大河原克行のNewsInsight 第277回 再び世界で戦えるNECへ、最重要課題とした「人的資本戦略」の中身

2024年3月22日(金)19時31分 マイナビニュース

NECは、ESGに関する取り組みについて説明した。そのなかで、同社が、企業価値向上に向けた最重要課題と位置づけている「人的資本戦略」について時間を割いて説明。2025中期経営計画で打ち出している「戦略」と「文化」の両面からの取り組みを示した。NECでは、2024年4月から、ジョブ型人材マネジメント制度を本格的に導入する予定であり、その考え方についても示した。
NEC 執行役 Corporate EVP兼CHROの堀川大介氏は、これまでの人的資本経営の取り組みについて振り返り、「かつてのNECは、グローバル競争が激化するなか、それまでの成長を支えてきた半導体やPC、携帯電話事業などからの撤退を余儀なくされ、2012年には株価が100円を切るほど、経営危機に直面していた。2018年に策定した2020中期経営計画では、社員の力を最大限に引き出す実行力の改革である『Project RISE』を打ち出し、再び世界に勝てる、強いNECになるという経営陣の強い思いから、社員一人ひとりの力を最大限に引き出すために、人と組織への投資強化を進めてきた。これがNECの人的資本経営の出発点である」と位置づけ、「新卒採用中心によるリソースの同質性を壊し、多様性を生かした経営へと移行し、グローバルでの勝ち方を知るリーダーを社外から多数登用した。その後、営業利益が増加し、2000年以降、一度も達成できなかった中期経営計画を、2020中期経営計画で初めて達成した。現在では株価は1万円に達している」と成果をアピールした。
また、NECでは、行動の原点とする「NEC Way」を2008年に策定し、2020年には最新版に改定。「現在のNEC Wayは、多様になった人材の価値観を束ね、ひとつのベクトルにあわせるものであり、様々なイノベーションを社会価値、顧客価値に転換し、その対価として利益につなげていくというサイクルをまわして、パーパスの実現を目指すことになる。これがNECのサステナビリティ経営の姿である」と位置づけた。
NECでは、2025中期経営計画において、エンゲージメントスコアで50%の達成を目指している。これは、グローバルベンチマークの上位25%以内に入ることができる水準だという。
「2018年時点では19%のスコアであり、日本企業の平均よりも低く、当時の経営陣はこの結果に愕然とした。そこで、内向き志向から脱却し、外部から良い制度や仕組みに積極的に取り入れることにした。人とカルチャーの変革を継続強化し、市場や社会、社員からも選ばれるNECになることを目指してきた」とする。
2023年度のエンゲージメントスコアの実績は39%であり、前年度から3ポイント上昇しているという。
「50%という数字は低いと言われるが、『ややエンゲージしている』という回答は36%に達しており、これを含めると75%になる。今後のジョブ型人材マネジメント制度の導入によって、就社の考え方から、やりたい仕事に就ける就職への転換が図れる。また、重点テーマに基づく施策がエンゲージメントスコア向上に有効であったことを確認しており、各種施策の効果が真に発揮されることで、50%を達成できると考えている。」と述べた。
目標である50%のエンゲージメントスコアは、役員、部門長、統括部長では、すでに達成していたが、2023年度に入ってからディレクター層にもこれが拡大。これまでの課題であった経営層とディレクター層のスコアギャップが解消傾向にあることを指摘した。
「最大のボリュームゾーンであるメンバー層に対しては、エンゲージメントスコアが50%を超えたディレクター層からメンバー層への伝播によるスコアの底上げを狙う」とした。
また、「エンゲージメントスコア 50%の達成に向けて、重要となる施策は、相関分析をもとに組織ごとに特定することができている。経営層の示す方向性が明確化していることや、評価・報酬・昇格・配置が適切に行われ、達成感が得られていること、適切なワークライフバランスが保たれていることなどの実現に、注力領域を絞り込んでいる。メンバー層に対しては、ユニークな各種研修の実施とともに、学びを実践し、チャレンジできる機会を与えることで、活躍を促していく」と述べた。
「戦略」における人的資本経営の重点テーマとしては、ITサービス事業の変革を推進するプロフェッショナルDX人材の「獲得」、コンサルからデリバリーまで、顧客への提供価値を最大化するDX人材の「育成」、業種横断でのリソース活用や、グループ内での人材流動化を実現する人材の「活用」をあげ、DX人材強化とグループ内での人材流動化や、最適な人材ポートフォリオを実現し、戦略の実行力強化を図ることを目指す。
「戦略を実現するためにDX人材の強化は重要なテーマである。獲得、育成、活用を確実に進めることで、勝てるチームをつくる」と意気込んだ。
「獲得」においては、2019年度にキャリア採用専門部署を設置し、キャリア採用を急拡大。現在は新卒採用と中途採用の比率が半々になっているほか、転職エージェントを通さないダイレクトソーシング機能を強化。戦略実行に必要なポジションに対して、タイムリーに、ベストな人材を採用する仕組みが確立できているという。2023年度実績は、キャリア採用が643人となり、そのうち、216人がダイレクトソーシング採用だという。
