照明デザイン大家、面出薰氏が中国での仕事の面白さと「がっかり」を語る―香港メディア
2025年4月13日(日)23時0分 Record China
照明デザインの大家の面出薰(めんで・かおる)によると、これまで中国で手掛けた仕事には、面白い面と「がっかり」させられる面が同居するという。写真は面出が照明を手掛けた中国中央電視台本部ビル。
香港メディアの香港01はこのほど、照明デザインの大家で建築照明デザインの創始者としても知られる面出薰(めんで・かおる)氏とのインタビューを紹介する記事を発表した。
面出氏は1950年6月生まれ。東京芸術大学美術学部デザイン科に入学し、環境デザインの仕事に興味を持ったところ、教授の勧めで建築照明デザインの道に入った。1990年前後には、市民参加型の「照明探偵団」という組織を結成して、いまもデザイナーなどを率いて各地を視察している。
苦労と面白さが同居した中国での初仕事…国家大劇院
面出氏が初めて中国大陸部で参加したプロジェクトは国家大劇院だった。所在地は北京市内の長安街という大通りの近くだ。長安街周囲には、中華人民共和国が成立してから早い時期に築かれた大型建物も多いが、ソ連の建築様式に影響を受けた、重厚な雰囲気の建物が多い。2004年に着工された国家大劇院は、それらとは違い「未来的」な雰囲気も濃厚な建物だ。
面出氏が同プロジェクトに参加したきっかけは、フランス人建築設計家で同劇院の設計全体を手掛けたポール・アンドリュー氏(1938−2018年)に誘われたことだった。面出氏が声を掛けられた時点で建設はほぼ完了しており、ポール・アンドリュー氏から突然に「共用部分のドームに照明を加えてほしい」と頼まれたが、「今さら?」と思って最初は断った。しかし、アンドリュー氏の熱意に押されて引き受けたという。面出氏は、「あの苦労と面白さが同居した仕事の思い出は今も鮮明です」と語った。
実際にやってみると、そう簡単ではなかった。当時は照明デザインについて「室内にはシャンデリアや明るいライトを使うべき」という先入観があったが、それでは上手くいかないと思った。面出氏はアンドリュー氏に「そのようなデザインでは天井がかえって暗くなり、ここを訪れる全ての人がより陰鬱(いんうつ)な雰囲気を感じることになる」と説明した。
面出氏は自分自身の照明についての理念を「私は自然光をできる限り活用する主義です」と説明した。そこで、国家大劇院の共用ホールの照明ついては、視点の変化を分析して12パターンの背景明度をシミュレーションしたうえで、照明のデザインを決めたという。[国家大劇院]
ただ、面出氏にとって残念だったのは、施工管理を任されていなかったことだ。面出氏は「今の仕上がりも悪くはありませんが、(私の)最初の構想とは少し違います」と説明した。面出氏によると、デザイン担当者が施工やその監督に関与させてもらえないことは、中国のプロジェクトでよくある問題という。また面出氏は国家大劇院での経験で、設計から施工、監理まで一貫して任せてもらえることの重要性を痛感した。
中国中央でも収獲あったが同じ「心残り」も
面出氏は参加した中国のもう一つの重要なランドマーク・プロジェクトである中国中央電視台(中国中央テレビ、CCTV)本部ビルの照明デザインでも、同じような問題に直面した。中国中央テレビ本部ビルは総建築面積が55万3000平方メートルもあり、その革新的な外観でも大きな話題になった。面出氏は、スタジオの特殊照明を除くビル内のすべての空間の照明の設計を依頼された。
面出氏によると、中国中央テレビの本部ビルの仕事では、若い建築家らとの議論がとても刺激的で、照明の設計のために多くの施設を観察することもできた。ただ、施工の現場には関与させてもらえなかったことで「心残り」があるという。面出氏は、照明デザインは施工の現場で完成させるものと考えている。施工業者に細かく指示し、時に修正を求める必要がある。そうしてこそ、デザイン性を深めることができるという。!<1400835>[中国中央電視台本部ビル]
「ゲストのため」徹底させたホテルの照明設計
面出氏が中国で携わった建築には、上海市内で建築されたホテルの養雲アマンもある。面出氏によると、アマンリゾーツは世界各地で、その土地の文化を自らのプロジェクトに取り入れるブランドだ。面出氏も照明デザインでは現地文化に敬意を払うことを重要な原則にしており、アマンリゾーツの仕事は自らの理念に合致していた。
建築設計全体の責任者を務めたケリー・ヒル氏は養雲アマンで「永遠の美」という設計テーマを掲げており、そのことが面出氏に大きなインスピレーションを与えた。建築自体が歴史を感じさせるもので、内部には木造構造が多く用いられていたため、面出氏は独特な中国スタイルを生み出そうと試みたという。!<1400879>[上海養雲アマンホテル]
面出氏がホテルの照明設計で貫いている原則に「ゲストのための設計」がある。養雲アマンでも同様で、例えば高級ホテルの朝食ではシャンパンを飲みながらステーキを味わったり、養雲アマンの場合には繊細な点心(中国式小皿料理)を楽しんだりすることが人気だ。そして、高級ホテルだけにどこもかしこも儀式感に満ちている。
面出氏はその雰囲気を演出するために中国式の屏風を製作して、さまざまな空間でふんだんに活用した。屏風越しに風景を見るにせよ、透かし彫りの模様から映し出される灯りを感じるにせよ、より立体的で上品に仕上がるからだ。
面出氏によると、常に自然を模倣するつもりで照明を設計しており、内から外へという照明手法を尊重している。そのため、すべての空間には高い位置からの直射光が存在せず、できる限り光源は隠している。そして、空間ごとの照明の色温度や明暗は常に変化している。簡単に言えば、各エリアでは照明制御により、少なくとも日の出、正午、夕暮れという三つの雰囲気を満たすことができるという。!<1400878>[上海養雲アマンホテル]
面出氏はアマンリゾーツについての照明設計について、「五つの低」の原則をまとめたことがある。低照度、低色温度、低照明位置、低コントラスト、低エネルギー消費だ。これらはいずれも、「ゲストのため」の一点を指向するものだ。
面出氏は仕事の全般について、「照明デザインは触覚のようなもので、私に世界を感じさせてくれます。あらゆる物事がこれほど急速に変化し、照明設計の技術も日進月歩である中で、私は常に冷暖を感じ取る鋭敏な心を持ち続け、好奇心を持ち、すべてを受け入れていきたいと願っています」と述べた。(翻訳・編集/如月隼人)