「薬草育てろ、でも採取するな」命令に反発する北朝鮮庶民

2020年4月9日(木)6時24分 デイリーNKジャパン

北朝鮮で、毎年4〜5月は薬草栽培月間だ。北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は1日の紙面に「春の薬草栽培月間事業に積極的に乗り出そう」との記事を掲載し、「意味深い今年は薬草を植えるのにより多くの骨を折って薬草資源を積極的に保護、増殖しなければならない」などと主張した。


また、「世界的に新型コロナウイルス感染症の危険性がさらに拡大している現状に合わせて、薬草栽培と関連する技術講習をはじめ、月間にすべき事業を徹底して国家的に下された指示文の要求に従って執行されなければならない」とも述べている。


このように当局は、ウイルスを防ぐために免疫力を高めよ、そのために薬草を栽培せよと宣伝しているが、それが薬草の採取ブームを煽ってしまい、当局は取り締まりに乗り出した。しかし、国際社会の経済制裁に加え、コロナ対策としての国境封鎖、貿易中断で市場から活気が失われた状態で、数少ないアイテムとして薬草が脚光を浴びていることもあって、乱獲を抑えきれずにいる。


両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、山林経営所の山林保護員が各機関、企業所、人民班(町内会)に出向き、山林資源を保護しようと約40分の講演を行っている。その内容は概ね次のようなものだ。


「気候条件の良い今は薬草が育つ時期なのに、乱獲すれば絶滅してしまう。値の張る薬草は、育つのに何年もかかる、1本抜いたら2本、3本と植えておくのが原則だ。そもそも薬草の採取には許可が必要だ。乱獲で山林を荒廃させた機関、個人は処罰される」


これでは「薬草を頑張って育てよ、でも採取はするな」と言っているようなものだ。山林保護員の話を聞いた住民からは「病気になって飲む薬がある環境だったら、誰がわざわざ山に分け入って薬草なんか取るもんか」と反発の声が上がっている。


そもそも薬草の栽培や採取は今に始まったことではなく、当局はかなり以前から奨励してきた。


国際社会の制裁により経済的に苦しくなる前から、北朝鮮北部に住む人々は、山に生えた薬草などの様々な植物を採取し、貿易会社などに売り渡して現金収入としてきた。ススキから大麻に至るまで様々な草が採取されている。


その中の最たるものは「白桔梗(ペクトラジ)」、つまりアヘンだろう。1980年代から金正日総書記の指示で、咸鏡道、両江道、慈江道(チャガンド)などの北部山間地域に大規模な農場を作り、アヘンを栽培していた。



農民たちは貧しさから逃れるため、国から言われるがままにアヘン栽培に手を出したが、その見返りとして約束されたはずの食料配給は届かず、多くの農民が餓死した。


アヘンは1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」の頃、国内でも密売されるようになり、取り締まりが強化されたが、家庭では1グラムから10グラム程度のモルヒネを常備薬として置いている場合が多い。取り締まりの対象とならない上に、緊急時に現金代わりとして使えるからだ。

デイリーNKジャパン

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