東大とNTT、有機半導体技術でカーボン系材料のみの電子回路を開発

2024年3月29日(金)19時3分 マイナビニュース

東京大学(東大)とNTTは3月28日、金属元素をまったく含まない、すべてがカーボン系の材料から成る相補型集積回路を開発し、同回路で構成したアナログ・デジタル回路は4-bit信号の出力デバイスとして、室温大気下の条件で安定に動作させることに成功したと発表した。
同成果は、東大大学院 新領域創成科学研究科の渡辺和誉特任助教、同・渡邉峻一郎准教授、同・竹谷純一教授、NTT 先端集積デバイス研究所の研究者を中心に、パイクリスタル、東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の研究者も参加した共同研究チームによるもの。詳細は、「Advanced Materials Technologies」に掲載された。
現代において、少なくとも先進国の多くの人々はスマートフォンを筆頭に、PCやテレビ、DVDやブルーレイなどのプレイヤー、ゲーム機、家電、自動車など、電子デバイスもしくは多数の電子デバイスを内蔵した機器に囲まれて生活している。電子デバイスには、鉛、水銀、カドミウムなどの重金属や臭化物難燃材といった有害物質を含むものが多く、使用済みの電子デバイスの回収・処理をしないことによる、電子ゴミ(e-waste)の増加が世界的な問題になっている。それと同時に、電子デバイスには金、銀、白金などの希少元素も含まれており、回収してリサイクルすることも求められていた。しかし、電子デバイスの需要は増大する一方であり、電子ゴミに対するより根本的な対策が求められているのが現状だ。
そうした中、電子ゴミ問題の解決策として、「ディスポーザブルエレクトロニクス」(短期間の使用後に即廃棄されることを前提とした電子デバイスやセンサのこと)に着目し、その研究開発を進めているのが研究チームだ。2022年には、電子デバイスがリサイクルされずに自然環境下に廃棄された場合を想定し、有害物質を含まない電池と電子回路についての報告を行っている。そこで今回の研究では、さらに検討を進め、限りある希少資源を使わないという考えにも着目し、金属元素を含まずカーボン系材料のみで構成された電子回路を開発することにしたという。
これまで東大で取り組んできた「C9-DNBDT」と「PhC2-BQQDI」は、印刷技術を応用して成膜可能かつ高いキャリア移動度を有する高性能なp型およびn型の有機半導体材料。しかし、一般的な有機トランジスタは、電極や絶縁層に金、銀、プラチナなどの貴金属や酸化アルミニウム、酸化ハフニウムなどの金属酸化物を使用することが多く、依然として金属元素が含まれていた。
そこで今回は、有機トランジスタを駆動できるカーボン電極とそのパターニングプロセスを新たに開発。ポリイミドフィルムの基板に、高分子材料の「パリレン絶縁層」を組み合わせることで、基板、絶縁層、半導体、電極、配線のすべてがカーボン系材料から成る有機トランジスタ、およびその相補型回路の作製に成功したとする。
元素分析と誘導結合プラズマ質量分析法を用いて、網羅的かつ高感度な組成分析が詳細に行われた結果、電子回路中の金属元素の全量が50ppm(0.005%)未満であることが確認された。この値は土壌中のさまざまな金属元素の含有量と比較しても著しく低い値だという。
さらに今回は、通信用回路の実現に向け、アナログ・デジタル集積回路の作製も試みられた。具体的には、自己発振回路であるリングオシレータ、もっとも基本的な論理回路の1つであるインバータ(NOT回路)、記憶素子としても用いられるDフリップフロップ、そしてパラレルデータをシーケンシャルデータに変換するマルチプレクサである。これらを相互接続して構築された64個のp型およびn型トランジスタから成るディスポーザブルな4-bitID出力電子回路は、室温大気下であっても安定に動作することが実証された。
なお今回の研究では、東大がカーボン系材料のみで構成した有機トランジスタやその相補型集積回路の作製技術を確立し、実働回路の製作にはNTTが有機トランジスタ向けに開発されたプロセス依存性の少ない通信用回路構成技術を適用したとする。
今回の研究により、金属をまったく含まない電子デバイスのコンセプトが実証された。研究チームは今後、さらなる材料検討やトランジスタの集積度と微細化度の向上を進めるという。それらにより、リサイクル不要で使い捨て可能な無線通信のできる電子タグやセンサデバイスの実現および、そのデバイスを活用した新しいサービスの展開が期待されるとしている。

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