『ラヴィット!』『新しいカギ』番組Pが語る「笑い全振り」「学校企画」へのターニングポイント
2024年11月28日(木)6時0分 マイナビニュース
●親友の死から「元気をもらえるテレビを」
TBS系バラエティ番組『ラヴィット!』(毎週月〜金曜8:00〜)の辻有一プロデューサーと、フジテレビ系バラエティ番組『新しいカギ』(毎週土曜20:00〜)の矢崎裕明チーフプロデューサーが27日、ビデオリサーチ主催の「VR FORUM 2024」に登壇し、番組のターニングポイントや制作の舞台裏などを語った。
○コンプラチェック担当が「秀逸でした」
今や若年層を中心に人気の両番組だが、必ずしも順調なスタートを切ったわけではなかった。コント中心の総合バラエティとして立ち上がった『新しいカギ』は、「学校かくれんぼ」をきっかけに、カギメンバー(霜降り明星、チョコレートプラネット、ハナコ)が学生たちを巻き込んだ様々な企画を展開している。
矢崎氏はこのターニングポイントについて、「コンプラチェックの担当の方とのやり取りで、“『学校かくれんぼ』が秀逸でした”とメールで褒められたんです。それで“ちょっと(跳ねる)匂いがするな”と思ったんです」と紹介。第1弾の放送で数字に顕著な反応はなかったが、評判が良かったことから2回目を2時間SPの頭に置くと「『新しいカギ』では見たことのない右肩上がりという状況が起きまして、これは行けるんじゃないかとチーム内に自信が走りました」と手応えをつかんだ。
こうして鉱脈を見つけた中で、チョコプラやハナコというコント師たちの「もっとコントをやりたい」という思いと、制作陣でのせめぎ合いがあったものの、「『かくれんぼ』がどんどんコア視聴率を取れるようになって演者さんもスイッチが変わりまして、TVショーのエンタテイメントとして、学校企画を喜んでやってくれています」と現在に至る。
○カットしていた部分を全部OAに出した
“日本でいちばん明るい朝番組”を掲げ、21年3月にスタートした『ラヴィット!』を、コロナ禍の最中に企画した辻氏。「僕自身もコロナ禍で親友を亡くすということがあって、一番落ち込んでいる時でした。残された家族の家に行くとなかなかテレビがついてなくて、本来しんどい人に寄り添わなければいけない娯楽であるテレビが一切役割を果たせてないと思ったんです。その年は、日本中につらい、しんどい人たちがたくさんいると思って、そういう人たちが朝の帯という時間にふと笑ってその日一日生きる元気をもらえるテレビなら、作る意味があるんじゃないかと思って『ラヴィット!』の企画書を書き始めました」と振り返る。
ただ、「番組開始当初は、もうちょっとオシャレでスタイリッシュな番組を目指していて、全然うまくいかなかったんです」と苦戦。そんな中でターニングポイントになったのが、ディレクターが編集したお笑いコンビ・ニューヨークの料理コーナーのVTRをチェックしていた時だった。
「全部の撮影素材を見せてもらったら、朝の番組だからとカットしていた部分で、ニューヨークさんが異常にボケていて思わず笑っちゃったんです。そこで、このままやっても上手くいかないから、自分が面白いと思うものを思い切り出してみようと思って、今までカットしていた部分を全部OAに出して、笑いに振り切ったVTRにしたら、スタジオの演者の皆さんに今までにない熱を感じたし、SNSのリアクションも明らかに変わってきて、ここに鉱脈があるのかもしれないと思ったんです。それをきっかけに今までの固定概念や成功体験を全部捨てて、純粋に自分が面白いと思う番組を作ってみようと思うようになりました」と、現在の路線が確立された。
●好きでいてくれる人にどんどん好きになってもらいたい
ビデオリサーチの北澤由美子氏は、『ラヴィット!』において、F1(女性20〜34歳)・F2(女性35〜49歳)の視聴分数が顕著な伸びを見せているデータを示した上で、「強いファンが育ってきていると感じております。ファンを育てるという観点で、番組を作られる中で大事にされていることは何でしょうか」と質問。
これに、辻氏は「今の時代はテレビがついていて、何となくチャンネルを回すということがないので、好きの深度をとても大切にしていて、明確に“『ラヴィット!』が好きです”という人をたくさん増やしたいと思って作っています」と明かす。従来の番組作りでは、「なるべく“この番組が嫌い”という人を減らして、そのために好きな人がいる要素も削って“中間”を作るのがベーシックだった」というが、「あえて“嫌い”という人がいるものとして割り切って、『ラヴィット!』を好きでいてくれる人にどんどん好きになってもらって、周りの人に波及していくという方向で作っています」と意識しているという。
