エンタープライズIT新潮流 第24回 「ヤルヤル詐欺」を撲滅する方法

2024年4月8日(月)15時0分 マイナビニュース

人・スキル・マインドセットはどう変えられるか?
ヤルヤル詐欺とは、その場では「はい、やります!」と言いつつ、まったく進捗できない人の行動、というかマインドセットを示しています。そういったマインドセットって簡単には変わらないですよね。「トランスフォーメーション」と呼ぶにせよ「チェンジ」と呼ぶにせよ、われわれには常に変化が求められていることに変わりはありません。社会、技術、環境、政治などの世の中が変わっているので、人や組織も変化しなければいけないのは当然です。しかし、人も組織もそんなに簡単に変わりません。それでは、ヤルヤル詐欺がはびこってしまいます。
筆者の好きな言葉に、「Leading Change」があります。これは、リーダシップ界では有名なジョン・コッター氏の書籍の原題(邦題:『企業変革力』 日経BP)です。この本は、どのように変化を促進するかを記載したチェンジマネジメントのバイブルです。筆者はこれを読んで、「どうせ変化が求められているのであれば、それをリードした方よい」ということを学びました。変化に巻き込まれるのではなく、変化をリードするのです。
しかし人間は、そんなに簡単に変化をリードすることも、変化を受け入れることもできません。多くの人間は心理的に「楽な方、変化しない方」を選ぶものです。また、よどんだ職場にいると、「どうせ変化しても無駄でしょ」と心の奥底では思っているものです。今、ドキッとしましたよね(笑)。つまり、マインドセットの問題です。また、当然ながら変化の先は新しい世界やステージですので、そこに行ったときの新しいスキルが求められます。ですから、変化するためには、行動、マインドセットに加えて、スキルが必要になります。
筆者が勤めていた歴史が長いある会社では、50代くらいになり定年が近づいてくると、多くの人が波風を立てずに60歳まで働き、その後は再雇用を目指すというのが最優先になっていました。行動、マインドセット、スキル、すべてが整っていない悪い例です。たぶん、一番まずいのはスキルです。スキルを常に磨いていないと、マインドセットや行動も変えられません。有名大学を卒業して、何十年も同じ仕事をして、結局はその明晰な頭脳が錆びついてしまうというのがよくある例で、これはもったいない話です。
また、戦略の実行を阻害するものは日常業務と言われるように、私たちは日頃、日常業務をこなすために多くの時間を使っています。仕事は重要度と緊急度で分類できますが、日常業務とは重要度が低く、緊急度が低いか高いかの仕事です。こんな仕事に日々囲まれています。
当然、重要度が高く緊急度の高い仕事を優先的にこなす必要はありますが、実は仕事の進化や変化、個人の成長は、重要度が高く、緊急度の高いことから生まれます。そこにはスキルアップ・学習や創造的な活動が含まれます。仕事を進捗させるためには、優先事項の設定と、やることとやらないことの明確化と徹底がとても大事ということです。ここからは、組織で変化や変革を促進するときに周りをどう巻き込むかについて書きます。
モチベーションやスキルを分析して、変化を促進
まずは組織内で「人」を変化させる方法です。最初に、変化に巻き込みたい人のマインドセット(モチベーション)やスキルを分析します。これは「シチュエーショナル・リーダーシップ」というモデルを参考にしています。この2つの属性がパフォーマンスに影響するからです。
○モチベーションが高くスキルの高い人
一番パフォーマンスが高いのは「モチベーションが高く、スキルの高い」人です。そういう人は、戦略や方向性(なぜそれが組織にとって大事なのか)の共有や、ちょっとしたアドバイスやサジェスチョンで変化の仲間になれます。でも、全体人数からすると比率は低いですよね。
正反対に、モチベーションが低く、スキルの低い人。これは手ごわいです。そういう人は外資企業ではボジションが無くなってしまいます。仕事の責任と必要なスキルを明確にして、その達成を支援するしかないと思います。そういう人に対して効果的なのは、パフォーマンス管理です。
○モチベーションが高いがスキルが伴わない人
