公共の場で飲酒規制、どう思いますか?

2025年4月18日(金)16時1分 読売新聞

[The論点]

 屋外での飲食に適した気候になってきました。お酒は花見やバーベキューといった屋外での行楽に欠かせない存在ですが、世界を見渡すと、路上や公園など公共の場での飲酒を禁じている国が少なくありません。日本でも論じられるようになっている飲酒規制についてどう思いますか?

[A論]犯罪抑止へ法規制…放任の国は少数派

 世界中から観光客が集まるフランス・パリでは2022年から、多くの歴史的建造物を眺められるセーヌ川沿いの一部路上で、夏場は夕方以降、飲酒を禁止しています。市の条例に基づく措置で、騒音や迷惑行為を防ぐことが目的とされています。

 友人と時々、川岸で散歩やおしゃべりを楽しむというパリ在住の料理人エディットさん(26)は「お酒を楽しんだとしても、人に迷惑をかけたり攻撃的になったりしてはいけないので、屋外である程度禁止するのは理解できる」と言います。

 昨年のパリ五輪・パラリンピック期間中は、競技会場内での観客の飲酒を原則禁止しました。治安を重視する傾向があるようです。

 もっとも、禁止区域といっても、禁止を明示する看板などはありません。ビールやワインを飲む人の姿も散見され、規制の周知には課題がありそうです。

 米国の場合、国全体を対象にした法律はなく、州や自治体によって対応が異なります。ニューヨークやカリフォルニアを含む多くの州では公園や路上、公共交通機関などでの飲酒に関する規制があります。

 カリフォルニア州はバーやレストランを除く公共の場での飲酒や、開封されたアルコール飲料の所持も禁じています。路上で泥酔して大声で叫んだり、友人と口論の末にけんかしたりした場合、禁錮6月の刑が科されることもあります。

 州では、地域経済の活性化を目的に今年1月、郡や市が指定する区画に限って路上飲酒を認める法律が施行されました。

 ただ、州南部の有名なビーチリゾート、サンタモニカでは目抜き通りでの路上飲酒を認めるかどうかを巡って結論が出ていません。フィル・ブロック前市長(71)は「(カクテルの)マルガリータをダブルで飲んだ人たちが、本当に店で買い物をするのか」と否定的です。アルコール依存症の増加につながることを懸念する声もあります。

 アルコール度数が高いウォッカが有名なロシアでも公共の場での飲酒が禁止されています。ロシアではソ連時代からアルコールに関連した死者や犯罪の多さが社会問題になってきましたが、2000年から政治実権を握るプーチン大統領は健康志向が強く、13年に公共の場での飲酒を禁止して、違反者に罰金を科す法律も施行しました。

 14億人超が暮らすインドでは、公共の場での飲酒を刑法で禁じています。公共の秩序と国民の安全を守るためという趣旨です。主要国では規制がない方が少数派のようです。

[B論]自己責任で楽しむ…祭り・歓談「文化の一つ」

 真夏の祭典「リオのカーニバル」で知られるブラジル・リオデジャネイロでは、公共の場での飲酒規制は議論にも上っていません。カリオカ(リオ市民)に規制について尋ねると、「クレイジーだ」「大暴動が起きる」と否定的でした。

 カーニバルでは約1か月にわたって市内約500か所の公道や広場で路上カーニバル「ブロッコ」が繰り広げられます。今年は800万人以上が仮装して街に繰り出し、ビール片手にサンバの演奏に合わせて踊って騒いで楽しみました。

 技師のウィリアム・ペレイラさん(25)は「カーニバルは、誰もが参加できるパーティーだ。飲酒を規制したって守る人なんかいないから無意味だよ」と話しました。

 ブラジルは、貧富の格差が大きい国の一つです。世界不平等研究所(本部・パリ)によると、2023年、富裕層の上位10%が資産の約8割を独占しています。レストランやバーで飲酒すると高額になりますが、路上では経済力は関係なくどんちゃん騒ぎができます。