「育成」については、NECグループを横断した形で、職種別の人材育成委員会を設置しており、専門性強化にフォーカスした人材育成を高度化しているのが特徴だ。
「委員会は人事部門が主導するのではなく、各職種のトップが委員長を務め、強いリーダーシップによって人材育成をリードしている。ビジネス起点から求められる人材像を職種別に定義し、標準ディスクリプションに落とし込み、必要となる育成体系を整備している」という。
プロシェッショナル人材教育では、クラウド系や生体認証・映像分析、サイバーセキュリティなど、7つの人材タイプを定義し、専門性を強化する教育プログラムを用意する一方、DXを推進する優秀な若手社員を輩出するために、次世代グローバルリーダー育成プログラム「Top Gun Tour」を実施。アライアンスパートナーの米国本社を訪問して先進事例を学んだり、人脈形成を行ったりしているという。2023年度には55人の若手社員が「Top Gun Tour」に参加しており、今後参加者数を増やしていくという。
「活用」では、2020年にキャリア自律を支援する専門会社であるNECライフキャリアを設立し、社内人材公募制度であるNEC Growth Careersを活用しながら、社内の人材流動性の向上と最適配置を促進している。
「多様性を生かすためには、流動性を促進し、適時適所に、適材を配置する仕組みが必要である。人材流動性と最適配置を実現する上では、AIも活用しており、人的リソースの需要と供給のポジションマッチングもAIで行っている。多様性は、社員が持つ強み、個性、価値観をぶつけることで新たなイノベーションが生まれることで生かされる」と述べた。
「文化」に基づく人的資本経営の重点テーマとしては、会社の方向性を理解し、共感し、誇りをもって働けるようにするための発信、浸透を行う「全社方針・戦略の浸透」、未来に希望を持ち、モチベーション向上につなげるための適切な制度、プロセスを整備する「評価/報酬/登用/キャリア」、心身ともに健康で、生産的に働き続けることができる環境づくりを目指す「働き方/心身のコンディション」をあげ、「エンゲージメントスコアドリブンでの施策を実行することにより、取り組みの効率化や効果向上を図っていく」とした。
スコア計測頻度を四半期ごとに向上し、分析方法のアップデートを行い、人とカルチャーに関する様々な取り組みについて相関分析を行っているほか、最前線の社員の声を拾い、実態を把握し、仮説を立案して、アクションを起こすといった取り組みを、短サイクル、高頻度で実践していくことに力を注いでいるという。
「全社方針・戦略の浸透」では、トップマネジメントコミュニケーションの強化を推進。森田隆之社長兼CEOが、毎月、社員と対話を行うTown Hall Meetingを、2021年度から継続的に実施しているほか、BU長も積極的に社員との対話の機会を創出し、全社戦略や組織戦略と、働く意義を重ねあわせることで、社員の納得感を醸成しているという。
また、「かつては隣の組織はなにをやっているのかがわからないという状況にあったが、幹部層を中心にした横のつながりを積極化し、ベストプラクティスの横展開や人材交流に発展させている」とも述べた。
「評価/報酬/登用/キャリア」においては、2024年4月から、本格的にスタートするジョブ型人材マネジメント制度に触れた。
同社では、2018年度から評価制度改革を進め、助走期間として、5年間に渡って、段階的に新たな制度や仕組みを導入。キャリアプログラムの刷新や組織の大括り化、新卒ジョブマッチング採用などを実施してきた。2023年から統括部長以上を対象にしたジョブ型人事制度を導入し、2024年4月にはジョブグレード体系や報酬制度を見直し、ジョブ型人材マネジメント制度を本格展開し、ジョブを基点にした各種施策との連動も行うことになる。
「NECにとって、ジョブ型人材マネジメント制度は、あくまでも手段であり、目的は環境変化に柔軟に対応し、グローバルで勝ち続けることである。グローバル企業に敗れた悔しさを忘れてはいけない。勝つために、適時適所適材を実現するとともに、社員のキャリア自律を実現する。会社と社員が、選び、選ばれる関係を深めることがエンゲージメント向上につながる」と述べた。
また、社員の行動変容を促す変革促進プログラム「RISE Fast」を展開しているひとにも触れた。「RISE Fast」は、幹部層と、若手を中心とした現場リーダーがタッグを組んで、所属組織全体に変革を促すNEC流の問題解決手法であり、社員の主体性を引き出し、組織ごとの課題解決スキルの醸成と、変革のためのリーダーシップ力を習得することができるという。2022年度までに2266人の社員が参加し、475テーマに取り組んだ実績があるという。
さらに、NEC社内に褒める文化を広げる取り組みも加速していることも強調した。
「働き方/心身のコンディション」については、キャリアや自己実現をサポートする「カフェテリアプラン」の拡充や、NISAの活用による社員の資産形成をサポートするFinancial Well-beingの実現、チームとしての生産性を高めるDXの活用、生産性の高い働き方に向けたルールの整備などに取り組んでいることを示した。
「社員のWell-beingと成長を実現したり、個人と組織のパフォーマンスを高めたりするために、関連する制度や仕組みを用意している」と述べた。
