中井貴一が語る名付け親・小津安二郎の「粋」…舞台「先生の背中」、初めは断った主演

2025年5月29日(木)15時0分 読売新聞

小津映画のように、感情を抑えたせりふ運びで芝居が進むという。「何もできなくて棒読みになるのと、色んなことができるけど棒読みでやるのは、やっぱり違う」(写真・宮川舞子)

 日本映画の巨匠、小津安二郎をモデルにした舞台「先生の背中〜ある映画監督の幻影的回想録〜」が6月8〜29日、東京・渋谷のパルコ劇場で上演される。小津とは家族ぐるみで深い縁があった中井貴一が、主人公の小田昌二郎を演じる。(武田実沙子)

 あまりにも近く深い関係性ゆえ、初めは出演依頼を断ったと明かす。父の佐田啓二は「秋刀魚さんまの味」をはじめ小津作品に出演した銀幕のスター。母は撮影所前にあった食堂の看板娘で、小津にかわいがられた。さらに小津は中井の両親の仲人であり、「貴一」の名付け親でもあった。

 映画監督で、今回の演出を担う行定勲から「小津の人物像を残したい」と強く迫られ、最終的に説き伏せられた。「今でも戸惑っています」と苦笑する。

 舞台は1960年代初め。小田は新作「秋刀魚の歌」の撮影を始めたが調子が出ず、食堂の看板娘(芳根京子)や名女優(柚希礼音)に心配される。最後の1本になるかもしれないと死への恐れを抱くうち、かつて深い仲にあった元芸者(キムラ緑子)や戦争で夫を失った女性(土居志央梨)、銀座のホステス(藤谷理子)の幻が眼前に現れる。

 劇団「ラッパ屋」の鈴木聡が書き下ろした脚本は、晩年の小田が5人の女性とのやりとりから人生を回想する構成になっている。その中で、様々な小津作品のオマージュや実際にあった出来事もちりばめられている。「小津先生は自分の人生のワンカットを使って映画の演出をつけていたんだと、見てもらえたら」

 中井家に伝わる「小津イズム」とは、「粋であること」だと言う。今作にもそれが色濃く反映されている。「目に見えないもの、人とのつながりや心の持ちようをとても大切にされていた」

 中井が2歳の時に小津は他界したが、母は折に触れて粋なエピソードをいくつも教えてくれた。例えば、中井が母をうなぎ店に誘った時に、聞いた話がある。小津から「タクシーに乗ってうなぎを食べに行こう」と誘われた母が「ぜいたくです」と固辞すると、「ぜいたくはするものなんだよ。ぜいたくは心を豊かにする」と返した——。

 母が知るのは、飾らない、オフの小津の姿だった。小津について書かれた本を読んだ母は「うそばっかりよ。すてきな人だったけど、こんな英雄みたいじゃない」と言っていた。「おふくろに台本を読ませたかったですよ」としみじみ語る。

 中井の手元には、小津が酔っぱらって書いたような手紙が残る。その筆致を見て、思った。「粋は、アナログの中に存在している。インクの染みまで粋に見えるっていうのが、生きる目標なのかなと思います」。(電)0570・00・3337。

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