佐野正弘のケータイ業界情報局 第120回 楽天モバイル、2024年はどうなる? 好材料が増えるも厳しい経営状況が続く

2024年2月9日(金)6時0分 マイナビニュース

プラチナバンドの免許獲得や契約数600万回線突破など、明るいニュースが出てきている楽天モバイル。一方で赤字は依然続いており、インフラ投資コストを大幅削減するなど、経営面では依然として厳しい状況が続いています。2024年、楽天モバイルは状況を改善できるのでしょうか。
契約の伸びを支えるのは法人回線か
2023年も大きな動きが相次いだ楽天モバイル。2023年12月26日には、MVNOとして提供するサービスを除いた契約数が600万回線を突破し、課題となっていた契約数が順調に伸びている様子を示しているほか、同年10月には新たなプラチナバンドの700MHz帯の免許を獲得。もう1つの課題となっているネットワークに関しても明るい材料が出てきています。
ですがその一方で、楽天モバイルは先行投資による赤字が続いており、経営は非常に厳しい状況です。親会社の楽天グループも、楽天モバイルへの先行投資で発行した社債の償還、要は借金を返済することが求められており、その金額も2024年からの2年間で8,000億円と、非常に大きな規模となっています。
それだけに楽天モバイルは、これまでのようにネットワークインフラに多額の投資をできなくなっており、2023年には戦略を大幅に転換。KDDIと新たなローミング契約を締結し、2026年までは大幅な投資を控えて未整備のエリアは当面ローミングで賄う方針を示しています。2023年6月に提供開始した「Rakuten最強プラン」で、ローミングエリアでもデータ通信を使い放題にしたことが、楽天モバイルの厳しさを示したといえるでしょう。
楽天モバイルにとって勝負の年となった2023年は、好材料も不安材料も拡大した悲喜こもごもの結果に終わったといえそうです。年が明けた2024年、楽天モバイルはどのようにして厳しい状況を乗り越え、成長につなげようとしているのでしょうか。
ローミングの活用で投資コストの大幅削減に成功した楽天モバイルですが、赤字を解消するためには楽天モバイル自体で稼ぐ、要は楽天モバイルの契約数を増やして売上を伸ばす必要があります。ですが、投資削減に重きを置く楽天モバイルは現状、プロモーションにも大きなコストを割くことができません。
それゆえ、現在楽天モバイルの顧客獲得施策は、既存の楽天モバイルや、「楽天市場」など楽天グループのサービス利用者からの口コミによるものが主となっています。この手法では、確実な顧客獲得につながる一方、大幅な契約数の増加は見込みにくいというのが正直なところです。
それだけに、楽天モバイルが現在重きを置いて獲得を進めているのは法人顧客といえそうです。楽天モバイルは2023年に「楽天モバイル法人プラン」の提供を開始しており、それ以降法人契約の獲得に力を入れています。
楽天グループは、楽天市場や「楽天トラベル」などさまざまなサービスを提供しており、取引先企業も非常に多岐にわたるだけでなく、取引先企業と強固な協力関係を構築することに力を入れてきました。そうした取引先との関係性を生かし、法人用の回線として楽天モバイルを契約してもらうことが契約数の伸びに大きく貢献しているとみられ、今後もより一層契約を伸ばすために、取引先企業からの契約獲得に力を注ぐ可能性は高いといえそうです。
気になる「プラチナバンド」の行方
一方で、グループ全体に関わる経営面で大きな課題となるのは、やはり社債の償還になります。2023年にも楽天銀行の上場や楽天証券の一部株式売却、さらには楽天グループ自体への増資によって資金調達を進めてきましたが、それでもなお、巨額の社債償還は厳しいとみられています。
そこで楽天グループは、2024年1月25日に新たな施策を打ち出しています。2027年に満期を迎える米ドル建のシニア債を新たに発行する一方で、2024年に満期を迎える米ドル建・円建シニア債の買い入れ、そして米ドル建シニア債の公開買付けを実施することです。
これは、社債の償還を一部先送りするための施策とみられています。2024年にまとまった額の社債を償還するのは難しいので、一部を買い取って新たな社債を発行することで、年当たりの償還額を減らす策に出たといえるでしょう。
これらの施策によって当面の危機を回避している間に、楽天モバイルの契約と売上を伸ばして経営を改善させるのが楽天モバイルの狙いとなるでしょう。経営が厳しい間は新たな施策を打つのも難しいだけに、少なくともKDDIとのローミング契約が続く2026年まで、楽天モバイルが大きな動きを起こす可能性は低いというのが筆者の見方です。
ですが、2026年のさらに先を考えた場合、やはり自身でのインフラ整備は必須となるだけに、2024年はそうした将来に向けた種まきをいかに進められるかも問われるところです。なかでも必要不可欠となるのが、新たに割り当てられたプラチナバンドを活用したネットワーク整備ですが、楽天モバイルではプラチナバンドの活用を、当初打ち出していた2026年から前倒しすることも検討するとしています。
前倒しが進むとなれば、2024年中にもプラチナバンドの活用が進む可能性も考えられますが、楽天モバイルの経営状況を考慮すればいきなり全国で活用が進むとは考えにくいでしょう。それだけに、プラチナバンド活用の行方は、2024年の楽天モバイルの動向を見るうえで大いに注目されるポイントの1つとなりそうです。
佐野正弘 福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。 この著者の記事一覧はこちら

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