『光る君へ』厳しい前評判から一変、非凡なドラマ作りに成功 画面注視データを総括

2024年12月29日(日)6時0分 マイナビニュース


●1000年前の人々に親近感が持てる設定
テレビ画面を注視していたかどうかが分かる視聴データを独自に取得・分析するREVISIOでは、2024年に放送されたNHK大河ドラマ『光る君へ』の視聴質分析をまとめた。
○少ない記録を逆手に取った大胆かつ繊細なストーリー展開
好評のうちに幕を閉じた『光る君へ』だが、その前評判は非常に厳しいものだった。「戦がない」「時代がマイナー」「紫式部と藤原道長以外に有名な登場人物がいない」「登場人物の名字が藤原だらけで見分けがつかない」など、大河ドラマとして明らかに不利な要素が多くあり、平和な平安時代を舞台に繰り広げられるであろう貴族たちの恋愛模様に、全く興味がもてないなどと散々に言われていた。
だが、第1回「約束の月」のラストシーンで、主人公・まひろ(紫式部)の母親が、道長の兄に刺し殺されるというショッキングな展開で評価は一変。回を重ねるごとに大きな反響を呼び、オンエアの時間帯は、X(Twitter)で関連ワードが毎週トレンド入りする人気ぶり。視聴率こそ振るわなかったものの、NHKプラスでの視聴者数も鑑みると十分な支持を得た大河であったといえるだろう。
そんな『光る君へ』の魅力は数多くあるが、大石静氏による秀逸な脚本と、個性豊かな登場人物にあることは間違いない。今より1000年前の古い時代ということで、残っている記録や著名な登場人物が少ないことを逆手にとり、大胆かつ繊細なストーリー展開と思い切ったキャラクター設定により、非凡なドラマ作りに成功した。
また、「出演者がみんな平安貴族っぽい薄い顔」だと思えば「ありえないほど真っ黒な大納言」が混じっていたりして、キャスティングが細部まで絶妙で話題性も十分だった。そして、視聴者がドラマに没頭できるかどうかは、視聴者自身が自分と登場人物の誰かを重ね合わせて感情移入ができることが重要なポイントとなる。普通に考えれば平安時代の超上級貴族を身近に感じることのできる現代人などほとんど存在しないが、『光る君へ』ではセリフが現代語に限りなく近かったり、登場人物が現代人と同じような言動をしたりと、今に生きる私たちが親近感を持てる設定に徹底したことも成功の要因といえるだろう。
筆者が個人的にすごいと感じたのは、全48回もの長丁場にもかかわらず、中だるみが一切なかったことだ。毎回何かインパクトのあるイベントや見どころが用意されており、毎週日曜日が本当に楽しみで仕方なかった。このような大河ドラマは初めてだと感じている。
さて、今回は総集編ということで、視聴者の注目度が高かった放送回の上位10回について、なぜこの回が注目されたのかを分析しながら、過去回を振り返っていきたい。
●最も注目度が高かった第29回「母として」
『光る君へ』で注目されるシーンは、「物語の展開」が注目されるパターンと「登場人物(キャラクターもしくは俳優)」そのものが注目されるパターンのどちらかに分かれる。さらに、そのシーンに「サプライズ」が含まれていた場合、注目度が激増する傾向がある。
最も注目度が高かった第29回「母として」は、「物語の展開」に「サプライズ」が加わった典型的なパターンといえる。主人公・まひろの夫という重要人物である藤原宣孝が、直前のシーンでは娘・藤原賢子(永井花奈)と楽しそうに遊ぶ元気な姿を披露していたにもかかわらず、その数日後には亡くなっており、まひろは宣孝の死を、宣孝の嫡妻の使者によって初めて知らされるというショッキングな内容だった。ようやく安定しつつあったまひろの生活が一転してしまう物語のターニングポイントであり、前週の予告で宣孝の死には一切触れられていないことから、多くの視聴者にとって大きなサプライズとなった。筆者は宣孝の没年を知っていたので、そろそろ退場となることは予想していたが、それでも、本シーンを視聴した時には「え?」と絶句したのを覚えている。
2位から4位に関しては、第36・34・.37回と同じ時期の回がランクインしているが、この頃の物語は、まひろがようやく『源氏物語』の執筆を始めた時期であり、『源氏物語』や『紫式部日記』に絡めたエピソードが多く描かれているのが特徴。「日本文学好き」の視聴者層にはたまらない展開だ。第36回「待ち望まれた日」では『紫式部日記』、第34回「目覚め」では『若紫』、第37回「波紋」では『若菜』を想起させる描写があった。
対して、5位から9位までは「登場人物」が注目されたパターン。6位の第30回「つながる言の葉」と、9位の第38回「まぶしき闇」では奔放な平安ギャル・あかね(和泉式部)の登場シーンが最も注目された。どちらの回でも女性注目度が男性注目度を上回っており、女性誌のファッションモデルとして活躍する泉里香の女性からの人気の高さを証明している。史実で伝わる和泉式部を泉はまさに体現していた(※ダジャレではない)。この第38回は、上位10位の中で最も世帯視聴率(※REVISIO調べ)が高い回でもある。予告では鬼の形相をした藤原伊周(三浦翔平)や、静かにブチギレするききょう(清少納言:ファーストサマーウイカ)などが映し出され、視聴者の期待度が高かった回での1位獲得だが、タイトルにある「闇」はあかねには全く見受けられなかった。
