部下に「悩み」を相談されたときに、「なぜ?」という言葉を使ってはならない“深い理由”

2024年5月4日(土)6時0分 ダイヤモンドオンライン

部下に「悩み」を相談されたときに、「なぜ?」という言葉を使ってはならない“深い理由”

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多くの企業で「1on1」が導入されるなど、職場での「コミュニケーション」を深めることが求められています。そのためには、マネジャーが「傾聴力」を磨くことが不可欠と言われますが、これが難しいのが現実。「傾聴」しているつもりだけれど、部下が表面的な話に終始したり、話が全然深まらなかったりしがちで、その沈黙を埋めるためにマネジャーがしゃべることで、部下がしらけきってしまう……。そんなマネジャーの悩みを受け止めてきた企業研修講師の小倉広氏が、心理学・心理療法の知見を踏まえながら、部下が心を開いてくれる「傾聴」の仕方を解説したのが『すごい傾聴』(ダイヤモンド社)という書籍。本連載では、同書から抜粋・編集しながら、現場で使える「傾聴スキル」を紹介してまいります。

写真はイメージです Photo: Adobe Stock

「1on1」において、「なぜ」と聴いてはいけない

「傾聴」は、「表面的な言葉」だけを聴くことではありません。 表現された言葉の裏に「暗に存在」する「感情」や「意味」や「想い」などを表に出して一緒に経験する。そのプロセスこそがもっとも大切な傾聴のあり方です。しかし、これは決して簡単なことではありません。どうしても、「表面的な言葉」を聞いただけで納得したつもりになって、すぐに別の話題に移ってしまいがちです。しかし、これでは「傾聴」は深まりません。

 例えば、「1on1」において、部下が「後輩のAさんにいろいろ働きかけているんですが、やる気が感じられないっていうか、打っても響かない感じなんです」と漏らしたとしましょう。あなたが上司だったら、この発言に対してどんな言葉を返すでしょうか? ちょっと考えてみてください。

 私がこれまで企業で「傾聴」についての研修をやってきた経験からすると、かなり多くの方が「なぜ、Aさんはやる気がないのですか?」と「理由」を聞いたり、「原因分析」を始めたりしがちです。しかし、これは非常にもったいない。なぜなら、「原因分析」をいくらやっても、相手の深い「感情」には触れることができないからです。そして、深い「感情」に触れることができなければ、深い「傾聴」にはならないのです。

部下になりきって、感情をじっくり味わう

 だから、私であれば、この言葉を聞いたら、まずは「働きかけてるのに、打っても響かない感じって、どんな感じだろう?」などと、部下になり切って体でじっくりと味わおうとするでしょう。そうすれば、自分のなかに、いろんな「感情」が湧き上がってくるのを感じるはずです。

「もどかしい」「じれったい」という感情もありそうだし、打っても響かないことに「がっかり落胆」するかもしれない。あるいは、「がっかり落胆する」ということは、その感情の裏側には、「Aさんに対する期待」があるということかもしれない。その「期待」が裏切られたような気がして、「悲しい」のかもしれない……。

 このように、一つの言葉の裏側には、幾重にも「暗在する感情(暗に存在する感情)」が存在するわけです。そして、こうして自分のなかでリアルに感じられた「感情」を、部下にぶつけていけばいいのです。例えば、「そっか、君はAさんにいろんな働きかけをしてくれてるんだね。だけど、打っても響かない感じだと、もどかしいような、じれったいような気持ちになるんじゃない?」と聴いてもいいでしょう。

「暗在する感情」に触れる

 すると、部下は「そうそう、そうなんです!」と肯定するかもしれないし、「いやー、どうですかね。もどかしいというよりも、なんかがっかりするんですよね」などと、より深い「感情」を吐露してくれるかもしれません。さらに、こちらが、「そうだよな…がっかりするよね…でもさ、がっかりするってことは、君はAさんにすごく期待してるってことなのかもしれないね?」と尋ねれば、部下は、「そっか…そうかもしれません…そうだ…僕、彼に期待してたんだ」などと、自分でも気づいてなかった「暗在する感情」を発見するかもしれません。

 こういうことが起きることこそが「傾聴」なのです。この部下は、聞き手である上司との対話のなかで、自分の「暗在する感情」に耳を傾けることができるようになったわけで、言い換えれば、上司の「傾聴」によって、「自分で自分の傾聴ができる」ようになったとも言えるわけです。そして、これこそが「傾聴」の真の目的なのです。

「傾聴」ができれば、部下は自分の力で成長を始める

 傾聴の目的は、「課題解決」することでも、「考えを整理」することでも、「信頼関係を築く」ことでもありません。これらはあくまでも副次的な効果。本来の目的は、話し手となる部下が、聴き手である上司の傾聴をコピーし、「自分で自分に傾聴ができるようになる」ことです。

 すると、話し手である部下は、「自分自身のままでいいのだ」と気づき、本来もっている能力、活力、魅力を出し惜しみせず発揮していけるようになる。そのような状態になることさえできれば、自らの力で「考えを整理」し、「課題解決」もできるようになるのです。そして、そのようなチャンスを与えてくれた上司との間にも、自然と「信頼関係」が生み出されていくのです。

 このような「傾聴」を実践するためには、部下の「表面的な言葉」に耳を傾けるのではなく、あるいは、部下の抱えている問題の「原因分析」をするのではなく、部下の話を追体験しながら、そこに生まれる「感情」を掘り下げていくことこそが大切です。真にそのような「傾聴」ができれば、部下は自分の力で「悩み」を解決していけるようになるのです。

(この記事は、『すごい傾聴』の一部を抜粋・編集したものです)

小倉 広(おぐら・ひろし)
企業研修講師、心理療法家(公認心理師)
大学卒業後新卒でリクルート入社。商品企画、情報誌編集などに携わり、組織人事コンサルティング室課長などを務める。その後、上場前後のベンチャー企業数社で取締役、代表取締役を務めたのち、株式会社小倉広事務所を設立、現在に至る。研修講師として、自らの失敗を赤裸々に語る体験談と、心理学の知見に裏打ちされた論理的内容で人気を博し、年300回、延べ受講者年間1万人を超える講演、研修に登壇。「行列ができる」講師として依頼が絶えない。
また22万部発行『アルフレッド・アドラー人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)など著作48冊、累計発行部数100万部超のビジネス書著者であり、同時に心理療法家・スクールカウンセラーとしてビジネスパーソン・児童・保護者・教職員などを対象に個人面接を行っている。東京公認心理師協会正会員、日本ゲシュタルト療法学会正会員。

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