では、「モチベーションが高いが、スキルが伴わない」人はどうすれば良いしょうか。こういう人の場合、モチベーションは高いので、スキルを学習と経験で徹底的に磨く必要があります。ヤルヤル詐欺はこういう人に発生することが多いのです。やらないといけないことは大体わかっているのに、優先事項やスキルの問題があり、実際には行動ができないのです。
こういう人に対しては、行動を詳細に管理しながら、日々のコーチングを徹底することです。行動を詳細に管理する方法として、筆者は「Tマイナス」という考え方で実践します。「T」とはターゲットであり、ターゲットを起点に逆算して行動を明確化して実行していくのです。
「T-50days」のように、その行動が完了する予定日から逆算して、行動の完了・締め切り日を定義していきます。ターゲットとは、例えば製品の発売日や資料提出の日です。逆算しないと複雑なプロジェクトでは遅延が発生しますので、常に日程の変更が必要です。つまりプロジェクト管理ですね。空間的な想像力が要求されるかもしれません。
これは、マイクロソフトでSQL Server、Windowsの製品マーケティングを担当していたときに身に付けました。「T-0」は発売日です。その時までに何をやるかを洗いだし、プランを立てて実践していきました。製品を出すということは、プロモーションだけでなく製品の管理やベータ版の対応など、とても大変なプロジェクトなのです。
よく、重要なことから優先事項を決めるという話を聞きますが、筆者は何をするにしても「できるだけ早く初めること」「できるだけ早く完成させること」を優先します。また、できるだけ並列で処理するために、途中の作業は内部に依頼したり外部に発注したりします。自分にとっては低い優先事項であっても、他の人にとっては優先事項が高いということがよくあります。早く終わらせると感謝されるものですし、締め切り日に別の仕事をする必要があるといった状況を避けられるのです。
スキルが不足している人はトレーニングをしてスキルをアップさせるという話になりがちですが、実はスキルアップというのはそう簡単ではないのです。トレーニングは「ハネムーン効果」というものがあるくらい効果が継続しないのです。新婚の方ごめんなさい。
人間は興味の無いことは記憶には残りませんから、トレーニングが効くのは、スキルを得るための全体の時間の5%程度と言われています。ですから、トレーニングで得たスキルの知識をどのように実践で磨くかが大事になるのです。最低限、トレーニングを実施した30日後と90日後に、トレーニングを受けた時に作った目標と実行できた内容を、上司がチェックする必要があります。
筆者はある分野でスキルが不足していると感じたら、そのテーマの本を2〜3冊読みます。そうすると、幅広い知識が得られるとともに、やるべき共通事項が確認できるのです。そして、その複数の書籍の中で共通して書かれている事項を実践するのです。
○スキルは高いがモチベーションが低い人
「スキルは高いが、モチベーションが低い」人は、実はかなり厄介です。しかし、そうした人が高いモチベーションを持つことができれば組織はパワーアップします。そのためには、その人の価値観や考え方といったマインドセットを変えることです。リーダーの人は正しい指導や指示をしっかりする必要があります。そして、徐々に成果を出せるようにして自信をつけさせ、スキルと共にモチベーションを上げていきます。
○モチベーションが低くスキルが伴わない人
「モチベーションが低く、スキルが伴わない」人は、なんとも……。筆者はそのような人になるべく時間は使いたくないです。外資企業では真っ先にリストラの対象になりますから、要注意ですよ。
「なぜ人と組織は変われないのか」問題
では組織はというと、どうでしょうか。組織を変えると言っても、結局組織は人でできているので、人のマインドセットと仕事のプロセスを変えるしかありません。組織を変えるには人の価値観や考え方に従うだけではなく、人を組織のパーパスやビジョン、戦略に沿って行動させることがとても大事です。これが各人でぶれると、毛利元就の「3本の矢」の例のような太く折れにくい行動ができなくなります。その人のモチベーションが低い場合、その深層の理由を探っていく必要があります。
書籍『なぜ人と組織は変われないのか —— ハーバード流 自己変革の理論と実践』(英治出版 著者:ロバート・キーガンら)という本に書かれているように、人は裏の目的を持っているのです。例えば、一流の営業がマネージャーになっても、「私は実は一流の営業として評価され続けたいと思う」みたいなことです。その裏の目的を話し合い、「なぜ?」と何度も問いながら、根本的な考えを探っていくのです。
