら、『作曲すれば謡えます』と。じゃあということで作曲をお願いして、今回のイベントで披露していただくことになったんです。
斎寿さんが『僕は、唄は専門ではないので、専門の者を連れてきます』と仰ってくださって、弟の栄寿太夫さんが当日、歌舞伎座から駆けつけてくれることになりました」
夢枕さんが、がんの治療のため10本以上あった連載のほとんどを休んだ際に、「入院中に作った俳句のことを書かせてほしい」と始まった『仰天・俳句噺』。その中で紹介される自作の句が、今回特別に、清元で披露されるのだ。
「そして、『キマイラ』の登場人物に岩村賢二という放浪の詩人がいるのですが、彼の詩——つまり僕が作った詩ですが、これも清元でやっていただくことになりました。どの詩になるかは、当日のお楽しみということで」
また現在、朝日新聞社の「コンコースギャラリー」にて、イベントに関連した展示会を開催中(入場無料・5月19日14時ごろまで)。天野喜孝さん、寺田克也さんによる『キマイラ』の装画や、『仰天・俳句噺』の中で紹介される夢枕さんの書や小説の生原稿、そして、松本大洋さんが描き下ろした『仰天・俳句噺』のカバーイラストなどを一度に観ることができる貴重な機会となっている。
「年月を追うごとに読者が減っていってしまうのはシリーズものの宿命かもしれません。でもせっかくなら、今からでも新しい読者が増えてくれればと思っているんです。作者が言うのもなんですが、『キマイラ』をはじめ、どのシリーズも、面白いんですよ」
ゆめまくらばく/1951年神奈川県生まれ。77年『カエルの死』でデビュー。89年『上弦の月を喰べる獅子』で日本SF大賞、98年『神々の山嶺』で柴田錬三郎賞、2011年刊行の『大江戸釣客伝』で泉鏡花文学賞、舟橋聖一文学賞、吉川英治文学賞を受賞。「餓狼伝」「陰陽師」「闇狩り師」等、人気シリーズ多数。
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サイン会&講演会「キマイラを語り俳句を謡る」
6月7日(土)16時45分〜19時予定
朝日新聞東京本社 読者ホール(東京都中央区築地5-3-2 朝日新聞東京本社2F)
3冊のうちいずれかを購入の上、キャンペーン帯に記載のQRコードより申し込み(申し込みは6月1日まで/応募多数の場合は抽選)。
https://www.kadokawa.co.jp/topics/13835/
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2025年5月22日号)