知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第190回 メルカリが「メルカリモバイル」でMVNO事業に参入、飽和する市場で勝ち残れるか
2025年3月18日(火)15時49分 マイナビニュース
メルカリが2025年3月4日、MVNOとしてモバイル通信事業に参入することを打ち出し、「メルカリモバイル」のサービスを提供開始した。フリマアプリの大手であることを生かし、ユーザー同士で通信量を売買できる仕組みを備えているのが大きな特徴となるが、市場が飽和するMVNO事業にあえて参入する理由はどこにあるのだろうか。
ユーザー同士で“ギガ”を売り買いできる
NTTドコモのオンライン専用プラン「ahamo」が料金据え置きでデータ通信量を増量するという実質値下げ策を打ち出し、競合がこれに追随する動きを見せるなど、モバイル通信の競争は依然激しさを増している。そうした中、新たにモバイル通信事業に参入することを打ち出したのがメルカリだ。
同社は2025年3月4日、「メルカリモバイル」の提供を開始してモバイル通信事業に参入することを発表。知名度のある異業種の企業が参入したこともあって大きな注目を集めたようだ。
ただ自社でネットワークを敷設している楽天モバイルとは違い、メルカリはネットワークを他社から借りるMVNOとしてこの事業に参入するとしている。ゼロからインフラを敷設するには莫大なコストが求められることからリスクが大きく、楽天モバイルも非常に苦戦を強いられていることを考えれば、MVNOとして参入すること自体は無難な選択といえるだろう。
では、メルカリモバイルがどのような特徴を打ち出し競合に対抗しようとしているのかというと、それは通信量の売買である。メルカリはフリマアプリを運営していることから、メルカリモバイルではその基盤を生かしてユーザーが余った通信量を売り、足りない人がそれを購入して通信量を補える仕組みを用意しているのだ。
従来、通信量が不足したら通信事業者から指定された金額で追加購入するというのが一般的だった。それをフリマアプリと同じ感覚で、ユーザー同士の売買によって追加できるようにしたことが、従来のサービスとは大きく異なる特徴となるようだ。
ただ一方で、購入した通信量を翌月に繰り越すことはできず、月末に多くの通信量を購入し、余らせてしまうと無駄になってしまう。繰り越しで通信量をストックできてしまうと、月額料金を安く抑えて安価な通信量を大量に購入して利用する、採算に合わない使い方をするユーザーが出てくることを懸念しての措置といえそうだが、それだけに通信量売買の使いどころがやや難しい印象も受けるというのが正直な所だ。
ただメルカリモバイルは立ち上がったばかりということもあって、サービス面では不足している部分も多い。SIMはeSIMのみなので物理SIMは選べないし、支払い手段は「メルカード」と「メルペイあと払い」のみと、自社の決済サービスに限定されている。選べる通信回線がNTTドコモのみというのも、昨今の通信品質問題を考慮すれば不満に思う人がいることだろう。
メルカリ側もそうした不足要素は認識しており、今後対応を進めていく方針を示している。3月の新入学シーズンは携帯電話業界最大の書き入れ時でもあるため、そのタイミングを外さないためにもサービス提供を急ぎたかったようで、競合に匹敵するサービス体系が整うにはやや時間を要することから、今後利用者の声を受けてサービス内容も細かく調整していくことが考えられる。
狙いは顧客基盤と経済圏ビジネスにあり
ただ現在の市場環境を考慮するに、メルカリがいまMVNOに参入する理由を見出しにくいというのが正直な所でもある。メルカリ側は、消費者が携帯大手3社の料金が高いメインブランドから、より安価なサブブランドや楽天モバイル、MVNOなどへ移る傾向が強まっていることから、そこに商機を見出したと説明しているが、一方でそのMVNOは決して順調とは言えない状況にある。
実際、総務省のデータによると、MVNOは2023年末時点で1890社も存在している一方で、それら全ての企業で獲得しているシェアは4%程度と、楽天モバイルと変わらない。その楽天モバイルも、最近契約数がようやく伸びてきたとはいえ依然苦しい状況が続いているし、MVNOは過当競争状態でそれ以上に苦しんでいるのが実情なのだ。
それだけにいまMVNOに参入したとしても、顧客を大幅に増やすのは難しい。にもかかわらず、現在のタイミングでメルカリがMVNOに参入したのは、顧客基盤といわゆる「経済圏」の存在が大きい。
メルカリはフリマアプリで約2300万人の月間利用者数を抱える大きなサービスとなっており、それを軸としてメルペイなどの決済・金融事業や、最近であればスポットワーク事業の「メルカリ ハロ」を展開している。携帯4社と比べれば規模は小さいが、一定の経済圏を構築し顧客の囲い込みが進んでいる訳だ。
それゆえメルカリとしては、この顧客基盤をより強固なものとのするために、フリマアプリや決済サービスなどの入り口となっているスマートフォン、ひいてはモバイル通信を抑えたいというのが、メルカリモバイル提供の大きな狙いといえそうだ。ただ既に楽天グループの前例があるように、モバイル通信のためにインフラを新たに構築するとなれば莫大なコストがかかり、会社の存続にも影響を及ぼしかねない。
それだけにメルカリとしては、リスクが小さいMVNOでこの事業に参入し、フリマアプリなど自社サービス利用者への囲い込みを強め、楽天グループほどではないにせよ経済圏ビジネスをより強固なものにしていきたいのではないかと考えられる。
メルカリが持つブランドや顧客基盤は多くのMVNOが持たないものだけに、メルカリモバイルがMVNOとして優位なポジションに立つ可能性は十分考えられるが、一方で他社から回線を借りているMVNOの限界を考慮するならば、楽天モバイルや他の携帯大手3社に対抗し得る存在となる可能性は低い。それだけにメルカリモバイルには、MVNOならではのポジションを生かした独自性を強め、従来のモバイル通信にはないビジネスを開拓する“攻め”の姿勢が期待されるところだ。