そこで掘り出した考え方を、組織の考え方にアライメントしていく必要があります。これは互いにとてもエネルギーを消費することです。いきなりマインドセットは変わりませんから、雪解けのように徐々に変えていく必要があるでしょうね。また、書籍『新コーチングが人を活かす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン 著者:鈴木義幸)に書かれていましたが、「なぜ?」という問いかけは相手の防御を作りだしてしまい、いい加減に返されてしまうことが多いようです。
ですから、その書籍では「なに?」を使ったほうがいいと述べています。「なにを考えてそうしているのですか?」とかです。状況に応じて「なぜ」や「なに」で質問して、裏の目的の探索するのがいいのでしょうね。
組織が異なる人の行動を変えるにはどうしたらいいでしょうか。これはなかなか厄介です。筆者はまずは信頼関係を作ることが大事だと思います。それぞれの人と組織は異なるレンズで自分の組織や他の組織を見ています。それを近づける基盤が、信頼関係なのです。有名な『7つの習慣』(キングベアー出版 著者:スティーブン・R.コヴィー)では、「信頼口座」という考え方があります。
有言実行して信頼口座に貯金をして、初めて信頼関係ができるということです。これはお互いの信頼口座がプラスになる必要がありますね。信頼口座が無いのに、あの組織が悪いとか他責で非難する人が結構いたりします。その前に自分のできることを自責でやり、信頼口座に多くの貯金をするのです。そうすると互いのレンズが近づいていきます。
プロセスによって強制的に組織の変化を促進するのも効果的です。変化後の仕事のやり方を設計して、そのやり方を遂行します。このためには、その意義や効果についてより高いレベルでの合意が必要で、また、定着させるためにはガバナンスが求められます。なかなか大変そうと思われると思いますが、組織が変化するには不可欠なやり方です。日本でCRMが営業で定着しづらいのは、この原因が大きいと考えます。CRMは、営業プロセスを変えるツールですからね。適切なプロセスの設計とガバナンスが鍵です。
変化を促進するためには会議のやり方も大事です。筆者が以前勤めていたWorkdayはプロセスに長けた会社で、そこで会議のやり方も学びました。それぞれの会議で、その目的は何で、だれが参加して、その結果は何を期待するかを明確にします。会議の終わりにNext Actionとオーナーを明確にして、次の会議ではその進捗を確認します。新しいことをする時にこのやり方はとても効果的です。このためには、会議をリードする人の責任は重大なのです。
筆者は、会議には必要最低限の人が参加して、なんらかの貢献をすることを望みます。「とりあえず参加するけど発言しない人」は必要ありません。そのような人は、その時間に別のことで時間を使ってほしいからです。このあたりがちょっと外資企業ぽいですね。
などと簡単に述べてきましたが、「なぜ人と組織は変われないのか問題」は、いつも筆者にとっても大きなテーマであり、継続的に解決方法を探しています。そのために部下や会社を使って実証実験をさせていただいています。
北川裕康 キタガワヒロヤス 35年以上にわたりB to BのITビジネスに関わり、マイクロソフト、シスコシステムズ、SAS Institute、Workday、Infor、IFS などのグローバル企業で、マーケティング、戦略&オペレーションなどで執行役員などを歴任。現在は、独立して経営・マーケティングのコンサルティングサービスを提供しながら、AI insideの Chief Product Officer(CPO)を担当。大学は計算機科学を専攻して、富士通とDECにおいてソフトウェア技術者の経験もあり、ITにも精通している。前データサイエンティスト協会理事。マーケティング、テクノロジー、ビジネス戦略、人材育成に興味をもち、学習して、仕事で実践。書くことが1つの趣味で、連載や寄稿多数あり。 この著者の記事一覧はこちら

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