キティちゃんに96歳のサンリオ創業者が込めた反戦の思い――取材Dが“迫力”を感じた「戦争だからしょうがない」への怒り

2024年10月6日(日)6時0分 マイナビニュース

●社員からアイドルばりの人気
日本テレビ系ドキュメンタリー番組『NNNドキュメント‘24』(毎週日曜24:55〜)で、きょう6日に放送される『キティちゃんと王さまの約束〜鉛筆1本から描く平和〜』(山梨放送制作)。ハローキティをはじめとするサンリオのキャラクターたちに反戦の思いを込めた同社の創業者で名誉会長の辻信太郎氏(96)(※「辻」のしんにょうの点は1つ)に密着した作品だ。
取材したのは、山梨放送の渡辺浩人ディレクター。普段は穏やかな人柄でありながら、戦争の話になると口調が変わる辻氏に、「みんななかよく」という理念への強い思いを感じたという——。
○「戦争が終わったら、人と人とが仲良くなるための仕事を」
レディーガガやブルーノマーズといった海外の大物アーティストもファンを公言するなど、世界中で愛されるハローキティ。その根源には、辻氏が戦時中に抱いた「戦争が終わったら、人と人とが仲良くなるための仕事をしよう」という思いがあった。
それは「みんななかよく」という企業理念に表れており、辻氏は、サンリオがキャラクタービジネスだけを手がける企業ではなく、「コミュニケーションの会社なんです」と強調する。
渡辺Dが辻氏を取材するきっかけになったのは、ニュース番組での終戦特集。取材対象をリサーチする中でたどり着いたのが、辻氏が毎年8月に反戦への思いをつづる「いちご新聞」だった。
しかし、辻氏はほとんどテレビ取材を受けない人物。ダメ元でサンリオに取材を依頼すると、出身地である山梨のテレビ局であること、そして戦争の話を後世に広めたいという思いで快諾してくれた。
○偶然出会った人に「知り合いになろうよ」
サンリオを一代で世界に知られる企業に育て上げたカリスマ経営者であり、前述の通り普段は取材を受けないというだけに、近寄りがたい人柄かと思いきや、番組で伝わってくる印象はまるで正反対だ。
「全然偉そうでなく、本当に優しい方なんです。驚いたのは、最初の取材でサンリオ側から“社内のパーティーで辻さんがハーモニカを吹くので来ますか?”と誘われたので行ってみたら、社員の皆さんが手作りのうちわで応援していて、そのアイドルのような人気ぶりに衝撃を受けました。創業者、上司としてだけでなく、人としても本当に慕われているんだと思いました」(渡辺D、以下同)
こうした様子を目の当たりにして、「30分の番組で、もちろん戦争のことも描きながら、社員の皆さんと同じように視聴者も辻さんのことを好きになってもらえるように描きたい」という決意のもと、本格的に密着がスタートした。
そんな辻氏の生き方を最も感じた場面は、カメラを回していない瞬間にあった。インタビュー取材のために借りた会場のオーナーに、「知り合いになろうよ」と自然に声をかける姿を目撃。「その日に初めて偶然出会った人にあの言葉が出ることがすごいですし、そうやってこれまで生きてこられたんだなと伝わってきました」と驚きを振り返る。
番組内では、辻氏が様々な人にプレゼントを渡す場面が登場。「普通なら大きな会社の創業者からプレゼントを渡して“仲良くしよう”と言ったら違和感がありそうですが、辻さんはそれを伝えることが当たり前で大切なことなんだというのを体現されていて、心に来るものがありました」と感銘を受けたそうだ。
●ウクライナ戦争も「しょうがないとかじゃないから」
誰に対しても優しく接する辻氏だが、79年前に経験した甲府空襲、そして戦争の話になるとその様子が変わるという。
「語気が強くなって、迫力が違うという表現が合っていると思います。そこから、反戦への思いの強さを改めて感じました。79年前に経験したことを軸に人生を歩んでこられたことが伝わってきて、ものすごい衝撃で強烈に覚えている出来事なんだと感じました」
その“迫力”を特に感じるのは、当時の大人たちが口にしていた「戦争だからしょうがない」という言葉への怒りだ。
「戦争のお話をされるたびに、必ずこの言葉が出てくるので、本当に許せなかったんだと思います。これまでも甲府空襲の取材をしてきましたが、当時は若い男性が徴兵などでほとんどおらず、小さな女の子だった方の“とにかく怖かった”という証言をよく聞いていたんです。なので、青年男性の目線での“戦争だからしょうがない”という言葉への怒りは、強く印象に残りました」
世界を見渡すと、ウクライナでの戦争に終わりが見えないどころか、ガザやレバノンなどでも紛争が相次いでいる。そんな中で、この番組を放送する意義は何か。
「やっぱり“戦争だからしょうがない”がキーワードだと思います。辻さんに、“ウクライナ戦争についてどう思いますか?”と聞いたら、“しょうがないとかじゃないから”と強い言葉で否定されたんです。ロシアから一方的に攻められて、守るために戦うのは仕方ないと思っていた部分がありましたが、そこで諦めてはいけないんだとハッとさせられました」
○ナレーションは柏木由紀「答え合わせになったよう」
戦争を扱うドキュメンタリーは、どうしても重い内容になりがちだ。ただ今回の番組は、ハローキティというキャラクターによって入り口をポップにすることで、辻氏が目指す“若い世代に伝えたい”という思いを共有している。
そこで、ナレーションとして白羽の矢が立ったのは、柏木由紀。収録を終えて、「小さいころからサンリオのファンで、いちご新聞も毎月買って読んでいました。いちご新聞やキティちゃんに込められた思いを初めて知り、改めてその魅力に気づきました。だからサンリオが好きになった、その答え合わせになったようでした」と感想を語っていた。
そんな彼女が吹き込んだ声を聞いて、渡辺Dは「優しい声が辻さんの雰囲気にも合っていました。また、柏木さん自身のサンリオへの思いも加わったことで、辻さんのメッセージをより強く、多くの人へ伝わるようになったと思います」と手応えを感じている。
今回の取材中に、自身の5歳の娘と3歳の息子に、サンリオショップで購入した商品をプレゼントしたという渡辺Dは「物に頼って子どもに喜んでもらおうというのは、ちょっとカッコ悪いなと思っていたんですが、今回の取材を通して、それで何もやらないことのほうがよっぽどつまらないと気付かされました」と、コミュニケーションツールとしての有効性を身を持って実感。
さらに、「今回の作品は、自分の子どもたちが10年経った頃に見せようと考え、主にそうした若い人たちに向けて作りました。戦争反対のために個人でできることは限られるかもしれないけど、友達と仲良くすることから様々な人と分かり合えることができる——そんなことを感じてもらえたら」と願っている。

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