トーンモバイルは“自社スマホ”をやめるのか? 石田社長に聞く「TONE IN」と「エコノミーMVNOの成果」

2024年4月9日(火)10時57分 ITmedia Mobile

トーンモバイルのサービスをドコモ端末で利用可能にする「TONE IN」をスタートする

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 フリービットは、ドリーム・トレイン・インターネット(DTI)が運営するトーンモバイルに「TONE IN」を導入する。同社は、専用端末の開発まで手掛け、ネットワークと端末の機能を連携させる垂直統合的なサービスを売りにしていた。その代表例に、「TONEファミリー」などの見守りサービスがある。この戦略を大きく転換するのが、TONE INだ。
 第1弾として、トーンモバイルは専用端末で動作していた同社のサービスをソフトウェア化することでドコモの販売するAndroidスマートフォンに対応。エコノミーMVNOとして店頭で販売する際に、ドコモの端末をお勧めしていく。ユーザーにとっては端末の選択肢が広がることや、ドコモショップを訪れた際にそのまま端末まで持ち帰れることがメリットになる。
 TONE INを実現するため、フリービットはトーンモバイルの専用端末に搭載されていたハードウェア依存の機能をバーチャル化し、他社端末にSIMカードを挿すだけで自動的にインストールできる仕組みを開発した。ドコモ端末94機種で検証を行い、いずれも動作確認できているという。このTONE INに合わせ、LLM(大規模言語モデル)を活用したSNSの見守りサービスのテクニカルプレビューも発表している。
 端末からサービスまでを一気通貫で手掛けていたトーンモバイルだが、このタイミングでなぜ回線やサービス単独での提供に踏み切ったのか。フリービットの代表取締役社長CEO兼CTOを務める石田宏樹氏に話を聞いた。
●バーチャルハードウェアが動くようになるまで2年かかった
—— まずはTONE INの狙いを教えてください。なぜ独自端末の開発ではなく、ドコモのスマホにサービスを対応させることになったのでしょうか。
石田氏 フリービットの中期経営計画の中で、トーンの技術をオープン化する仕組みがありました。Android全般に対応するということは、今の時代だとIoTに対応することも意味しています。以前から、その形でいいと考えていました。
 その流れがあった一方で独自端末の開発は常にやっているのですが、端末を開発する場合、1年前ぐらいに発注が必要でロットも確定させなければなりません。当時は半導体価格も含めていろいろ見えない時期がありました。いくらかけていくらのものを作ればいいのかが、まったく分からなくなっていました。22年に発売された「TONE e22」は、2年間売るつもりで在庫を確保していましたが、それもギリギリでした。あともう少し対応が遅かったら、売るものが何もなくなってしまったかもしれません(笑)。
—— 約2年前の端末ですが、追加生産などは難しいのでしょうか。
石田氏 TONE e22の再生産というシナリオはありました。そこは両にらみで考えていましたが、今回の件に関してはTONE INが間に合いそうということが見えてきていました。バーチャルハードウェアがある程度の抽象度で動くようになるまで、2年かかりました。最初はほとんどが機種依存の吸収でしたが、結果としてもう少し洗練された形になっています。既存のトーンモバイル端末も、アップデートをかけてその形にする予定です。
—— 開発にあたって苦労した点はありましたか。対応モデルが多いので、検証はなかなか大変そうですが。
石田氏 Androidも機種依存の部分が少なくなってきてはいますが、機種依存のコードを書かないで済むようにするところはやはり難しかったですね。それとは別に、トーンモバイルの端末であればユーザーのパーミッションなしでアプリが動かせるという特徴がありました。この部分はドコモとも話し合い、店頭でできるのではないかという流れになりました。フォーカスグループを組み、きちんとセットアップができるのかというところまで見ています。
 端末を開発していたときから、自分の環境の中にトーンモバイルを入れないとダメだと思い、ドコモ端末にTONE INの仕組みを入れたものも2年ぐらい使っています。最初のうちは、位置情報が取れなくなったというクレームが妻から来たりことがありました(笑)。結局、それは機種の問題ではありませんでしたが、そういったテストはスタッフ一丸となってやっています。テスト販売した際にも、苦情がゼロだったのは自信につながりました。
●専用端末でなくなることで、経営リスクは圧倒的に低くなる
—— 先ほどロットの話がありましたが、専用端末ではなくなることで経営的にはリスクが低くなるといえるのでしょうか。
石田氏 それは圧倒的に低くなります。資本効率がものすごくよくなりますからね。例えばCMを打ってユーザーを一気に増やそうとなったときに、専用端末だとリスクが高すぎます。2000店舗のドコモショップにいきなりユーザーが行ってしまうと、すぐに在庫が蒸発してしまう。エコノミーMVNOでCMを打ったときにはTONE e22だけでなく、「TONE e21」も販売していましたが、その在庫はすぐに蒸発してしまいました。
