【インタビュー】脚本家・徳尾浩司、絶妙なバランスで成り立つ『おっさんずラブ』の軌跡「想いが溢れて爆発しちゃった」

2019年8月26日(月)7時45分 シネマカフェ

『劇場版おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~』 (C)「劇場版おっさんずラブ」製作委員会

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『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』が大好評、公開中だ。2016年に放送された単発ドラマののち、2018年に放送された連続ドラマはキャスト、スタッフの高い熱量がお茶の間にあれよあれよと広がり、視聴者の興奮の渦を生み出した。最終回の翌週は、「(幻の)第8話」の妄想実況ツイートが広がる、という異例のロスを引き起こしたほどである。

満を持しての劇場版となった本作においても、シリーズを0から作り上げてきた徳尾浩司が脚本を担当した。連続ドラマより徳尾さんを追ってきたシネマカフェでは、劇場版でもインタビューを独占敢行。『おっさんずラブ』Tシャツを着込み、変わらぬ穏やかな表情の徳尾さんに、有終の美を飾り「潔く終わった」と語っていた連続ドラマ以降、今日(こんにち)まで、ヴェールに包まれた製作過程を根掘り葉掘り聞いた。


「天空不動産東京第二営業所が大好き」…だからこその劇場版

——連続ドラマ当時、「潔く終わった」とおっしゃっていました。劇場版となると、新たな生みの苦しみがありましたか?

はい。ありがたいことに、連ドラが終わってから、そんなに間を置かずに映画化のお話をいただいたんです。僕もプロデューサーもすごくうれしいけど…完全に終わったつもりだったので、「どうしようか?」と(笑)。「実はあのプロポーズはうそで…」というのは嫌だったので、「その先をやろう」と、話し合いました。

——ほかの候補案もあったんですか?

連ドラの最後、春田が上海に転勤になったので「上海編」みたいなこともできるな、というのは自分の中でありました。とても映画っぽいし、「どうかな?」と会議で言ってみたりもしたんです。けど、僕は天空不動産東京第二営業所が大好きなんですよね。上海編にしてしまうと、営業所があまり出てこなくなってしまうので、武川さんやマロ(栗林歌麻呂)たちも活躍できるように、東京を舞台にした今作の形になりました。


——舞台はそのまま天空不動産、内容は「プロポーズのその先」と固まったんですね。

そうですね。恋愛ドラマでは駆け引きが面白かったりするから、両想いの後の話は、ややスピードダウンする懸念もあったんです。でも、結局、僕ら20〜30代は結婚する相手が決まってから、いざ結婚するまでにも、いろいろ問題があったりするじゃないですか。結婚式までに何かが起こったり、結婚後の仕事はどうするの、とか。いまの若い人たちも同じような問題を抱えていると思ったんです。個の人生もすごく大事だし、家族になることも大事だから、どちらもうまくいかせるために、悩みながら乗り越えていく話にしよう、となりました。

テーマで言えば、「家族になること、夢を持つこと」という2軸ですね。夢と言っても、「サッカー選手になる」とかではなく、大人の夢のことです。会社には属しているけど、会社員として40〜50代をどうしていくか、どんな自分になっていくか、という自己実現の話。夢と家族が両立して、その葛藤が描けたら、と思いました。

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みんながプロ意識を持ち寄り作り上げるのが『おっさんずラブ』

——テーマはぶれていないのに説教くさくなく、コメディ要素で包んでいて見やすいところが、徳尾さんの脚本やキャストの力を感じるところです。

『おっさんずラブ』チームのいいところですよね! 僕は脚本をやっていますけど、自分ひとりで全部を考えているわけではなく、プロデューサー陣と監督、みんなのアイデアが集まった結果なんです。現場では役者さんが脚本を読んだときに「俺ならこうやる」とひとりひとりが考えて、キャラクターを作ってくれる感じがしますし。誰かひとりがサボってしまうと、その分、穴が空くし、逆に言えば誰も助けてくれないので、みんながプロ意識を持ち寄っている感じが、スクリーンからひしひしと伝わります。


——具体的にコメディシーン、リアルに響かせるシーンのコントラスト、メリハリは意識して執筆されましたか?

