小山昇氏が伝授、万年赤字部門を黒字化させた「データ経営」とは

2023年5月18日(木)5時0分 JBpress

 リーマンショック、東日本大震災、新型コロナウイルス感染症ー。想定外の出来事の連続で、会社を取り巻く外部環境は過酷を極めている。しかし、「時代がどう変わっても、変化に合わせて会社をつくり変えていかなければいけない。会社が生き残れるかどうかは、『時代の変化に自社を対応させていけるかどうか』で決まる」と語るのは、武蔵野の小山昇社長だ。

「中小企業は、変化を起こすことはできない。けれど、変化についていくことはできます。変化を見逃さず、いち早く対応する。そのための武器が『データ』です」と語る真意はどこにあるのか。小山氏の著書『データを使って利益を最大化する超効率経営』(あさ出版)より、データを活用した経営のポイントを紹介する。

(*)本稿は『データを使って利益を最大化する超効率経営』(小山 昇著、あさ出版)から一部を抜粋・再編集したものです。


デジタル技術を使って、従来のビジネスに変革をもたらす

 コロナ禍により、多くの企業がビジネス環境の激変に直面している中、広く注目を集めているのが、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」と「データドリブン経営」の考え方です。

 中小企業の場合、「聞いたことはあるけれど、何のことだか、よくわからない」「大企業が進めるもので、うちには関係ない」「従業員のITスキルが低いので、使いこなせない」「費用対効果のわからないものに投資できない」と、デジタル化に消極的な社長も少なくありません。ですが私は、「デジタルとアナログの融合」こそ、中小企業の推進力になると考えています。

 デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation/DX)とは、2004年にウメオ大学(スウェーデン)のエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念です。2018年には、経済産業省が日本企業を対象に再定義しています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」(「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン Ver.1.0/平成30年12月/経済産業省)

 トランスフォーメーション(Transformation)は、直訳すると「変化、変形」の意味ですから、経済産業省の定義をさらにわかりやすく説明すると、「デジタル技術を使って、従来のビジネスに変革をもたらす」ことです(英語圏では「trans-」の略に「X」を使うことから「DX」と表記される)。


DX化とIT化の違いは「目的」と「手段」

 DX化とIT化を混同している社長がいます。ITは、「Information Technology」の略語で、「情報技術」の意味です。DX化とIT化の関係は、「目的」と「手段」の関係です。

【DX化(目的)】
ビジネスに変革をもたらすこと

【IT化(手段)】
ビジネスの変革をもたらすために(DX化のために)、デジタルツール、業務ソフト、アプリなどを導入すること

 DX化は、IT化を手段と捉えて、業務効率化を図る考え方です。武蔵野が「商品の入出庫管理をiPadのシステム(ダスキン精算システム)に置き換えた」のは、IT化の例です。

「商品の入出庫管理をiPadのシステム(ダスキン精算システム)に置き換えたことで、移動の空き時間に精算作業ができるようになった。その結果、毎日20〜30分かかっていた精算・入力作業と月末の棚卸し作業が不要になり、労働時間の短縮につながった」としたら、それは「ダスキン精算システム」という「手段」を用いたDX化の一例と考えることができます。


直感や経験に頼るのではなく、データをもとに会社を動かす

 デジタルトランスフォーメーションの推進にあたって、もっとも重要なのが、「データドリブン経営」です。データドリブン経営とは、「データ主導による経営手法」のことです。

【データドリブン経営】
収集・蓄積された客観的なデータを分析し、分析結果にもとづいて企業の方針を決める経営のこと。経営管理や売上のシミュレーション、適切な人材配置などに活用可能

 ドリブンは、英語の「drive」の過去分詞(driven)に由来します。データドリブン(Data Driven)を直訳すると、「データを起点にした」「データ駆動型の」という意味です。つまり、直感、主観、ヤマ勘に頼るのではなく、「収集したデータを総合的に分析して、会社を動かす」ことが、データドリブン経営です。

