個人情報を勝手に出版された脱北者、出版社を訴え勝訴

2021年1月16日(土)7時40分 デイリーNKジャパン

北朝鮮を逃れ、韓国にたどり着いた脱北者はまず、国家情報院の北韓離脱住民保護センター(旧政府合同尋問センター)で取り調べを受ける。脱北者を偽ったスパイや重大犯罪者が混じっている可能性があるからだ。


その後は、統一省のハナ院で3ヶ月間、南北の言葉の違いから公共交通機関の利用方法に至るまで、韓国生活の様々について教育を受けてから、韓国での新しい暮らしをスタートする。それでも「世間知らず」であるが故に、犯罪の被害者となる事例が後を絶たない。


ある脱北者は、自分の個人情報が書籍に無断で掲載され、出版社を相手取って、裁判を起こした。詳細を韓国の中央日報が報じている。


脱北者のAさんは、ネット検索中に偶然自分の実名の入った書籍を、統一問題専門家を名乗るB教授が無断で出していることに気づいた。本人や父親の北朝鮮での職業、韓国にともにやってきた家族、北朝鮮に残してきた家族、脱北に協力した人の名前まで晒されていた。


Aさんは中央日報の取材に対し、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)での勤務経験があることから、韓国のテレビ局などから出演依頼があったが、北朝鮮に残して生きた家族が心配ですべて断ってきたと語った。それなのに、思いもよらぬところで自分の個人情報を発見し、強い衝撃を受けたという。


本の内容は、Aさんが、まさか外部に漏れることはないだろうと思い引き受けた、ある大学での講演会で語ったものをベースにしたものだった。自分の名前だけでも削除してほしいとB教授に申し出たところ、返ってきた答えは「カネが要るのか」というとんでもないものだったという。Aさんは友人の力を借りて、大韓弁護士協会を訪れ、提訴に至ったとのことだ。


北朝鮮の保衛部(秘密警察)は地元の脱北者家族から、脱北して韓国などに住む家族に送金するように指示して、カネを巻き上げている。断れば、酷い目に遭わされることは言うまでもない。また、脱北するリスクが高いとして厳しい監視下に置かれたり、奥地に追放されたりするなどのおそれがあるため、脱北者とその家族の個人情報が北朝鮮当局に知られることは、家族の命に関わることだ。


大韓弁護士協会が11日にリリースした報道資料は、Aさんの代理で、協会の北韓離脱住民法律支援委員会が起こした公益訴訟の内容について明らかにしている。


ソウル南部地裁は昨年7月、脱北者の同意なしに個人情報を出版したことは、憲法が保障する人格権、個人情報自己決定権を侵害するもので、公開された個人情報であっても、処理は本人のコントロール下にあるべきものだと指摘。同意なき個人情報の利用は違法だと判断し、出版社に対して500万ウォン(約47万3000円)の損害を賠償せよとの判決を下した。


ソウル高裁は昨年11月、1審の判断を認めつつも、賠償額を300万ウォン(約28万4000円)に減額した。出版社が上告したなかったため、判決は確定した。


名門大学に通っている脱北者でもこのような被害に遭うのだから、一般の脱北者はさらに「カモ」にされやすい。朴槿恵前大統領を擁護する極右団体「オボイ連合」は、貧しい脱北者や老人に日当を支払い、セウォル号沈没事故の遺族の集会の襲撃に参加させていた。


また、「性暴力」という概念を知らず、その被害に遭う脱北女性も後を絶たない。昨年7月には、脱北者を保護する立場の警察官が、脱北女性に長期間にわたって性暴力を振るっていたことが明らかになっている。


デイリーNKジャパン

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