中国の圧力でつぶされた「金正恩カジノ事業」のなれの果て

2019年6月17日(月)8時0分 デイリーNKジャパン

中国遼寧省の丹東から国境の川の向こうに目をやると、奇妙な形の建物が視線に飛び込んでくる。昨年2月から工事が始まったこの建物だが、工事が進むにつれ次々と用途が変わった。


北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は6日、「マンション建設現場に出て作戦と指揮を覇気ありげに行う平安北道人民委員会のイルクンたち」といういうキャプションを付けた2枚の画像を公開した。


1枚は建設中の建物の近影、もう1枚は「マンション建設戦闘場」「新義州26−8、9、10号棟マンション全景図」と書かれたマンションの完成予想図を背にして、イルクン(幹部)たちが図面と建物を見比べている構図のものだ。


このマンションは当初、ギャンブル好きの中国人客を当て込んだ30階建てのカジノホテルとして建設が始まった。ところが、中国政府からの工事が中断してしまった。高官が多額の公金を横領してカジノにつぎ込むなど、ギャンブル絡みのトラブルが多発している中国の立場からすると、目と鼻の先にカジノを建設するなどとんでもないことと、激しく抗議したからだ。


その後、通常のホテルを建設するとして工事が再開されたが、工事が進むに連れ、その奇妙な丸い建物の輪郭がはっきりするようになった。


北朝鮮内部のデイリーNK情報筋は建設関係者の話として、金日成主席を象徴する「太陽」をかたどった建物だと伝えた。当初の計画通り進んでいたとすれば、神聖なる最高指導者の名前をつけたカジノホテルが建設される予定だったということだ。


カジノホテルから一般のホテル、そして一般向けのマンションへと2度も建物の用途が変更されたわけだが、どうしてホテル建設をあきらめたのか、その理由はわかっていない。ただ、国際社会の制裁の影響があるものと思われる。


北朝鮮当局は当初、世界各国からの投資を当て込んで、20階建て以上の高級ホテル10棟とカジノを建設することを計画していたが、国連安全保障理事会の制裁決議は北朝鮮との合弁企業、新規投資、既存の企業の事業拡大など北朝鮮への投資を禁じている。また、高級ホテルに備え付けられる贅沢品も、輸出が禁じられている。


それでも建設を進めたのは、米朝首脳会談で核問題で合意に至れば制裁が緩和されるだろうと当て込んでのことだと思われるが、今年2月のベトナム・ハノイでの会談は物別れに終わり、投資が全く期待できない状況となった。


朝鮮戦争への参戦経験を持つ著名なカジノ企業、ラスベガス・サンズのアデルソンCEOは昨年11月、イスラエルの団体のイベントで「コリアには闘いに行きたくないが、ビジネスを立ち上げに行きたい」と語ったことで、北朝鮮でのカジノビジネスに進出するのではないかとの噂が立ったが、後に「南北関係がよくなれば米国企業が韓国でビジネスがしやすくなる」という意味だったと釈明した。


金正恩党委員長はホテルのみならず、新義州全体を大改造するという大風呂敷を広げていたが、制裁により資材が調達できず、工事が中断に追い込まれてしまった。ただ、こちらの工事はすでに再開している模様だ。


今年4月に撮影されたグーグルアースの衛星写真を見ると、建物の外壁は完成しているものの、色は塗られていないが、労働新聞が公開した写真を見ると建物に色が塗られている。これは工事再開を意味する。


中国では北朝鮮観光ブームが起きており、毎日1000人以上の中国人観光客が北朝鮮に入国している。一部では交通手段、宿泊施設の不足が報じられているが、ホテルからマンションへの用途変更で、増える一方の観光客の収容はできなくなった。


建設会社は、マンションに変更して売却することで建設資金を取り戻そうとしているのだろうが、北朝鮮の不動産市場は深刻な不況に襲われ、価格は暴落、取り引きも成立しないような状況となっている。

デイリーNKジャパン

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