「7日間ごとに交代しなければ恐ろしい変化が…」デミ・ムーア(62)の怪演が話題! ルッキズム批判のグロテスクホラー 「サブスタンス」を採点!
2025年5月20日(火)12時0分 文春オンライン
〈あらすじ〉
元トップ女優のエリザベス・スパークル(デミ・ムーア)は、50歳となった今、映画界からは忘れ去られ、長く続けてきたエアロビクス番組も年齢を理由に降板が決まった。意気消沈する彼女が出会ったのが再生医療「サブスタンス」。結果、生まれてきたのは、より若く美しく完璧な体を持った“もう1人の自分”であるスー(マーガレット・クアリー)である。
スーは、エリザベスの後継として新番組に抜擢され、瞬く間に人気者となっていくが、実は「サブスタンス」には、エリザベスとスーとを、7日間ごとに交代しなければいけないという厳密なルールがあった。しかし、ルールを破り、スーでいる時間のほうを優先するようになると、エリザベスの体には恐ろしい変化が待っていて……。
〈見どころ〉
第97回アカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞している本作。残酷なまでにリアルな加齢表現やグロテスクだが目を逸せない特殊メイクに注目を。狂気の暴走をユーモアを交えて描いた強烈なラストも必見。
ルッキズムに翻弄される元スター。その末路を強烈な映像で描く!
監督自身が女性として経験したことを題材に、ルッキズムやエイジハラスメントへの批判を込めて作ったSFホラー。衝撃的な映像表現もさることながら、美と若さに執着する50歳の女優を演じたデミ・ムーア(62歳)の怪演も話題となり、世界の映画祭で高い評価を得た。

芝山幹郎(翻訳家)
★★★★★話の大筋は驚くほど古典的だが、混乱と崩壊の描写が、恐れを知らぬガッツに支えられている。グロテスクな特殊メイクや血糊の大量放出など、キワモノ映画の常套手段を図太く用いて時代の急所を射抜こうとする姿勢が果敢。デミ・ムーアの怪演にも助けられ、怒りと精気が画面に溢れる。
斎藤綾子(作家)
★★☆☆☆展開が奇怪で、特殊メイクに感服するのが精いっぱい。自我の奪い合いをしたくなる分身との行き来が出来るなら、老いた女の体からしなやかに動く若い男の体躯に羽化したい。もっとスプラッターな結末になろうが、発情する肉体の恍惚には執着するはず。
森直人(映画評論家)
★★★★★デミ・ムーアには星10個差し上げたい気分。『ドリアン・グレイの肖像』のフェミニズム&ホラー的応用と整理できる“若さと美貌”の風刺劇。衝撃の肉体変容を引き受けたムーアが発揮する捨て身の怪力に痺れた。定型的な美はAIこそ得意だが、情念の爆発は生身の人間=俳優でないと!
洞口依子(女優)
★★★★☆“老いは弱虫の居場所じゃない”とはハリウッド女優ベティ・デイヴィスの言葉だが、古い岩石を粉砕し化石を発見した衝撃にも似た感動と力強さを体現する60代のデミ。そこに得体の知れぬ若さの恐怖を注入するマーガレット。その肉体変幻はクローネンバーグ作品のボディーホラーを想起。
今月のゲスト
マライ・メントライン(著述家)★★★★☆老境にて、もし「若き自分」のプロデュース権をゲットできたら、より良き人生を開拓できるのか…? という人類不滅の疑問を生々しく描いた快作。『アマデウス』のサリエリ感沸騰なデミ・ムーアの熱演も凄いが、アメリカ的設定をフランスの毒性エスプリで纏め上げた監督の力量にも注目!
Marei Mentlein/1983年、ドイツ生まれ。テレビプロデューサー、コメンテーター。そのほか、自称「職業はドイツ人」として幅広く活動。
INFORMATIONアイコン
『サブスタンス』
監督・脚本:コラリー・ファルジャ(『REVENGE リベンジ』)
2024年/イギリス・フランス/原題:The Substance/142分
全国ロードショー
https://gaga.ne.jp/substance/
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2025年5月22日号)