7位の第40回「君を置きて」では、武士の世の到来を暗示するオリジナルキャラクター・双寿丸が初登場を果たしたシーンが最も注目された。双寿丸を演じる伊藤健太郎が颯爽と登場するや、SNSではリアルタイムで視聴していた伊藤のファンのコメントで大いに盛り上がりを見せたのは記憶に新しい。双寿丸は男性オリジナルキャラクター3人衆(直秀・周明・双寿丸)の中で唯一生きのびることができた。東国の戦では戦功を立てることはできたのだろうか。
8位の第47回「哀しくとも」では、いつもは控えめな乙丸が「都に帰りたい!」と大声で叫び続けるシーンが最も注目された。泉や伊藤とは違い、中の人の俳優人気ではなさそう(?)だが、乙丸という登場人物のインパクトの大きなアクションが「サプライズ」となり視聴者の視線を引きつけたといえるだろう。
また、5位の第45回「はばたき」では、猫のこまるが突如現れ、視聴者の視線を「クギヅケ」にした。物語序盤で圧倒的な人気を博した源倫子の愛猫・小麻呂(ニモくん)がまさかの復活(?)と驚いた視聴者は多くいたと思うが、よく見ると違う猫だった。倫子の赤染衛門へのむちゃぶりもあいまって堂々の5位入賞となった。
○公任(町田啓太)の登場シーンに多くのファンが悶絶
『光る君へ』において忘れてはいけない人気キャラクターに公任(町田啓太)がいるが、残念ながら最も注目されたシーンの上位10回には入らなかった。だが、全回を通してトップ3にランクインした回数は数多く、その登場シーンに多くのファンは悶絶を繰り返した。公任が最も注目された放送回は、第3回「謎の男」、第6回「二人の才女」、第7回「おかしきことこそ」、第16回「華の影」、第26回「いけにえの姫」の計5回ある。また、2番目に注目された回は計3回。3番目に注目された回は計6回でトップ3にランクインした回数は合計で14回にのぼる。
10位の第46回「刀伊の入寇」は、「物語の展開」と「登場人物」の両方の要素に加え、「サプライズ」まで含まれている。刀伊の入寇というイベント次第が事前から視聴者の多くの関心を集めていたことに加え、ドラマ『最愛』(TBS)で吉高由里子と共演した人気俳優・松下洸平演じるオリジナルキャラクターの周明の登場シーンであり、しかも、胸に矢を受けあっけなく退場となるサプライズのシーンでもあった。3つの要素がすべて重なった結果、10位にランクインした。『光る君へ』では、唐突に退場となる人物が多く存在するが、その中でもこの周明の最期は本当にショッキングだった。
●『源氏物語』の執筆を始めたあたりから注目度上昇
上位10位はすべて第29回以降の物語後半であることも見逃せないポイントだ。特にまひろが『源氏物語』の執筆を始めたあたりから注目度が上がっているので、やはり『紫式部』や『源氏物語』に興味がある「文学好き」視聴者層が、『光る君へ』のメインの視聴者層であるといえそうだ。また、ほとんどの回で男性視聴者の注目度を女性視聴者の注目度が上回っていることから、普段は大河ドラマを見ない「少女漫画好き」、「恋愛モノ好き」、「推しの俳優目当て」の女性視聴者を取り込むことに成功したといえるのではないだろうか。
さて、数々の名シーンを生み出し続けてきた『光る君へ』だが、今回の記事では、視聴者の注目度が高かった放送回の上位10回について分析を行った。みなさんの好きなシーンはランクインしていただろうか。『光る君へ』には、他にも多くの名シーンがあるので、12月29日午後0時15分〜に放送される総集編を見て、1年の振り返りをしてみるのもいいかもしれない。
2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』の注目シーンを1年にわたって分析してきたが、読者のみなさんのおかげさまをもって、来年も引き続き、分析記事をリリースする。横浜流星主演の2025年NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』は、18世紀後半を舞台としており、この時代を描く大河ドラマは今回が初めてとなる。また、大きな戦がないという点も『光る君へ』と共通しており、従来の大河ドラマにはない魅力を再び見せてくれるのではないか。
REVISIO 独自開発した人体認識センサー搭載の調査機器を一般家庭のテレビに設置し、「テレビの前にいる人は誰で、その人が画面をきちんと見ているか」がわかる視聴データを取得。広告主・広告会社・放送局など国内累計200社以上のクライアントに視聴分析サービスを提供している。本記事で使用した指標「注目度」は、テレビの前にいる人のうち、画面に視線を向けていた人の割合を表したもので、シーンにくぎづけになっている度合いを示す。 この著者の記事一覧はこちら

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