—— 一方で、単価がそれなりにあるので売り上げは立ちやすいのがハードウェアだと思います。利益率はそうでもないとは思いますが……。
石田氏 確かにあまり利益は取っていませんでしたが、売り上げは立ちます。その問題は悩みの中で大きなボリュームとしてありました。ただ、グループ企業やフリービットのMVNE事業が頑張ってくれたおかげで、3年間の売り上げ目標は到達できました。それがあったので踏み切れた部分はありますね。
 端末開発は本当に怖いビジネスで、最終発注の1週間ぐらい前は眠れないほどです(笑)。それでも、端末を作っていなければ分からなかったことはいっぱいありましたし、これがなければ採用できていなかった人材もいます。そういった人材のおかげで、今回、バーチャルハードウェアを作り込んでいくことができました。
—— iPhone用のサービスは専用ハードなしでやっていますが、あちらに寄せていく手はなかったのでしょうか。
石田氏 iPhone向けのバーチャルソフトウェアが完璧ではなかったからです。あちらはかなり機能をネットワーク側に寄せています。
●ドコモショップではトーンモバイルの指名買いが多い
—— TONE INは、2月ぐらいにテスト販売を始めていたということですが、まったく気付きませんでした(笑)。
石田氏 代理店を区切り、どのぐらい設定したか、予約からどの程度購入いただけたかを見ていましたが、思っていた以上にいいデータが取れました。個人的には、持ち込み端末がこんなに多くなるとは思っていませんでしたね。端末も、(AQUOS、Xperia、Galaxy、arrowsなど)全ブランドが売れています。
—— やはりニーズがあったということでしょうか。
石田氏 分かりやすくするためにシニアと子どもと言っていましたが、もともと全年齢向けにやっていました。僕たちの最大の特徴は、1000円で動画以外が使い放題になる仕組みで、そことチケットを柔軟に組み合わせることができることです。そのために「SiLK Sense」という技術を開発し、アプリごとにチケットを消費するかしないかを、自動で判断できるようにしています。それがいわゆるミニマリストの方、スマホを普通に使えればいいという方にビシッとはまるのだと思います。そういった方々には、(TONE INは)よかったですね。
—— ドコモショップ側もトーンモバイルを売りやすくなるのでしょうか。
石田氏 そうですね。選択肢が多くなるので、そういった部分もあると思います。トーンモバイルは指名買いが多いのですが、予約してから抜け落ちる割合も下がると思います。今でも予約した後に購買する率は高いのですが、それでも端末をどうしようかと思った人がまれに契約しないことがあります。
—— 「ここに置いてあるものならどれでも使えます」というのであれば、端末を見てやっぱりドコモで、となる人は減りそうですね。
石田氏 その方が、彼ら(ドコモショップ)の売り上げにもなります。また、これまでは購入いただいた後、こちらから端末をお送りしていましたが、ドコモ端末であればその日から使えます。いつでもカエドキプログラムも使えますからね。
●ドコモがirumoを始めたことの影響はほとんど出ていない
—— 一方で、ドコモ自身で低料金のirumoを始めて、エコノミーMVNOのハシゴが外されてしまった印象もあります。その影響は何かありましたか。
石田氏 もともと莫大(ばくだい)な数のユーザーを取っていたわけではないのと、低料金を求める人を取っていたわけではありません。料金でいえば、OCN モバイル ONEの方が安かったですからね。ターゲットを子どもとシニアにしましょうという形で、ドコモとも進めていました。その2つの理由から、影響はほとんど出ていません。
—— 確かにドコモにはキッズケータイはありますが、子ども向けのスマホやキッズケータイを卒業した人向けのサービスはないような気がします。この辺りはきちんと住み分けられているのでしょうか。
石田氏 ドコモの商品企画の方とはお会いする機会もあり、お互いの技術で何ができるのかといったことはお話ししています。そういった交流に加えて、CMなどの空中戦をやられている部隊や、地上戦の代理店営業をやられている方々ともお付き合いがあります。ここについては、いろいろと情報提供をしてもらいながら、一緒に売っているようなイメージです。
—— ドコモ端末で使えるようになったことで、年齢層が広がるというお話もありましたが、そうなるとドコモとのバッティングも起こってしまうのではないでしょうか。
石田氏 マーケティング的なところではシニア、子どもと言っていた、ミドル世代に売っているのは店舗の判断です。(CMなどの)空中戦としては今までと同じメッセージを出しつつ、店舗でも獲得するという形ができてきています。
—— 気付く人は気付くという形ですね。端末の在庫や売れ行きを気にしなくてよくなった分、CMなどで攻勢をかけやすくなったような気もしますが、その辺はいかがですか。
石田氏 それはあるかもしれません。少なくとも、坂口健太郎さんの契約は更新しました(笑)。
●LLMを使ったSNS見守り機能は、新卒入社のチームから提案があった
