37歳の西田敏行が体を張って「10頭もの犬に引かれて大氷原へ」エベレスト、北極圏での長期ロケも… 「植村直己物語」を採点!
2024年12月30日(月)19時0分 文春オンライン
〈あらすじ〉
1973年、東京。グリーンランドで3000キロの犬橇単独行を成功させた世界的冒険家の植村直己(西田敏行)が、数年ぶりに帰ってきた。駅で偶然出逢った野崎公子(倍賞千恵子)と馴染みの店で運命的に再会した直己は、自分の著書を彼女にプレゼントする。病弱で結婚を諦めていた公子だったが、直己のそれまでの破天荒な人生に感銘を受け、プロポーズを受け入れる。
結婚後も直己の冒険精神はとどまるところを知らず、北極圏1万2000キロの犬橇単独行、犬橇での北極点単独到達と、次々と偉業を成し遂げていく。そして84年、冬季では初のマッキンリー単独登頂後、直己が行方不明になったという報せが公子のもとに届き——。
〈解説〉
世界初の五大陸最高峰登頂など、数々の偉業を達成した植村直己の生涯を描いた伝記映画。モンブラン、エベレスト、北極圏で長期ロケを敢行したアドベンチャー大作であり、妻・公子視点の直己像や夫婦の絆、直己が単独の冒険を求めた理由も描かれる。撮影当時、西田は37歳。監督の佐藤純彌は、続く『敦煌』(88)でも西田を主演に起用した。
中野翠(コラムニスト)
★★★★★全身、厚着で顔もよく見えない状態。10頭もの犬に引かれて大氷原へ。やたらと泣く場面があるものの、ほとんど顔を隠した全身演技。撮影チームも大変だったろう。犬を叱る場面、笑う。大きな青空。
芝山幹郎(翻訳家)
★★★★☆善良さを強調するときの西田敏行は苦手だが、身体を張って勝負できるのは彼の強み。エゴを消し去り、氷原や高山に向き合っている。耳の鋭さも特筆もの。CGを使わぬ映像と、廉直な語りが印象的だ。
斎藤綾子(作家)
★★★★★単独登頂に拘る理由は最小単位の自分の体で挑戦するためと。植村(西田)の人懐っこさや誠実さが切実に伝わり猛烈に感情移入。雪洞に全てを残して消えたのは異世界に召喚されたと夢想したいほど。
森直人(映画評論家)
★★★★☆稀代の登山家の冒険と生き様をガチで追体験する壮大な試み。もはやドキュメントに近いだろう。ひとつの執念に取り憑かれたように、大自然の怪異に個の肉体と魂で食らいつく西田敏行の姿は圧巻だ。
洞口依子(女優)
★★★★☆植村直己と西田敏行が入れ替りを劇中で体現したような怪作。アップより望遠レンズに収まる勇姿に震撼。冒険家を支える妻もまた冒険家なり。妻が無線機の前から去って茶漬けを掻っ込む姿が健気だ。
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植村直己物語
1986年公開
佐藤純彌監督、140分
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2025年1月2日・9日号)