【舛添直言】G7と中国、ウクライナ戦争後の国際秩序をにらみ激しい駆け引き

2023年5月20日(土)6時0分 JBpress

(舛添 要一:国際政治学者)

 ウクライナ戦争は停戦の見通しも立たないまま、戦闘が続いている。そのような中で、5月19日から広島で主要先進国首脳会議(G7、サミット)が始まった。政府債務上限問題で訪日しない可能性まで示唆されていたバイデン大統領も参加した。

 しかし、G7が対ロシアで結束しても、それが直ちに停戦に結びつくわけではない。そのような中で、注目に値するのが中国の動きである。


中国の李輝ユーラシア特別代表がウクライナ訪問

 中国の李輝ユーラシア事務特別代表は、16、17日にウクライナを訪れ、クレバ外相やゼレンスキー大統領と会談した。

 クレバ外相は「ウクライナの主権と領土の一体性を尊重した平和回復の原則」を説明し、ウクライナが領土を失うことや、「紛争の凍結」を含む提案は、受け入れないと強調した。要するに、<クリミア奪還まで戦う>という主張を繰り返したのである。

 これに対して、李特別代表は、「相互信頼を築き、停戦と和平交渉を行うための条件を整える必要がある」と発言し、中国は今後もできる限りの支援を行うと述べた。ウクライナ側も「停戦と平和を取り戻すために中国が積極的な役割を果たすことを歓迎する」と応じたという。

 中国外務省は「中国は常に独自の方法でウクライナの人道的状況を緩和するために建設的な役割を果たしており、今後も能力の範囲内でウクライナを支援する」と述べている。


習近平主席が展開する「仲介外交」

 李輝特別代表は、駐露大使を務めたロシアン・スクールの代表であり、今回の李輝特別代表の派遣は、3週間前の4月26日に行われた習近平主席とゼレンスキー大統領との電話会談で決まった。この電話会談は、昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、初めて行われたものである。

 この電話会談で、習近平は「対話と協議が唯一の実行可能な道である」として、「中国はできるだけ早期の停戦と平和回復のために自ら努力を尽くす」と述べ、ウクライナへの人道支援を継続すると明言した。ゼレンスキーは、中国による人道支援に感謝するとともに、「中国が平和の回復のために、外交的な手段を通じて危機の解決に重要な役割を発揮することを歓迎する」と応じた。

 李輝特別代表は、ウクライナの後、ポーランド、フランス、ドイツ、ロシアを歴訪するという。サウジアラビアとイランを握手させたように、習近平が主導する中国の仲介外交が、ウクライナ戦争の停戦に向かってスタートしたと言ってもよい。

 停戦へのイニシアティブをとれるのは大国であるが、アメリカはNATOの盟主としてウクライナ支援に徹底的にコミットしており、動きにくい。そのような中で、ロシアやアメリカとは異なる立場を活用できる中国やインドの重みが増していく可能性がある。

 トルコという大国も、穀物輸出で国連とともに効果的な仲介役を果たした実績を見ても分かるように、今後も仲介役として期待できる。

 しかし、今行われている大統領選挙は、28日の決選投票まで最終結果が出ない。エルドアン大統領が負けて、野党統一候補のクルチダルオール勝利となれば、親欧米派の政権に代わるため、仲介役としては存在感が薄れてしまう。


ウクライナとの関係維持しつつ、ロシアの大敗北も避けたい中国

 中国は、最大の課題がアメリカとの覇権争いであることを認識しており、ウクライナ戦争の終結のあり方も、米中競争で自国が有利になる方向であるべきだと考えている。

 その観点からは、中国は、ロシアが徹底的に敗戦することは避けたいのであり、戦争の調停役に乗り出したのは、その点でウクライナを説得する意向だからである。

 もともと中国とウクライナとの関係は良好であり、ウクライナの最大の貿易相手国はかねてからロシアであったが、2019年以降は中国がロシアを追い抜いてトップになっている。ウクライナからは、鉄鉱石、トウモロコシ、ひまわり油、大麦・裸麦などが中国に輸出されている。中国からは、工業製品を中心として幅広い品目がウクライナに輸出されている。

