猫たちとの19年を女性歌人が歌物語に……「見つめられ見つめかえせば新しき時間」

2024年9月20日(金)15時30分 読売新聞

「サイレントニャー」小島ゆかりさん

 高校生だった次女が19年前、連れ帰ったオスの子猫「たますけ」と、その9年後にやってきた姉妹の子猫「なつ」と「まり」。3匹とのこれまでや日常をつづったエッセー25編と、折々に詠んだ歌79首を収めた。

 <見つめられ見つめかえせば新しき時間はじまる猫とわたしに>

 「あくまでも猫たちの歌物語で、主人公は猫」と書き進めた文章には、19年間の家族の物語も透けて見える。短歌結社「コスモス短歌会」に所属し、短歌の最高賞と言われる空賞も受賞した歌人として活躍するかたわら、子育てと介護に追われた。

 そんな日々を支えてくれたのが、猫だった。「猫って、いつも真顔なんですよね。変に笑ったり、慰め顔したりしない。その真顔が、折々に『思い上がっちゃいけないな』『別に大したことないな』と、いつも私の軸を正してくれた」

 <うさんくさき自分に気づくいついかなるときも真顔の猫と暮らせば>

 進学、就職、出産……と娘たちは大人になり、老化が進む親の介護の負担は重くなっていく。一方、猫たちも平穏だったわけではない。なつは家に来て10日後に死に、たますけはまりが来たストレスで皮膚疾患を患った。それでも毎日を淡々と生きる猫の姿から、大切なことを学んだ。

 「朝起きて、食べて、出す。赤ちゃんも高齢者も人間も猫も、みんな同じ。生きている存在のいとしさ、シンプルな命の姿を、猫が教えてくれた」

 たますけは今、19歳。食事はボロボロこぼし、あちこちでお漏らしするけれど、在宅時は片時もそばを離れない。

 <古猫のひとり遊びのあさあけのこんなやさしい日をありがとう>

 「これがラバー(恋人)というものか」と笑い、優しく抱き寄せた。(短歌研究社、1980円)金巻有美

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