具体的には、「各曜日にまたがった企画を展開して、そこにストーリー性をもたせることで、ずっと見ている人が楽しい仕掛けをどんどん作っています。ほかにも、その日にたまたま見たら得したと思えるようなサプライズ感とか、SNSで上がってくるアイデアをすぐOAに反映させて、ファンの人が歓喜する仕掛けを作ったりしています」と、帯の生放送の強みが生かされている。
SNSの盛り上がりを可視化するビデオリサーチのサービス「Buzzビューーン!」によると、『ラヴィット!』は、X(Twitter)のポスト数も増加傾向にあるが、辻氏は「テレビを作る仕事のやりがいは、いかに反響があるかなので、『ラヴィット!』の200人のスタッフのモチベーションにものすごく影響します。なので、番組のスタッフの雰囲気づくりにおいても、なるべく反響を湧き上がらせる仕組みを作りたいと思って、SNSは有益に使わせていただいています」と明かした。
○27時間テレビの最後が「カギダンススタジアム」だった理由
『新しいカギ』は、今年の『FNS27時間テレビ』のメイン番組に抜てきされ、若年層をはじめコア視聴率で高い数字を記録する成功を収めた。「Buzzビューーン!」のXでの毎分ポスト数の推移を見ると、クライマックスの「カギダンススタジアム」で大きく伸びていることが分かる。
矢崎氏は「最後をどうやって終わらせるかは、ずっと議論していました」と打ち明け、過去の『27時間テレビ』の例も参考にしながら検討した結果、「カギメンバー7人全員が汗をかくのがいいとなったんです。それと、僕が大学生の時に『ワンナイ』でゴリエ杯というチアダンスの大会をやってムーブメントになっていたのを思い出して、時代の流れで“ダンス”で行こうと一致しました」と企画の方向性が決まったという。
カギメンバーにダンス経験者はいなかったが、「皆さんがそれぞれ高校に足繁く通ってくれて、あれだけのダンスを仕上げてきて、本当にやってよかったなと思いました」と手応えをつかんだ矢崎氏。レギュラーの『新しいカギ』でメンバーが踊るダンス企画をやったこともなく、「ゼロイチの企画がコケるというのは何回も経験しているので本当に怖かった」と不安の中で走った企画だったが、グランドフィナーレを受けてXでは「テレビさいこーーー!!」「久しぶりにテレビ見てよかったって思えた」といった反響が相次いでいた。
●若手Dはどんどん“イキって”ほしい
最後に、矢崎氏は「地上波の民放テレビというのは、イキって自己表現をする場ではないとプロデューサーになって思いつつも、『27時間テレビ』をやって改めて思ったのは、若いディレクターはある程度イキってもいいところが全然あると思うんです。今回、10歳下の2人の総合演出と組んでやったんですけど、いい感じにお互い切磋琢磨しながらイキってくれました」と紹介。
「最近、“テレビは自分の表現をする場じゃないんだ”って怒られるんですけど、突破力がないと『学校かくれんぼ』みたいな企画も生まれなかったと思うんです。“カギメンバーが学生とかくれんぼする”という作家さんの2行のアイデアから、そこに予算を投下して大人の美術力であれだけの舞台を作るというところに膨らませられたのは、演出がイキった感じで行けたからだと思うので、ぜひ若いディレクターはどんどん意見を言ってもらって、バンバンプロデューサーにぶつかってきてほしいです」と力説した。
○『ラヴィット!』の精神をTBSの文化に
一方の辻氏は「『ラヴィット!』は平日毎朝8時にやっているというのが何よりも強みだし、使命を背負ってると思います。しんどい人たちのわずかな光になればと立ち上げた番組ですが、僕もサラリーマンなので、そう遠くないうち番組を離れた時に、どんどん引き継がれてTBSの文化になればいいなと思ってますし、この継続性を作れるかが課題だと思っています」と強調。
さらに、「帯番組は週5回あって、今3年9か月くらいやってるんですけど、放送回数は900何十回を迎えているんです。これは週1の番組だと20年やってるくらいになっちゃうので、飽きられないように日々変容しながら、志を持って視聴者に届けていくのはとても難しい課題なので、そこを後輩につないでいければいいなと思っています」と決意を述べた。