また、NECが開発した日本語生成AIであるcotomiを使用し、社員からの膨大な声をもとにしたキーワード分析、人材公募制度におけるジョブマッチング、個人の目標設定のサポートなどを行っていることも明らかにした。
一方、同社では、リスクと機会の両面で、財務と非財務を関連づけたパーパス経営を推進するため、2023年度から、リスク低減と成長率向上に向けて取り組んできた「基盤マテリアリティ」に加えて、成長事業が創出する社会価値を特定する「成長マテリアリティ」を設定しており、これについても言及した。
NEC 取締役 代表執行役 Corporate EVP 兼 CFOの藤川修氏は、「相互の相乗効果を考慮した上で推進し、企業価値の向上に取り組んでいる」と述べた。
基盤マテリアリティでは、気候変動(脱炭素)を核とした環境課題への対応を推進。「1970年代から取り組んできた環境リスク低減の実績および知見を、顧客と社会のカーボンニュートラルやその他の環境課題の解決にも生かす。CDPでは5年連続で最高評価となるAリストに認定されており、2年連続でサステナビリティリンクボンドを起債し、環境の強みを資金調達に活用し、資本コストの低減を図っている」とした。
環境課題の解決に貢献する具体的な事例として、AI農業ソリューションの「CropScope」を紹介。2022年にカゴメとともに設立したポルトガルの合弁会社では、トマト栽培において使用する窒素肥料や灌漑量を、センシング技術とAIによって可視化し、効率的な栽培と、収穫量の増大を実現し、食の安定供給に貢献することができているとした。2024年3月には住友商事と、「CropScope」のグローバル拡販に向けた戦略的パートナーシップを締結。現在、14カ国に展開し、14種類の作物に対応しており、これをさらに拡大させるという。
「NECは、2023年に国内IT業界でいち早くTNFDレポートを発行した。それ以降、CropScopeは農業事業者だけでなく、食品・飲料メーカー、アパレルメーカーなどからも、高い関心が寄せられている」と報告した。
また、減災効果や環境効果を可視化し、社会のレジリエンスに貢献する「適応ファイナンス」の取り組みについても説明した。NECでは、AI技術を活用することで、防災ソリューション導入による価値を可視化。災害そのものや災害後の再建に伴う経済損失額と、輩出するCO2量の抑制によって得られる価値を適応価値として定量化する取り組みを2023年からスタート。定量化した価値を「適応ファイナンス」として金融商品化している。
「災害件数は過去50年で比較すると5倍に拡大し、経済損失額は7倍に増加している。NECは防災ソリューションを提供しているが、防災対策による価値の定量化が難しく、大きな投資が呼び込めない状況にあった。気候変動に対する緩和策に対して、適応策への投資額は18分の1に留まっている。価値の可視化や適応ファイナンスにより、防災に対するコスト意識を変え、投資を促すことで、自治体のリスク削減だけでなく、地球規模での気候変動対策にも貢献したい」と述べた。
NECでは、三井住友海上保険と適応ファイナンスコンソーシアムを設立。社会実装に向けた取り組みを加速するほか、ドバイで開催したCOP28において、適応ファイナンスに関して、森田隆之社長兼CEO自らが説明。多くの企業から賛同を得たという。2024年秋に開催予定のCOP29では、コンソーシアムの活動を報告する予定だという。
また、セキュリティに対する説明も行った。
NECでは、サイバーセキュリティ状況の可視化により、迅速な経営判断と全社員の意識向上、自律的なアクションを可能にしていることを示しながら、「ランサムウェアによる被害報告数は、過去3年で約5倍に増加するなど、サイバーセキュリティの確保が重要な経営課題となっている。NECが受けているサイバー攻撃や対応状況を、実データを使って可視化し、迅速な経営判断や、社内の意識向上、技術的アクションにつなげているが、これらの成果をもとに、自社をゼロ番目のクライアントとして最先端のセキュリティ経営を実践し、その知見をお客様のセキュリティ対策強化に生かしている」とした。
さらに、NECグループ12万人で利用しているセキュリティ基盤は規模が大きく、企業が導入するにはIT環境全体の見直しが必要になるため、すべての企業に適したものではないという課題をあげながら、「NECとNECセキュリティは、IT環境に変更を加えることなく、攻撃リスクが高い外部効果IT資産の脆弱性や、ダークウェブなどに漏洩されたIDやパスワードなどの認証情報を可視化する新たなサービスの提供を開始している。2025年度には、サイバーセキュリティ事業全体の目標売上高500億円を目指している」とし、幅広い企業に知見を提供できる環境を整えていることを強調してみせた。
なお、中長期戦略策定や経営判断の高速化を企図したコーポレートガバナンス改革についても触れ、2023年6月に、指名委員会等設置会社に移行し、2024年度からは独立社外取締役を1人増員。ガバナンス改革を機能できる体制を確立したという。
「取締役会が監督機能に徹することができるように、オフサイトミーティングの機会を作っている。また、執行側でも意思決定のスピードと質の向上に向け、リスクマネジメントや内部監査体制の強化を行っている」などと述べた。

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