僕や監督は、考えがちょっとコメディ寄りで、爆発とかをキャッキャ喜ぶタイプ。コメディや思いっきりおバカなところは考えるから任せて、というか(笑)。一方、女性プロデューサー陣らはとても冷静で、「爆発、意味あるの?」とか「家族のところが弱くない?」とか「ここは真面目に締めよう」と、脚本ができていく段階で、すごくバランスを見てくれたんです。『おっさんずラブ』はチームとして絶妙なバランスで成り立っているんですよね。


——中でも「ここだけは絶対に落としたくない」と脚本に入れ込んだシーン、要素はどこでしたか?

今回、営業所のみんなが一つのテーブルを囲んでワーワー議論する、とある場面が出てくるんですね。映画としては非常に地味だし、実はなくても話は成立するんだけど(笑)、僕は好きで。ところが尺の関係上、あのシーンを「丸ごとカットしようか」という議論になったんです。僕の中では『おっさんずラブ』っぽいシーンだと思っていたので、「何とか残したい!」と言った記憶があります。…まあ、よく生き残ってくれたなと(笑)。あとは、部長が炎の上を通過するシーンも「必要なのか?」と言われたら口ごもってしまいますけど、あれは熱意のメタファーなので、必要なんです(笑)!

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思い出に残る作品になるため大事にしたこととは

——本作より参戦する沢村一樹さん、志尊淳さんもおいしいキャラクター設定です。どうやって思いついたんですか?

最初に、プロデューサーが「ライバルをふたり登場させたい」と言っていました。入れるなら、ただ豪華にするのではなく、いままでのキャラクターたちの背中を押してあげるような、「このふたりがいてよかった」と思えるキャラクターにしたい思いがありました。だから、ひとりは部長より年下だけど、大人の魅力が溢れて危険な香りがする狸穴迅(沢村さん)で、もうひとりは春田が「かわいいな」と弟分として面倒を見たくなるような山田正義(ジャスティス)(志尊さん)。狸穴は、さらに牧の本社でバリバリ仕事をする、仕事の理解者としての立ち位置でもある。テーマの「家族と夢」という両方のテーマを支えるキャラクターを入れたつもりです。


——脚本家によってはセリフを変えることを好まない方もいらっしゃるかもしれないんですが、徳尾さんはどう見ていますか?

僕、自分がどう書いたか一言一句覚えているわけではないので、映像を見て「ここ、違うな」とは、思わないんです。シリアスとコメディの2パートあったら、シリアスなところは脚本通りやらないと意味が通らないですし、心情がずれてしまうのでほとんど変わらないと思いますが、コメディ部分は脚本通りやっても面白くならないこともあるというか、ひとりが違うことをしたときに、空気で合わせてやっていくことが大事だと思うんですね。脚本にある文字を一言一句違わず追うことが一番大事なことではなくて、そのシーンの意味をみんなが脚本から汲み取り、理解してやることが大事なので。そこを瑠東監督が、うまくさばいてれていますよね。笑いの部分は特に、瑠東監督じゃないとできない。だから、たとえ書いたセリフと違っていても、ちゃんと面白くなっているのでいいのです。


——総じて「劇場版をやってよかった」というお気持ちでしょうか。最後に一言、お願いします。

劇場版なので、テレビドラマと違い、お客さんがチケットを買ってご覧になるわけなので、「映画を観た!」と思い出に残るものにしたい気持ちがありました。連ドラの「おっさんずラブ」で、皆さんが「よかった」と言ってくれたのは、人と人との関係性を今一度見つめ直すところ、向き合い方の部分だったはずなので、そこは大事にしたつもりです。

彼らがどうなっていくかが重要なので、例えば、春田と牧なら、ふたりの愛が深まっていく要素をきっちり描くことも決めていました。…花火や爆発も起きていますけど、想いが溢れて爆発しちゃった、というくらいのものです(笑)。

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