歴史問題は金儲けの種?韓国市民団体が徴用工遺族に「賠償金の2割寄付せよ」
2023年5月25日(木)6時0分 JBpress
日韓両国における歴史問題の最大懸案となった元徴用工に対する賠償問題が尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の「第三者返済案」の提案で、解決に向けて動き出している。
現在まで最高裁で勝訴判決を受けた15人の原告のうち10人が韓国政府から賠償金を受け取り、最近もまた元徴用工の1人が政府案を受け入れるとの意思を明らかにした。
ただ、韓国内の世論はいまも政府案に否定的で、特に元徴用工の訴訟を支援してきた市民団体と一部の原告が、依然として政府案を拒否している。
「この戦いを多くの国民が見ています」
そんな中、日刊紙『文化日報』は、「日帝強制動員市民の会」という市民団体が、政府案を受け入れる意思を明らかにした元徴用工に手紙を送ったり直接訪問したりして意思の撤回を訴えたと報道した(<賠償金収容者に「国民が見ている」…反日市民団体、徴用解法無力化の試み>5月17日記事)。
同紙が公開した市民団体が送った手紙にはこんな文言が並んでいた。
「最高裁で勝訴するまで韓国政府が何か助けられたことがありましたか?」
「もしお金のためなら、私たちがここまでしてきたのでしょうか? 自分の事でもなく、自分の親の事でもないのに、(我々が)ここまで(一緒に)出られたのでしょうか?」
「この戦いを多くの国民が見ています。私たちが最後までおともします」
同紙はまた、この団体が最高裁の賠償判決で勝訴した3人の元徴用工の支援のための対国民募金も始める計画を持っていると伝えた。そしてこの計画の目的について「政府が推進している元徴用工問題解決法に反対する市民と一丸となって政府が用意するという金額に相当する水準の募金を集め、政府解決法に対抗するという趣旨だ」と解説している。
「このような行動は、事実上被害者を担いで自分たちの意思を貫徹させるという試みと解釈される」「実際に政府解決策を受け入れる意思を明らかにした被害者は立場を旋回する可能性が高いと政府当局は把握している」と同紙は憂慮を示している。
政府案の受け入れ意思を明らかにした元徴用工は、当初は政府案を拒否するための「内容証明」を政府(行政安全部)傘下の日帝強制動員被害者支援財団に送ったほど強く反発していたが、家族の熱心な説得でようやく心変わりをしたとも言われている。
外交部関係者は元徴用工をアポなし訪問
『文化日報』の報道が出ると、該当団体は強く反発した。
「被害当事者を孤独な戦いに置き去りにしないための議論に過ぎない」
「現在まで募金を実施したこともなく、まだ募金に対する具体的な計画を立ててもいない」
「日帝による強制動員の被害を受けた生存者たちを助けるための方策を模索していることを、政府の『第三者返済案』に対する反発目的として片付けることは悪意的報道」
一方、この報道が出る2日前には、外交部関係者が予告もなく高齢の元徴用工たちを訪問したというニュースが『ハンギョレ』をはじめ複数のメディアで伝えられた。
それらの報道によると、5月15日、外交部の関係者は政府案の拒否意思を明らかにした元徴用工の楊錦徳(ヤン・グムドク 93歳)氏と李春植(イ・チュンシク、99歳)氏をアポなし訪問したが、会うことができず、メモやプレゼントを置いて帰った。
政府と市民団体がそれぞれ元徴用工にアプローチ
記事で公開されたメモにはこんな内容が記されていた。
「病院に入院されたという話を聞いて心配になり自宅を訪問することになりました」
「許可して下さるならば近いうちに再び訪ねて気になる点を詳しく説明したい」
これには今度は日帝強制動員市民の会が反発、外交部に対して「無礼」「乱暴」「いじめ」「非常識」などの非難を浴びせた。
これらのニュースを総合すると、現在、韓国政府と市民団体はそれぞれ、元徴用工らを説得するために接触を試みる一方、メディアを利用して相手方への非難合戦をしているようだ。裁判が始まった当時には15人だった元徴用工らは今や3人だけになった。象徴性を持っている彼らを味方につけることで国民世論を自分たちに引きつけようとしているのだろう。
ところが5月23日に『朝鮮日報』が1面でメガトン級のスクープを放った。これで市民団体側は一気に窮地に追い込まれた。
市民団体と元徴用工が交わしていた「賠償金の一部を寄付する」との文書
