エンタープライズIT新潮流 第43回 成熟度を定義して組織をパワーアップする、「大人の階段上る、君はプロフェッショナルさ♪」

2025年3月3日(月)13時0分 マイナビニュース


今回は組織の能力や個人のスキルをどのように上げていくかについて、そのヒントを提供します。筆者がよく使うのは、成熟度をベースとしたアセスメント&プランです。成熟度の「成熟(Maturity)」は、海外では「あの人はMatureだ(成熟している)」のように使われる場合が多いです。最近、筆者の双子の孫に『新幹線変形ロボ シンカリオン』の玩具をあげるのですが、どんどん進化していくので、あれも一種の成熟かと思います。
組織のスキルを測る「成熟度」
成熟度といえば、有名なのは「CMMI(Capability Maturity Model Integration:能力成熟度モデル統合)」です。CMMIとは、組織のプロジェクトマネジメント能力の成熟度を5段階評価で表したものです。もともとは1980年に発表されたソフトウェア開発を対象にした「CMM(能力成熟度モデル)」でした。IT業界の中にはご存じの方も多いと思います。CMMIは次のように5段階で成熟度が定義されています。
(出典:Software Engineering Institute『開発のためのCMMI 1.3版』より筆者が一部抜粋)
その後エンジニアリングやソフトウェア調達、人材開発などさまざまな分野向けにこのモデルが派生しています。
マーケティング組織版の「CMMI」を紹介
筆者はこの成熟度のモデルを使い、組織と人のスキルを上げる試みをしています。「測れないものは改善できない」という格言があるように、しっかりとした成熟度という定規を持ち、今の位置を理解して次にどうステップアップをするかを考える必要があります。そうしないと、現状に留まってしまうのです。
最近、別の組織の人に「私の描く戦略を実現するために、もっと組織力をアップしてほしいんだけど」と言ったところ、「大丈夫です。対応できます!」という答えが返ってきました。これを聞いて、明らかに今の能力の位置とどう組織を成長させるべきかが見えていないのだと感じました。これはなんとかすべきと、成熟度を提案中です。
成熟度を分解すると、キャパシティ(対応できるリソース)とケーパビリティ(対応できる能力)になります。ここでは主にケーパビリティについて考えます。組織や役割ごとに、この成熟度を5段階で定義するのです。CMMIの成熟度1(初期)から成熟度レベル5(最適化している)までをうまく使うと定義がしやすいと思います。たとえば、筆者がマーケティング組織のために作ったものが、次の表です。
筆者はこれを、フィールドマーケティング、BDR(Business Development Representative)、ブランドなどのマーケティングの役割すべてで定義しています。
どのように使うかというと、関連するすべての組織や役割で、現在の成熟度レベルをアセスメントします。関係者でワイワイ評価するのがいいと思います。能力のレベルが散らばることもありますが、その場合はなるべく下を取ります。そして、その1つ上の成熟レベルに行くためには、どのような能力を獲得する必要があるかを話し会います。スキルアップが必要かもしれませんし、新しいプロセスやアプリケーションの導入が必要になるかもしれません。
なぜ、このようなことをするかというと、組織の能力は一飛びに成熟度マックスまでにいくことはなく、段階的に上げていく必要があるからです。これはイメージしやすいですよね。その際に、次に行くべきところを明確にすることで、階段のように上がっていけるのです。もちろん、HR Transformationのように、人事組織がごろっと変わるような変革もあります。ただ、そんなことはめったにあるものではないです。
ここでの大きなチャレンジは、最高位の成熟度レベル5が分からないと、このレベルを定義できないことです。大衆車しか作ったことがないのにスーパーカーを作るようなものです。自社でその知見がない場合は、コンサルティングに頼るのもよいかもしれません。
筆者は、せっかく仕事をするのですから、成熟度レベル5になるように構想を練って、組織を成熟させています。筆者の口癖は「World-Classになる(=成熟度レベル5)」です。部下は迷惑かもしれませんが。
個人のスキルも「成熟度」で可視化しよう
ここまでの話は組織の成熟度についてです。同じように、個人のスキルにおいても成熟度を定義できます。ジョブ型組織が日本でも増えてきましたね。このジョブ型組織では、役割ごとに等級を作ると思います。これが実は成熟度レベルなのです。各等級では、どのようなスキルや知識が必要で、どのような行動をするべきかを定義します。そうすると次の等級に行くためには、どのような成熟をすればいいのかがよくわかります。
海外ではこのような仕組みを「ジョブラダー(仕事の階段)」ともいいます。組織の成熟度と違って、まっすぐ階段を上る場合も、横の階段を上る(職種変更)をする場合もあります。ジョブ型を導入していてもそのような仕組みがない場合は、組織で相談して定義するのがよいと思います。
また、今後3年間の方向性を作るのもいいと思います。1枚のスライドに3年分の箱を作り、それぞれの年のテーマと目指す成熟度、そして、どのような状態にするかを箇条書きにします。
組織と個人のスキルを高めるための「成熟度」、便利なのでぜひマスターしてみてください。
北川裕康 キタガワヒロヤス 35年以上にわたりB to BのITビジネスに関わり、マイクロソフト、シスコシステムズ、SAS Institute、Workday、Infor、IFS などのグローバル企業で、マーケティング、戦略&オペレーションなどで執行役員などを歴任。現在は、独立して経営・マーケティングのコンサルティングサービスを提供しながら、AI insideの Chief Product Officer(CPO)を担当。大学は計算機科学を専攻して、富士通とDECにおいてソフトウェア技術者の経験もあり、ITにも精通している。前データサイエンティスト協会理事。マーケティング、テクノロジー、ビジネス戦略、人材育成に興味をもち、学習して、仕事で実践。書くことが1つの趣味で、連載や寄稿多数あり。 この著者の記事一覧はこちら

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