【インタビュー】『ジョーカー』ホアキン・フェニックスを駆り立てた“怒り”とは?

2019年10月4日(金)12時5分 シネマカフェ

『ジョーカー』 (C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved” “TM & (C) DC Comics”

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圧巻という言葉では足りない。オスカー最有力の呼び声高き『ジョーカー』でホアキン・フェニックスは、何かにとりつかれたかのように、最強のヴィランに命を吹き込んだ。あえて言葉にすれば「悪魔的な神々しさ」。撮影中、ホアキンの中に何が宿っていたのだろうか?

全く異なるアプローチで“新たなジョーカー”が誕生

——アメコミ界きってのヴィランであるジョーカー誕生秘話をオリジナルストーリーで描いた本作。先日発表された第76回ヴェネチア国際映画祭で、最高賞にあたる金獅子賞に輝いた瞬間、あなた自身はどのように感じたのでしょうか?

ただただ、僕の期待や想像を超えた出来事だったね。トッド(・フィリップス監督)とはいつも「自分のキャリアを終わらせるような映画は作りたくない」ってジョークで言っているんだけど(笑)、正直『ジョーカー』がこういう形で熱狂的に受け取られるとは思いもしなかった。映画にとってはいいことだけど…、何て言えばいいんだろう? もう「驚きと興奮」という言葉に尽きるね。


——ジョーカー役のオファーを受けた際は、どのように思いましたか? 即決だったのか、それとも迷いがありましたか?

どんなオファーも簡単には引き受けられないが、今回ばかりは、ジョーカーを演じきれる自信がなかったから、大いに迷った。それくらい『ジョーカー』は大きな挑戦なんだ。演じるうえで、映画が示すメッセージ、そして自分自身を深く掘り下げる必要があったし、きっと観客にとってもチャレンジングなものになると思った。新しい何かとの出会い…と言えば、大げさに聞こえるけど、目の前に知らない世界が広がるのは、俳優冥利に尽きるね。映画を見る魅力もそこにあると思うから。そう考えれば、ジョーカーほど最高なキャラクターはいないよ。


——ジョーカーは過去に何度も映像化されたキャラクターですよね。

ジョーカーといえば、子どもの頃に見た『バットマン』(1989年製作)のジャック・ニコルソンがとても印象に残っているし、『ダークナイト』のヒース・レジャーがすばらしかったのは、言うまでもない。助演だから、決して出演シーンが多いわけじゃないのにね。どちらのジョーカーも、一瞬にして見る者を恐怖させ、同時に魅了したんだ。

——そのうえで、改めてジョーカーを演じるあなたが、意識したことは何ですか?

だからこそ、僕らはまったく異なるアプローチで、いま一度ジョーカーを掘り下げる必要があったし、それは大きな利点だった。映画そのものを理解することに役立ったからね。アイデアはたくさん持ち寄ったが、「このやり方がジョーカーにはぴったり」というわかりやすい道筋は見えなかった。だから、何かに影響を受けた…というのは、答えるのが難しいな。あっ、そうだ! 実は撮影中、ふと「あっ、いまの自分はフランクン・フルターに影響されているな」って思う瞬間があったんだ。そう、『ロッキー・ホラー・ショー』に登場する奇妙な城主のフルター博士さ。子どもの頃から大好きで、いつか演じたいと思っていたほどだから、不思議な感覚に襲われたよ。

内面・外面ともに徹底した役作り

——映画を見れば、きっと観客はあなたの変ぼうに驚くと思います。具体的には、ずいぶんとお痩せになりましたよね?

栄養士と一緒に取り組んだよ。幸運なことに、準備期間はあったから、最初の2ヶ月はカロリーを落としながら、自分でワークアウトした。撮影が始まる2ヶ月前には、栄養士と相談して、特殊なカロリー制限のダイエットに臨んだんだ。正直、とてもきつかった。でも、アーサーは人生に決して満足しておらず、常にもっと何かを渇望している。僕自身も減量を通して、その気持ちは共有できたね。徐々に目標体重に近づき、体つきにも変化が出てくると、筋肉の動きや感じ方にも影響が出てきた。欲望に打ち勝てたという、ある種の満足感で、力が漲ったんだ。そういった過程のすべてが、役作りの大きな要素となったよ。


——衣装もジョーカーという人物を物語るうえで、非常に重要なエッセンスだと思います。衣装デザインを手がけるマーク・ブリッジスとは、『ザ・マスター』『インヒアレント・ヴァイス』(ともにポール・トーマス・アンダーソン監督)でもタッグを組んでいますね。

彼は史上最高のデザイナーの1人だから、僕から何かを評価するとか、そういうものを超越した存在なんだ。もちろん、仕事ぶりはすばらしいけど、そのプロセスは謎に満ちている。ディテールへのこだわりもすごいよ。ポケットの中のハンカチとかね。そうだ、ジョーカーが着るスーツについては、秘密があるんだ。実は序盤のアーサーと、終盤のジョーカーは同じスーツを着ている。色は違うんだけど、それはマークが撮影中、段階的にスーツを染めてくれたんだ。まさにアーサーが、次第にジョーカーへと変ぼうするみたいにね。注意して見てみると、確かにだんだん赤色が鮮やかになっている。初見では見逃してしまうかもしれない繊細なこだわりだけど、キャラクターや作品全体への貢献は計り知れないよ。

24時間ジョーカー「怒りもまた」

——例えば「家に帰っても、ジョーカーをひきずってしまう」という弊害はなかったですか? 映画を拝見し、本当に役柄に入り込んでいると感じたので、何というか…、心配になってしまって。

うーん、どうかな。仮に撮影中、自分自身と演じるキャラクターが“分離”する瞬間があるとすれば、それは満足な演技ができていない証拠かもしれない。両者の距離がゼロになり、焦点がバッチリ重なってこそ、最高の状態だと思うから。僕が何かすれば、そのキャラクターの言動になる…それが理想だね。だから、スタジオに役柄を置いてきたり、家に帰って脱ぎ捨てたりはしないんだ。


——24時間ジョーカーだったと?

もちろん、自宅ですでに撮影した映像を見直し「じゃあ、明日はこうしよう」と演技プランを組み立てることはある。少し矛盾して聞こえるかな? でも、寝ている時間以外は、映画と演技について常に考え続けているのは確かだね。今回、苦労したことがあるとすれば、スケジュールの都合で順撮りできなかった点だな。「このタイミングで、ジョーカーにはなれないよ!」って、トッドに怒りをぶちまけたこともあった(笑)。でも、その怒りもまたジョーカーを演じるために必要だったのかしれないと、いまは思っているよ。

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