 武蔵野は、市場の変化に即時対応できる「データ主導型」の組織づくりを目指し、2019年から、データドリブン経営へ舵を切りました。私は、データ(数字)を見て経営判断をしています。データはウソをつきません。社長の直感による判断を避け、データと数字を重視すると、会社やマーケットで何が起きているのかを正確に把握できます。

 コロナ禍で多くの中小企業が停滞、撤退、自粛を余儀なくされていた中、新規事業部(クリーン・リフレ事業部)を立ち上げました。緊急事態宣言の発令中にも守りに入らず、次のアクションを打てたのは、数字、データを客観的に分析し、その結果にもとづいて組織を動かしているからです。データを起点に経営をすれば、会社の異常をいち早く察知することが可能です。

 わが社は、部門ごとの損益(売上や経費など)を毎日更新、グラフに落とし込んで可視化しています。時系列で数字を追うことができるため、異常値の発見や、損益の予測ができます。

 グラフが下降傾向を示したときや、利益目標と実績に大きな差が出たとき(目標を大きく下回ったとき)は、その理由を探り、ただちに対策を立てます。会社の問題点を早期発見するには、会社の数字をデータ化・可視化することが大切です。


10年間赤字続きだった事業部が、急伸した理由

 一般的に、「使った労力」と「得られた結果」のバランスが取れているとき、「効率的」「効率がいい」と表現します。データを業務改善に役立てれば、使った労力以上の結果を得ることも可能です。つまり 「超効率的な経営」 が実現します。

 かつての武蔵野は、「10の売上を上げるのに、10のしくみ」が必要でした。ですが現在は、データによる業務の超効率化が進み、「5のしくみで、10の売上を上げる会社」に変わっています。

 その一例が、ダスキンライフケア事業部の業務改善です。ライフケア事業部は、シニア家庭の家事代行を行う事業部です。

 高齢社会のニーズに応える大事な事業でありながらも「10年間連続赤字」でした。ところが、わずか3年間で急成長。この事業部がここまで黒字化するとは私も思っていませんでした。
 
 56期(2019年度)にはじめて200万円の黒字になり、57期(2020年度)はコロナ禍の影響で減少傾向を見せたものの500万円の利益、58期(2021年度)は驚異的な回復を見せています(売上4億1700万円、営業利益610万円は過去最高)。

 ライフケア事業部が黒字化した要因のひとつは、「データ分析」をして、契約数を伸ばしたことです。

【ライフケア事業部が行ったデータ活用例】

■スピード対応(ルッカースタジオ「スピード対応」)

 ルッカースタジオとはデータの管理・整理・分析・可視化ツールのこと。お問い合わせからの対応時間の割合をグラフ化。営業時にお客様にお見せして、ライバル会社と武蔵野の「対応力」の差を知っていただく。対応時間が早くなるほど、成約につながる。

ルッカースタジオ「スピード対応」で問い合わせへの対応時間を可視化

■お問い合わせ後の2次対応(ルッカースタジオ「後追い」)

 お問い合わせをいただいたあと、その後の連絡がないものについては、対応できていなかった。お問い合わせの進捗状況をデータ管理したことで、計画的な2次対応(成約には至らなかったお客様への後追い、フォロー)が可能になった。

ルッカースタジオ「後追い」でお客様の検討状況等を可視化

 データを活用した「スピード対応」と「2次対応」の結果、57期に「118件」だった新規契約数は、58期に 「166件」、57期に「48件」だった定期獲得件数は、58期に 「65件」 まで伸びています。そしてこの2つのデータ化によって、府中ステーションは10カ月連続で全国1位を、杉並ステーションは自店の最高記録を達成しました。

 わが社のライフケア事業部がそうだったように、中小企業こそ、データ活用の効果は大きい。データを分析し、未来予測・意思決定・計画立案などに役立てることで、赤字事業を超効率的に黒字化することもできるのです。

筆者:小山 昇

JBpress

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