 中国とウクライナは、2013年12月に「中国ウクライナ友好協力条約」を締結している。ウクライナは「一つの中国」を認め、台湾独立を支持しない。

 一方、ソ連邦の解体に伴って核兵器を放棄したウクライナに、ブダペスト覚書(1994年)と同様な安全保障を中国は供与している。つまり、ウクライナが攻撃されたときに、中国は安全を保障するというのである。2014年のロシアによるクリミア併合、そして昨年のウクライナ侵攻によって、このブダペスト合意は意味を無くしてしまったが、中国とウクライナは以上のような友好関係を続けてきたのである。

 その友好関係を基盤にして、中国はウクライナとロシアの仲介役を演じようというわけであるが、同時に中国はロシアとの緊密な関係にひびを入れることも避けたいと考えている。


G7サミットに対抗して注目も中央アジアサミット

 中国の狙いはアメリカによる一極支配体制の打破である。そこで、様々な手を打つ。たとえば、アメリカとヨーロッパ諸国の離反を画策する。マクロン仏大統領が4月に訪中した際に厚遇し、台湾問題についてヨーロッパの立場はアメリカと異なるという言質をマクロンから引き出している。

 マクロンは、欧州は米中間の第三極であるべきだとして、「最悪の事態は、欧州が台湾問題で追従者となり、アメリカのリズムや中国の過剰反応に合わせねばならないと考えることだ」と語ったのである。

 広島で開かれるG7では中国への対応も議論されるが、それを牽制するために、中国は、中央アジア5カ国と首脳会議を18、19日に開催した。習近平は、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの首脳を西安に招き、協力関係の強化を打ち出した。

 この会議の狙いは、アメリカ一極体制とは異なる多極化世界の構築である。中国とこれら5カ国との貿易総額は急増しており、習近平の進める「一帯一路」構想の実現に役立つという認識である。地理的にも中央アジアはかつての「絹の道」の経路であり、戦略的にも重要な地域である。

 この地域、さらにその先には、ウクライナ、そしてヨーロッパがある。これらの地域がアメリカと一線を画すことは、習近平の世界戦略にとって重要な意味を持つ。


グローバルサウスの活用

 G7サミットに集うのは、民主主義で経済的に豊かな国々、つまりアメリカ、カナダ、日本、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアの7カ国とEUの代表である。

 広島サミットには、G20議長国のインドの他に、インドネシア、オーストラリア、韓国、クック諸島、コモロ、ブラジル、ベトナムも招かれている。

 20カ国から成るG20は1999年に始まったが、これは、G7にロシア、そして当時新興国と呼ばれたアルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、韓国、サウジアラビア、南アフリカ、トルコを加えた集団である。これら12カ国が、その後目覚ましい経済発展を遂げたことは周知の通りである。

 その国々の内、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国を、国の頭文字をとってBRICSと呼ぶが、これらの国々は、2000年以降に大きな経済発展を遂げたことが特色である。

 ロシアのウクライナ侵攻に対して、BRICSは制裁を加えたり、厳しく非難したりしていない。中国はロシアと友好関係にあり、南アフリカはロシアと合同軍事演習を行い、インドはロシアから武器を購入するなどしている。ブラジルは、昨年の大統領選で左派のルラ政権が誕生しており、中国と接近している。

 発展途上国のことを、今は「グローバルサウス」と呼ぶ。明確な定義があるわけでも、国のリストがあるわけでもないが、ロシアのウクライナ侵攻以降、この呼称がよく使われる。

 G7はロシアの侵略行為を厳しく批判するが、ロシア、中国、北朝鮮などの権威主義国家はアメリカの一極支配を非難する。

 グローバルサウスは、この両者の間で曖昧な態度を取っており、ロシアに厳しい制裁を科すことに反対する国々が「南」には多い。アジア、アフリカ、インド、中東、中南米などである。

 昨年2月のロシアのウクライナ侵略以降は、「民主主義陣営vs権威主義陣営」という対立図式が鮮明になったが、その中で、どちらの陣営にも属さないグローバルサウスの存在感が増している。中国は、そのグループを自国の陣営に引き込み、アメリカとの熾烈な覇権争いに勝とうとしている。

 日本は、グローバルサウスに対しては、経済援助を中心にして、欧米とは異なる外交を展開してきたが、今後も日本独自の道を進むべきである。それは、日本の生き残り戦略として重要である。

 ウクライナ戦争がどのような終わり方をするのか、それはこれからの国際秩序の形成に大きな意味を持つ。

筆者:舛添 要一

JBpress

「中国」をもっと詳しく

「中国」のニュース

「中国」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