<「徴用工賠償金、受領時に20%支払う」…韓国の市民団体、11年前に被害者と合意していた>
それが記事のタイトルだ。
同紙によると、日帝強制動員市民の会は、元徴用工5人が三菱重工業を相手取って光州地裁に訴訟を起こす前日の2012年10月23日、約束を交わした。
「事件に関連して損害賠償金、慰謝料、和解金などその名称を問わず、被告から実際に支給された金銭の20%に相当する金額を日帝被害者人権支援事業、歴史的記念事業および関連公益事業のために使えるように市民の会に支払う」という内容だった。
同紙は、「当時合意した被害者5人のうち3人が亡くなった。こうした中、遺族の一部が今年3月に発表された政府の解決策に賛成し、日帝強制徴用被害者支援財団から先月、約2億ウォンを受け取った」とし、「政府の解決策には反対しているのに(市民団体が)被害者遺族に支払いを要求すれば、論議を呼ぶことが予想される」と指摘した。
元徴用工による寄付は「むしろ望ましいこと」
この報道に、該当市民団体は反発、「朝鮮日報」を強く糾弾した。
「原告が、多くの市民、人権団体、活動家の助けを借りて受け取った金額の一部を他の公益事業基金として拠出して社会に寄与させることは誤ったことではなく、むしろ望ましいこと」とし「(朝鮮日報の報道は)尹錫悦政権の屈辱外交に対する国民的非難が高まると、危機を突破しようとする企み」「人権団体や活動家たちを国民から分断するための意図がある」と批判した。
翌日、朝鮮日報は再び関連ニュースを報じた。元徴用工の遺族が政府から賠償金を受領すると、その直後に日帝強制動員市民の会は遺族に連絡、賠償金の一部を要求したが、受け入れられなかったため、約2週間後に合意文書を根拠に金銭の拠出を求める「内容証明郵便」を送った、という内容だった。
同紙は、「一部遺族は被害者が生前に結んだ合意文書の存在を賠償金の受領後に知らされ、支払いに難色を示している状況だ」と伝え、「(合意文書が)法的に無効の可能性がある」との一部の主張も伝えている(<第三者弁済を批判していた韓国の市民団体、11年前の「合意」を基に遺族に賠償金の20%を要求>5月24日付)。
また、チャンネルAの追加報道によると、同団体は内容証明を送った後、何度も遺族の自宅を訪問して寄付を催促した。だがその後、相次ぐ報道に困惑した団体は「故人の遺志(賠償金の20%寄付)に従うかどうかは遺族が決める問題だ」と一歩退いた。
この報道を見て、多くの韓国人は尹美香(ユン・ミヒャン)議員の行状を思い浮かべたはずだ。元慰安婦を助けるために作られた市民団体「挺対協」(挺身隊対策協議会)は、2015年に日韓慰安婦合意が発表されると、日本政府が拠出した10億円を返すために「正義記憶財団」を設立して国民募金運動を展開した。2018年には挺対協と財団が統合され、「正義記憶連帯(正義連)」に拡大改編された。
この正義連は文在寅政権下で慰安婦合意が実質的に破棄されるのに大きな役割を果たし、その功労で尹美香・正義連理事長は比例代表として国会に議席を獲得した。
しかし、元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)氏が尹美香氏の寄付金横領疑惑を提起したことで、尹氏は横領をはじめとする8つの疑惑で検察によって起訴され、1審で一部横領疑惑が認められた。現在は2審が進行中だ。さらに正義連が挺対協と統合した後も、挺対協の名義で政府から支援金を受け取った事実も確認され、「二重受領」との非難も浴びた。
正義連の不正のせいで慰安婦問題に愛想つかす人が続出
この事件を契機に、不幸な歴史の被害者を助けることを標榜している市民団体が、実は歴史を利用したビジネスを展開していたとの国民的非難に直面した正義連は、すっかり国民からの信頼を失い、慰安婦問題そのものから韓国国民の関心が離れるという結末を招いてしまった。
元徴用工たちを助けるために作られた市民団体が賠償金の20%を払わせるために遺族に「内容証明郵便」を送ったことは、果たして彼らの主張どおり「望ましいこと」なのか。それについては今後の国民世論が判断するだろう。
もし今回の一件で市民団体に対する国民世論がまた悪化すれば、長い間動かなかった徴用工賠償問題が「解決」に向けて大きく動くことになるかもしれない。そうなれば市民団体にとっては皮肉なことである。
筆者:李 正宣