「麻酔なしで手術」の体験談も…北朝鮮「医療崩壊」を救うスマホ新技術

2018年5月25日(金)6時44分 デイリーNKジャパン


北朝鮮と国交のある英国外務省は以前、「北朝鮮の医療施設と医師のリスト」という4ページの資料を公開し、自国民に注意を促したこともあった。北朝鮮の医療施設は劣悪で、衛生水準は基準以下だと指摘。病院には麻酔薬がない場合がしばしばあるため、北朝鮮での手術はできる限り避けることや、即時帰国するように勧告している。


実際、麻酔なしで手術を受けたことのある脱北者は、「メスを入れたお腹から伝わってくる痛みがどれだけひどいか。全身がぶるぶると震え、自分の血の匂いに吐き気がした」などと、その恐怖体験について語っている。


しかし、そんな北朝鮮医療に、ほんの少しだが変化の兆しが見える。


朝鮮労働党機関紙の労働新聞は24日、「人民の健康増進のための長距離医療サービスをよくやっている」との説明とともに、医療陣がモニターを見ながら遠隔地での手術をサポートする場面の写真を公開した。


労働新聞は先月26日にも「知能性手電話機(スマートフォン)を利用して、循環器疾患の患者の心電図測定データを専門医師に無線通信で送信、遠距離救急医療サービスを受けることができようにする」とする医療機器を紹介。また、スマートフォンを活用した、循環器疾患の患者のための心電図測定技術の開発が最終段階に至ったとも伝えた。


さらに、同紙は去る3月にも「遠距離医療サービス制度が実現され、全国の女性に対する定期的な検診と乳腺疾患の治療事業が活発に行われている」と報じている。


北朝鮮のこうした動向を巡り、韓国のソウル大学医学部統一医学センターは2016年、「金正恩時代における北朝鮮の保健医療体系の動向」と題された報告書の中で、北朝鮮は金正恩時代になって以降、北朝鮮では「遠距離手術支援システム」や「遠距離医療サービス・システム」など、医療サービスの電算化と遠隔医療への関心が著しく増加したと指摘している。


こうした取り組みが本気で行われており、成果が生まれるならば歓迎すべき話だ。しかし北朝鮮医療の実態を知ってみれば、「行く道は遠い」と考えざるを得ない。


米国の科学専門の非営利独立メディア、アンダーク(UNDARK)は昨年、北朝鮮の医療の実態について脱北者の証言を元に詳しく伝えた。


証言者のひとり、平安南道(ピョンアンナムド)の医大を卒業して1998年に医師になったコ・ユンソンさんは、現在は韓国の高麗大学病院でレジデントを務める。


コさんによると、北朝鮮の病院には抗生物質、点滴液、レントゲン用フィルムが不足しており、あったとしてもレントゲンの解像度が低くて正確な診断を下すのが難しい。病院の施設や医薬品以前に、医療関係者の食料問題すら解決できていない。コさんは栄養失調から来る慢性胃炎に苦しめられていたという。


また、北朝鮮の医学は、伝染病と外傷に偏重しており、他の病気については概略しか学ばないことが多いため、医薬品や医療機器の扱い方を知らない医師が多いとのことだ。東洋医学への偏重ゆえに、西洋医学に接する機会が少ないのも問題だという。


さらには、まともな医療を受けるには多額のワイロを必要とするため、病院に行くこともできない庶民の中には、覚せい剤を医薬品と勘違いして使用している人もいる。


しかしいずれにしても、金正恩党委員長が医療の改善に関心を持っているならけっこうなことだ。その部分だけでも、国際社会が全力で支援すべきだと筆者は考える。

デイリーNKジャパン

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