—— 次に、テクノロジープレビューとして公開したLLM(大規模言語モデル)によるSNSの見守りですが、この開発経緯を教えてください。
石田氏 SNSのフィルターとしてLLMを使おうというのは、新卒入社チームからの提案でした。僕たちの年代はビフォア・インターネット、アフター・インターネットのように世代が分かれていますが、今、入社してくる人たちは学校で普通にAIを使っている。フィルターをかけるのであれば、そっちの方がいいのではといい、勝手に作ってそれを証明してきました(笑)。そこが大きかったですね。
—— 仕組みとしては、通知に表示されたメッセージを読んでいるのだと思いますが、X(旧Twitter)やFacebookのように、タイムラインにあまり好ましくない投稿が出る場合もあります。こういったものにフィルターをかけることは可能でしょうか。
石田氏 今ならできるかもしれませんが、仕組みとしてアプリの中身をテキストで取るのがなかなか難しい。やるのであれば、画面のキャプチャーを取り、それをローカルのLLMに解釈させることはいくつかの端末であればできると思います。リモートサポート用に画面を飛ばすということはやっているので、それを飛ばさず端末内のGPUに送り込んで処理するようにすればいいですからね。ただ、今だとちょっと動きがボヤっとしてしまう(遅くなってしまう)かもしれません。いつかはできると思いますが、フィルターの仕組み自体がアプリに入る可能性もあります。
—— それが進んでいくと、端末によって動く機能、動かない機能、動いても遅い機能などが出てくるのでしょうか。
石田氏 それはこれからだと思います。今のところ、テキストベースの機能であれば、普通にできます。写真がベースのTONEカメラをそちら側に持っていくこともできると思います。ただ、PixelだとTensorが載っていますし、あの辺はもっと使ってみたいですね。
—— 処理として、クラウド上でやることもできたと思いますが、端末ローカルで動作させているのはやはりプライバシー的な理由からでしょうか。
石田氏 そうです。携帯電話の先にあるのがスーパーノードだと思っていて、それを考えた時にはやはり全てローカルで動かすというポリシーがあります。リアルタイム性が担保できるのであれば、やはり自分のデータはローカルサイドにあった方がいい。バックアップがクラウドになることはあってもいいと思いますが、そういう形にしておかないと怖いですからね。
—— 動作はしていますが、テクノロジープレビューという位置付けなのはなぜでしょうか。商用化にあたって解決すべき点はどこにあるのでしょうか。
石田氏 クオリティー的には、かなりいいところまで来ています。ただし、ミスをしてしまったときに、それを報告したら何らかのインセンティブがあるものを「TONE Chain」(トーンモバイルの開発したEthereum互換のブロックチェーン)の中で用意しようとしています。報告していただけたら、TONE Coinが入るような仕組みです。Web3的な貢献の仕方を丁寧に組み合わせた形を考えています。
●スマホとは違う形でのデバイス開発を視野に
—— そのTONE Coinですが、今はトーンモバイルの料金に充当できるだけです。売買できるようになったり、何か他の使い道を考えているのでしょうか。
石田氏 将来的にはあるかもしれません。今はトーンモバイルのスマホを充電しているときにたまる仕組みですが、その次として、株主還元でTONE Chainのネットワークに入ってこられるようなことも発表しています。これを抽選などに使えれば、もっといいかもしれないですね。
—— 最後に、TONE INでドコモ端末に対応しましたが、独自端末の開発はやめてしまうのでしょうか。
石田氏 スマホの基盤をベースにしながら、スマホを作るのか、スマホではない違うものを作るのかの話だと思っています。次の中期経営計画はグループ戦略を中心にしています。今はモバイルが目立っていますが、フリービットにはギガプライズというマンションインターネットを引いている会社があり、今はトップシェアに立っています。毎年、15万戸に回線を引き入れているので、そこにセンサーを入れるようなこともできます。シニアの方に必要なスマホとはこういう形だったのかというようなところを目指しています。
●取材を終えて:料金体系やサービスの訴求がいっそう必要に
 専用に作り込んだ端末とネットワーク、サービスを一体化させ、MVNOとして独自性を出していただけに、TONE INの発表は衝撃的だった。iPhone対応はその布石だったが、Androidは自社端末路線を続けると思っていたからだ。一方で、石田氏が語っていたように、ハードウェア開発はビジネスとしてリスクが高く、MVNOにとっては効率もよくない。
 同じサービスが実現できるのであれば、他社端末を活用できた方がサービスを広げやすくなる。とはいえ、端末という目立ちやすく、かつユーザーが直感的に理解できるトーンモバイルの“顔”ともいえる存在がなくなってしまうのは事実。今後は料金体系やサービスを、今まで以上にアピールしていく必要がありそうだ。

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