【インタビュー】草なぎ剛、芝居の技術より大切なこと「常に自分と向き合う」

2019年9月6日(金)7時45分 シネマカフェ

草なぎ剛『台風家族』/photo:You Ishii

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雰囲気づくりの達人。その場にいる誰もが気持ちよく仕事ができるように、友達のような気さくさで接し、空気を和ませる。ノーガードの佇まいで、草なぎ剛はこちらの余計な緊張をスッと解いてくれる。ついに公開される主演作『台風家族』で演じている鈴木小鉄とは正反対の、明るい表情だ。

9月6日(金)から3週間の限定公開の実現について、「皆さんの応援の声が届いたおかげです。本当にありがたいと思っています」と言う。「新しい地図を広げて、慎吾ちゃんと吾郎さんも主演映画が今年公開されて。僕もそこに加われば、全部ラインナップが揃うという気持ちもあったので、うれしい。待ってくれている方々に早く観てもらいたいです」。

あえて役づくりをしない、その理由

草なぎさんが演じる小鉄は4きょうだいの長男。年老いた両親が銀行から2000万円を強盗、行方をくらましたまま時効を迎えたことから、子どもたちが10年ぶりに実家に集まり、形ばかりの葬儀と遺産相続の話し合いをするのだが、それぞれの思惑をぶつけ合ううちに、次々と意外な事実が浮かび上がってくる。

今回の役にどう臨んだか問うと「もうノープランですね、この場合は」と言う。

「それが面白いというか。今回はオリジナル脚本だったので、別に準備せず、自分の中に余白がある方が、監督の言っていることを受け入れられるんじゃないかと思って、本当に何も考えずにやらせてもらいました」。

丸腰で戦いに挑むようなその状況は、逆に怖くないだろうか。

「いや、怖いですよ。けど、何も準備するものがないからしょうがない(笑)。だからもう早く寝るだけ。とりあえず睡眠を取っておけばどうにかなる。睡眠が僕の一番の役づくりなんですよ」と言う。


「自律神経が整ってないと活舌も悪くなるし、ちょっとしたことや音が気になったりする。だから僕はいつも10時に寝ようと思ってます。普段も。撮影が遅くなるときもあるんだけど。早く寝て、早く起きれるように。それが一番の役づくり」と言うと、わざと得意そうな表情を作ってみせて「真面目なんですよ、そういうところ。考えているわけですよ。8時とかに寝ますから、撮影に入ると」と冗談めかす。言うのは簡単だが、徹底させるのは難しい。

「そう。でも夜中までいろいろ資料とか読んで考えてると、逆に翌日、眠くなっちゃう。それよりパッと寝て、クリアの状態で起きて、現場入ってその空気吸った方がいい。自分で決めつけていくと、監督に何か言われても変えるのが難しくなる。たぶん演技って、何も考えなくてもいいんですよ。こだわりを持っていると、むしろ僕はできなくなっちゃうんです。現場に行けば監督いるし、共演者もいる。セットや小道具があって、『こういう世界観だな』と思ってやるのが好きです」。


アイデアやアドリブも「回っているときに生まれる」。そして「役者じゃないんで、もともと」と語る。

「いろんなことをやってきました。コンサートもそうだし、ステージに立つこと、歌うことも、バラエティーもそうだし。役者1本で、子役からやってきているのであれば、ちゃんと作るようなお芝居になるかもしれないけど、そういう環境で育ってきてないので。それこそ『ユーたち、やっちゃいなよ』とステージに上げられる環境で育ってきて、そっちが当たり前なんです」。

瞬間瞬間に反応、反射していくことで「予想だにしなかった自分に会えたり、本番中、相手に対してこんな感情を持っているんだという発見ある。もちろんリスクはありますよ。自分の中から出なければ、つまんないものになっちゃう。すごいリスクはあるけど、僕はその方が好きです」。

歳を重ねたからこそ受け入れられたもの
草なぎさんが現場で作り上げていった小鉄からは、子どもの気持ちと親の気持ち、両方が伝わってくる。親のようになりたくないと思いながらも似てしまうその有様がリアルだ。

「若いときは自分の親に似てるのがすごく嫌だった。思春期過ぎて20代、中年になる前です。体の成長もいったん終わって、二十歳から人間って老いていくと言いますよね。でも、25って気持ちはまだ若い。そのとき親に似るのが嫌だった記憶があって。家族って血が濃いから、どうしたって顔も似ていくし、同じ遺伝子だから逃れられない運命なんだけど、そこから逃げたい感覚があって。でも、だんだん年とともに、それが『いいな』と感じてくる。でも、やっぱりちょっと照れくさい(笑)」。


「恥ずかしさ混じりのむずがゆさの比重がどんどん変わって、“嫌”と“いいな”がひっくり返っていく。それが家族なのかなと思う。ちょっと年を取ってから許し合え、認めてくるのかな。不思議ですね、家族って。タイミングは皆さん違うと思うんだけど。小鉄も父親に似てると自分で分かってるんけど、それを絶対認めたくない。でも、血は争えないということは『台風家族』を見ても思う。だから僕はラストがすごい好き。あそこを見てほしいな」。


小鉄は若い頃、夢を追いかけるために家業を継がず、家を飛び出す。その後の挫折を揶揄する弟妹に「俺はまだ夢の途中だ!」と叫ぶ場面がある。10代から活躍してきた草なぎさん自身、いまは夢の途中なのか、それとも夢はもう叶ったのだろうか。

「こういう世界に入って、人前で歌ったりお芝居したりということをやりたかったので、その意味では叶っていると思うんです。だけど、その夢をどういう形に、もっともっとより良くつくり上げていくのかという意味では、やっぱり夢の途中っていうことかな」


芝居の技術より大切なこと「常に自分と向き合う」
小鉄と草なぎさんの一番の違いは機嫌だ。もちろん誰だって、内輪に見せる顔と他人に見せる顔は違う。それにしても草なぎさんはいつも笑顔で上機嫌。仕事柄、ストレスを感じるのは人一倍のはずなのに。本人は「ちょっとおかしい子なんじゃないですか?」と笑い出す。それはないでしょう、と言っても、「いやいや、そうかもしれないじゃない、マジで(笑)。それ一つあると思う。真面目にならないっていうか。たぶん、ネジがちょっと外れてるところあると思う(笑)」。


ストレス発散は「そうだな、おいしいものを食べますね、まずね。で、お風呂に入ったり、汗をかいたり。ごく普通のことを意識してるかな」という答え。

「どこか痛めたり、病気になると負担になってくる。だから、健康状態を気にしてることかな。まず健康でいること。例えば、スーパープロフェッショナルでどんな芝居もできる人がいたとしても、不健康だったら駄目じゃないですか。極端な話、芝居が下手でも、元気のある人が出られる。技術うんぬんじゃなくて、やっぱり健康だよね、この世界。だって、うまい人なんていくらでもいるんだから」と言う草なぎさん。


「そこでうまいのを選ぶより健康を選ぶよね」と断言する。「心を蝕まれちゃうような役、そこまで追い込む役もあると思う。でも、やっぱり心も健康じゃないと次に進めないと思うんですよね」。

深刻ぶらずに自分を笑い飛ばしながら、でも、とても自分を大切にしている。そしてそれは、現場で常にベストな状態の自分でいるため。しなやかなストイシズムは自然体という形に行き着く。ではいまは心も体も健やか?

「そうですね。健康だし、心がけているところはある。常に、どうしたら健康な体と心でいられるのかなって。やっぱりそれは自分と向き合っているのかもしれません」。

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