 ブロッコのそばには、路上でビールやカイピリーニャ(ブラジルのカクテル)を販売する売り子が大勢集まります。売り子のアンドリュス・ソアレスさん(26)によると、売り上げは本職の理容師としての月収の10倍に上るそうです。

 弊害もあります。今年のカーニバル中にリオ州が飲酒運転で罰金を科したドライバーは約960人。急性アルコール中毒での救急搬送も相次ぎました。

 カーニバルの時期以外でも、カリオカは週末になると、クーラーボックスにビールを詰めて海岸に繰り出します。波の音を聞きながら冷たいビールを飲んで暑さをしのぎ、家族や親しい仲間とのんびり過ごします。保険営業員チアゴ・ファイスロンさん(24)は「公共の場での飲酒はけんかや混乱を招く面もあるけれど、文化の一つ。カリオカは世界中で一番幸せな人たちだ」と話しました。

 飲酒に年齢制限を設けないなど個人の判断尊重を徹底しているのが、北欧デンマークです。公共の場での「酒盛り」に眉をひそめる人は少ないそうです。

 デンマークは判断の「自己決定」を教育の柱に据えています。飲酒の是非も、年齢を問わずに自分自身で決めるべきだとする考えが根付いているのです。

 首都コペンハーゲンの現地企業に勤める田中新さん(35)によると、多くの高校では月に1度、「Friday Bar」(金曜のバー)と称し、学校施設内でビールやワインなどを飲む交流会が開かれるということです。

日本は「聖地」誤解も

 酒に寛容とされる日本では、公共の場での飲酒を禁じる法律はありません。海水浴場のある神奈川県逗子市やスキーリゾートの長野県白馬村など一部の自治体が、時間や場所を限って規制するにとどまっています。ただ、近年は新たに条例を制定する動きが都市部で広がり始めています。専門家は「酔った観光客らによる目に余る行為が住民を不安にし、規制の機運が高まってきた」とみています。

 その一例が東京都渋谷区です。渋谷区では2018年にハロウィーン(10月31日)時期の騒ぎで酔った若者や外国人らが軽トラックを横転させる事件を起こしました。区は同時期の路上飲酒を禁止する条例を翌19年に制定しました。24年には対象エリアを拡大し、禁止期間も通年にしました。

 区には規制を検討する都内外の自治体からの問い合わせが相次いでいます。隣接する新宿区も24年に条例を制定しました。

 公共の場での飲酒規制について、城西国際大の佐滝剛弘教授(観光政策)は「路上での飲酒や酔って寝るなどの光景をSNSで見た外国人が、『飲酒の聖地』だと勘違いして騒ぐようになったことが背景にある」と分析します。

 飲酒しない若者が増えています。日本国内でも路上飲酒への風あたりが強くなる可能性もあります。(パリ支局 梁田真樹子、ロサンゼルス支局 後藤香代、リオデジャネイロ支局 大月美佳、ニューデリー支局 浅野友美、ブリュッセル支局 酒井圭吾、国際部 村岡拓弥)

[情報的健康キーワード]ボット

 SNSへの投稿やサイトの情報収集などを自動で行うプログラムのことです。AI(人工知能)が質問に自動で応答する「チャットボット」は、企業の顧客対応や自治体の災害情報発信などで活用されています。

 その一方で、偽情報の拡散やサイバー攻撃への悪用も問題となっています。

 ロシアによるウクライナ侵略を巡っては、X(旧ツイッター)上に拡散した露のプロパガンダの投稿の中に、人間を装ったボットによるものが確認されました。露情報機関の関与が指摘されています。

 大量のデータを送りつけ、システム障害を引き起こす「DDoS(ディードス)攻撃」では、インターネットとつながるIoT機器をコンピューターウイルスで乗っ取り、攻撃を仕掛けるボットとして使われています。

ヨミドクター 中学受験サポート 読売新聞購読ボタン 読売新聞

「飲酒」をもっと詳しく

「飲酒」のニュース

「飲酒」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