【インタビュー】杉咲花 迎えた転機「媚びるような心」を捨てて変われた自分「花晴れ」から『楽園』への道

2019年10月15日(火)7時45分 シネマカフェ

杉咲花『楽園』/photo:You Ishii

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杉咲花、22歳。おいしそうに回鍋肉を食べていた姿が鮮烈だった少女は、いまや紛れもない演技派女優となった。納得の評価に関しては、2016年、『湯を沸かすほどの熱い愛』での最優秀助演女優賞ならびに新人俳優賞の受賞に代表されるだろう。当時の自身のことを「暗かったですよね(笑)。いまは明るくなったんです」とふり返る杉咲さんは、ここ1〜2年で転機を迎えているという。

「すごくふさぎ込んでいたというか、閉ざしている時間が長かったです。過去の授賞式の映像をたまに見ると、自分で“暗いな”と思うので、嫌です(笑)」とその頃を、しかしながら穏やかな表情で語り出した杉咲さん。「ひとりが楽だし、ひとりでいいとずっと思っていました。暗めの役が多かったのもあって、それでいいと思っていたんです」。


転機となった「花晴れ」平野紫耀、中川大志飯豊まりえら同世代と共演しての本音
転機は前触れもなく訪れた。2018年4月から放送されたドラマ「花のち晴れ〜花男 Next Season〜」への出演だった。杉咲さんにとっては、民放連続ドラマ初主演、話題作となる本ドラマの共演者は、平野紫耀、中川大志、飯豊まりえ、今田美桜と強力な同世代が顔をそろえる現場だった。逡巡の色が浮かぶ。

「コミュニケーションを取るのが苦手だと思っていたときに、『花晴れ』の出演が決まりました。同じ世代の共演者の皆さんと関わる環境になりました。でも、その環境をいただけたからこそ、みんなと仲良くなれて、すごく、すごく現場が楽しかったです。それからは自分自身も明るくなったと思いますし、友達も増えて本当によかったです」。


さらに、「出会うべくタイミングで、出会えているなと思います。本当に恵まれています」と繰り返す杉咲さん。

「初めてドラマの主演をやらせていただくようになってからは、さらに責任も感じるようになりましたし、自分がぶれていてはいけないんだなと実感しました。それまでは“何か違うかな?”と思っても何も言わずにいることが多かったのですが、それではダメだなと思うようになって、勇気を出して監督やスタッフさんに相談するようになりました。ここ1〜2年くらいのことです。自然に、その環境に変えてもらったのかなとも思います」。

ここまで話し切ると、「変われている気がして、うれしいんです」と晴れやかな笑みを広げた。変わることに臆さない姿が杉咲さんを、より明るく、日の当たるステージへと誘っているようにみえる。


「いままでで一番難しい役」を通して知る、新たなステージへ

そんな“変われた”杉咲さんがチャレンジしたのが、『楽園』への出演だ。原作はベストセラー作家・吉田修一の短編集「犯罪小説集」で、『ヘヴンズ ストーリー』や『64-ロクヨン- 前編/後編』などを手掛けた瀬々敬久が監督を務める。犯罪をめぐる喪失と再生を描いた、何とも骨太な作品である。杉咲さんは、12年前、Y字路で行方不明となった少女と直前まで一緒にいた親友の湯川紡(つむぎ)を演じた。罪悪感を抱えたまま大人になり、いまなお心に深い傷を抱える、一筋縄ではいかぬ役。作品について尋ねると、杉咲さんは少し考えこんだ表情になる。

「いままでで…一番難しい役でした。台本を読んで漠然と物語の雰囲気、役の心情を理解できるようでいて、なんだかすっきりはしていませんでした。完全にわかった、と最後まで思えなかったです」。それは初めての経験だった。だから、「現場に行ってからも、何となくイメージは湧くのですが、いざ“本番”となったときに、毎回、頭が真っ白になるんです。ここまで想像と違う感情に自分がなる経験が初めてだったので、すごく怖かったです」。


不安な気持ちを抱えたまま、杉咲さんは、事件の容疑者として追い詰められていく中村豪士(たけし)を演じた主演の綾野剛、そしてY字路に続く集落で村八分になり壊れていく田中善次郎役の佐藤浩市、そして演出をつけた瀬々監督に必死でついていった。

「余白の多い作品ですし、セリフも少なかったりするので、言葉で説明するのは難しくて…。いままで、自分の中でちゃんと理解できてわかった状態で現場に行かなければいけない、という考えがあったのですが、今回はわからないまま行ってみるという初めての試みをして、まさかの感情になるシーンもありました。だから、わからないことがダメなことではないんだ、ということが自分自身、勉強になりました」。わからない感情やこみあげてくる思い、剥き出しの状態が、役にシンクロするような形になった。



媚びるような心、嫌われたくないという思いを捨てた、杉咲さんのいま

さらには、瀬々監督とのこんなエピソードも飛び出した。

「打ち上げの席で、瀬々監督に『私、どうでしたか?』と聞いたんです。そうしたら、『どうでしたか? とかじゃないんです。撮ってしまったものはしょうがないんです』と言われて、“私、ダメだったんだ…”と思って落ち込みました。ですがその後、よく考えたときに、確かに聞いたところでしょうがないな、と思ったんです。私の中では一度ご一緒した方ともう一回ご一緒できたらいいなという思いがあって、次に活かしたいという気持ちで聞いたつもりでしたけど、そう聞く自分の中にはどこか媚びるような心があったのかな、と感じたんです」。

「気づいたら“嫌われたくない”と思っている自分がいたりする。それが嫌になる瞬間がすごくあります(苦笑)」と本音をのぞかせた後、「それからは、(撮影に)懸けなければ、という思いがより一層湧きました。“最初で最後なんだから”と思うようになって“嫌われてもいいから、恥ずかしがらずに思いっきりやってみよう”という気持ちになれました。自分の中で、すごく大きかった言葉です」。


次へのステップ、気づきにもっていけることこそが、杉咲さんの女優力、人間力につながるところと感じずにはいられない。耐えず考え、もがき、悩みながら作品に入るから、杉咲さんならではのフィールドが広がり、観た者の心を離れなくなる演技ができるのだろう。

「20歳も超えましたし、ちゃんと自分を信じないととか、責任を持たなければという思いはありながら、“本当にいいのかな”と迷うこともあるので、マネージャーさん、友達、母親に相談することもあります。もしいまのような環境ではなくて、自分が選んでいたら、ものすごく偏ったものばかりに出ていて、きっといまのような経験はできていなかったと思います。自分が変わってきたタイミングで、こうした作品に出会えていること、とても恵まれていると感じることが多いです」。

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