バフェットが見限った韓国のポスコ、電気自動車で株価大躍進
2023年6月5日(月)6時0分 JBpress
2023年4月、「オマハの賢人」と呼ばれるウォーレン・バフェット氏が来日し、保有する日本の5大総合商社株をさらに買い増すと発言して世界中の投資家が日本株に注目している。
バフェット氏は日本の5大総合商社株の持ち株比率を5%から7.4%にまで高めるというのだ。
バフェット氏が運営するバークシャー・ハサウェイが投資している日本の商社株は確かに最近上がっていて、「さすが、オマハの賢人!」といえる。
御承知のように、オマハとは同社の本社所在地であるネブラスカ州オマハのこと。
バフェット氏の投資の仕方は、「バリュー投資」と呼ばれる。
企業の資産や将来性などを踏まえ、その会社の株が割安と判断したときに投資する。
その際、割安感をどこで測るのかというと、ROE(自己資本利益率)の数字を見るという。
成長性のある割安株を長期間保有し、配当金が出たらそれをさらに投資することで複利で稼ぐのだ。
それも一度に買うわけではなく、何年もかけて株数を増やす。では、いつ株を売るのかというと、持っている株の成長性が失われた時である。
今彼が所有している日本株も今年になって買ったのではなく、2020年から買い集めている。
これとは反対に、つい最近、バフェット氏は半導体受託生産で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)株を購入してからわずか数か月間ですべて手放した。
会社としては立派だが、現在は「一つの中国」を掲げる中国が台湾を攻撃するかもしれないという地政学的リスクがあるからとみられる。
だが、ウォーレン・バフェット氏とてすべての投資で大成功を収めてきたわけではない。実は韓国株で苦い経験をしたことがある。
2006年に7億68万ドルで韓国の鉄鋼企業であるポスコの株を買い、持ち株比率を4.6%にしたと発表した。
推定平均買い入れ価格は、1株当たり約15万ウォン(約1万5000円)である。2012年まで保有株式数を394万7555株まで増やした。
しかし、2013年から2014年第2四半期までに同社株をすべて売却したと言われる。
バフェット氏は、約8年かけてポスコ株を買い、約113%の収益率を上げたものとみられている。
先ほど苦い経験と書いたが、数字で見ると実は損はしていない。ではなぜ彼が苦い思いなのか。
推定だが、バフェット氏が2006年までに1株15万4700ウォン(約1万5000円)でポスコ株を買った。
同社株は2007年末には1株70万ウォン(約7万円)にまで上昇した。
もし、バフェット氏がその時点で売っていれば、彼が現実に手にした利益の数倍稼げた計算になる。
しかし、彼は「バリュー投資」をモットーにしている。成長性のある企業の株なら、持ち続けるともっと株価が上がり、配当金も増えるはずだった。
実際、ポスコは、2000年代の初めくらいから始まった中国のインフラ投資という強力な需要によって、2010年まで10〜11%の高いROEを維持することができた。
しかし、米中貿易摩擦により、中国をはじめ新興国のインフラ投資需要が徐々に減少した。
さらに、韓国は政権が替わるたびに鉄鋼産業規制を強化したり、緩和したりとがらっと変えてしまうため、ポスコが良好なROEを持続できる環境ではなかった。
また、ポスコは悪化するROEを高めるために事業の多角化を進め、粉飾決済や莫大な負債を抱えていたテウ造船海洋社にも食指を伸ばして買収したりした結果、狙いとは裏腹にROEは落ち始めた。
一時期、バフェット氏が「信じられないくらい素晴らしい鉄鋼会社」と称賛したポスコは、ROEが低下、そしてバフェット氏も全株売却した。
韓国人はよく自嘲気味に「KOREA DISCOUNT」という言葉で韓国の株式市場を表現する。
「コリア・ディスカウント」というのは、韓国の企業の株価が帳簿価値を下回っていることをいう。
また、韓国の企業は、株価収益率(PER)も先進国の平均を下回っている。
北朝鮮という敵国が近くに対峙している地政学的な不安要素だけでなく、企業支配の構造および会計の不透明性、労働市場の硬直性などがコリア・ディスカウントの要因だと言われている。
前述したように、政権によって政策がまるっきり逆の政策がとられることもコリア・ディスカウントの要因となっている。
バフェット氏がポスコ株を売却してから10年が経ち、ポスコグループは2023年の初め、2次電池素材をはじめ新成長事業を中心に11兆ウォン(約1兆1000億円)を投資すると発表した。
そして電池の正極材料、負極材料、リチウム、ニッケルなど、2次電池素材の商用化工場に対する投資を本格化させた。
こうした投資に加え、2022年、非鉄鋼部門の営業利益が2021年より27%増加し、企業全体の営業利益に占める割合も35%まで増えた。
現在、アルゼンチンとオーストラリアからリチウムを、ニューカレドニアとオーストラリア、インドネシアからニッケルを調達し、正極材料と負極材料を生産している。
2022年10月からは、GSエネルギーと合弁法人を設立し、廃バッテリーリサイクル分野にも進出した。鉱物確保から生産、バッテリー素材、生産・供給など、2次電池産業内でセル事業以外はすべて参入している。
2023年に入って韓国の株式市場では2次電池ブームが巻き起こり、2次電池素材メーカーの株価が急騰した。
ポスコは、今年になって増えた系列社の時価総額だけで33兆ウォン(約3.3兆円)を上回る。
2次電池ブームが去ればまた急落するのか、コリア・ディスカウントの壁にぶつかってしまうのか、ポスコの行く末はまだ誰にも予測できない。
筆者:アン・ヨンヒ