アニメ「Ave Mujica」制作の舞台裏――監督と制作会社代表に聞く、“圧倒的な内製化”がもたらしたもの

2025年4月18日(金)11時6分 ITmedia NEWS

 ガールズバンドをテーマとしたアニメがここ数年ブームとなっている。25年1月から放送・配信されたTVアニメ『BanG Dream! Ave Mujica』(バンドリ! アヴェムジカ)もその1つだ。ただ、この本作はほぼ全編がフル3DCGアニメで制作され、X(旧Twitter)の世界トレンドでもたびたび1位を獲得し、キャスト自らが舞台にあがるライブも発売即ソールドアウトになるなど、数あるガールズバンドアニメの中でも、際立った存在感を放っている。
 前作TVアニメ「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」(バンドリ! イッツマイゴー)との連作となっており、異なる学校に通うメンバーの2つのバンドを巡る複雑な人間関係が描かれた「Ave Mujica」。登場人物たちは様々な課題を抱え、クライマックスを迎えつつある取材時点の最新話(#10:第10話の意)でも、その着地点は見えず、視聴者はみな物語の行く末を固唾を飲んで見守っていた。
 10周年を迎えたバンドリ! プロジェクトのなかでも異色となった本作が、どのように生まれたのか? メディアミックス型のプロジェクトでありながら、IT色の強い制作現場構築の過程など、監督・制作会社代表に詳しく話を聞いた。
●世界トレンドでも1位・ガールズバンドアニメに新風
——もうすぐクライマックスを迎えようとしていますが(取材日は#10放送後の3月10日)、Xでも大きな反響となっています。まず今の受け止めを聞かせてください
柿本:まず驚いています。バンドリ!はこれまで既存のお客さんを多く抱えたシリーズだったのですが、「It's MyGO!!!!!」「Ave Mujica」ではその客層を拡げると同時に、新しい方向性を打ち出すことを目指しました。ただそれは必ずしもこれまでのお客さんがついてきてくれるということを意味しませんので、まさか日本のみならず世界中の方に受け入れていただけることになるとは思ってもいませんでした。
 またバンドが演奏するジャンルも、MyGO!!!!!がパンク系の間口の広い音楽だったのに対して、Ave Mujicaはメタル系で間口も比較的狭く、音楽人口そのものが少ないのです。物語の複雑さも増していますし、どれだけの方がついてきてくれるだろうと思っていましたが、おかげ様で「It's MyGO!!!!!」から更に増えたと聞いています。
柿本広大
アニメ演出家、監督。 サンジゲン制作のアニメーション作品には「009 RE:CYBORG」(2012/神山健治監督)で初めて演出として参加。 続く「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」(2013/岸誠二監督)では助監督をつとめ、この作品への参加が縁となり、サンジゲンでの全編3DCGアニメーションに制作が移行した「BanG Dream! 2nd Season」以降の同シリーズの監督・総監督等をつとめることになる。 「BanG Dream!」シリーズ以外での監督作品には「刀使ノ巫女」「菜なれ花なれ」など。2025年夏に「神椿市建設中。」が放映予定。
——想定外とも言える状況であるわけですね。「It's MyGO!!!!!」の最終話でも「Ave Mujica」の物語がはじまっているような構成になっていましたが、そのあたりのギャップを監督自身もかなり気にされていたことの表れでもあると
柿本:そうですね、真逆の方向性で作っていこうと思っていたので。「It's MyGO!!!!!」は音楽性にポピュラリティがあるので、間口は広くなるだろうなと。でも「Ave Mujica」は内容がより深く、やや難解になっているし、脚本上のトリックもふんだんに入れているので、強めに篩(ふるい)が掛かっていくだろうなと考えていました。でも視聴者の皆さんの反応を見ていると、物語を振り返りつつ、他の方と疑問や考察を共有するといった楽しみ方をしてくれているようですね。
——心配とは裏腹に非常に良い流れになったわけですね。松浦さんはいかがでしょうか?
松浦:作っている時から制作陣が手応えを感じているようには受け止めてました。特に脚本はすごい時間を掛けてましたからね。企画的に「掛けることができた」というのもあるんですけれども。僕も脚本会議は最初の頃は出ていたのですが、「これは面白くなりそうだから、あとで完成映像を楽しむ事にしよう」とスタッフに任せて途中で出るのを止めてしまいました(笑)。そして、時がたち白バコ(完成映像)が放送前にやってくるわけですが、もう面白くて「It's MyGO!!!!!」も「Ave Mujica」も何回も見てました。
松浦裕暁
2006年株式会社サンジゲン設立。2011年サンジゲンを含む5社をグループとした株式会社ウルトラスーパーピクチャーズを設立。さまざまな作品で3DCGプロデューサーを務め、3DCGで作るリミテッドアニメーションという新しいアニメの表現を確立していく。現在はクオリティーと工数管理の両立を目指し、より働きやすいスタジオを創るべく、制作管理システムの開発に力を注いでいる。
柿本:「It's MyGO!!!!!」の#1を見た松浦さんから速攻で「面白い!」ってLINE来ましたからね(笑)。
松浦:毎回続きが待ちきれなくて、こんなに面白いんだったら俺も脚本会議出ておけば良かったって思いましたよ(笑)。なかなか制作に携わっていてこんなに新鮮な気持ちで映像を見るコトってないですからね。で、この面白さはきっと伝わるはずだと僕は確信していました。実際、放送開始後ネットの反応を追いかけて行ったら、反響が話数を重ねるごとに増えていき、「Ave Mujica」の#3、#7、#10は物語としての仕掛けがある回なので、僕もネットの反応をリアルタイムで調べて「そうだよね、そう反応してくれるよね」と。その拡がりを目の当たりにしていました。
 「It's MyGO!!!!!」も#4、#5あたりでネット上でも「どうも様子がおかしいぞ」という反応が湧き上がって、僕は「これは大ヒットになる可能性大だから、ここからの世の中の反応をしっかり見ておくように」と全社に号令を掛けました。こんな様子をリアルタイムで見られる機会って限られていますからね。
●スクラップアンドビルドで脚本開発に3年
——脚本制作にすごく時間を掛けたというお話でしたが、そこにはスクラップアンドビルド、つまり「この話数で物語がこう展開するので、前の話数の脚本も再度書き直す」ということがかなりの頻度で行われたとうかがっています。公式サイトを拝見すると脚本を人数をかけて担当されていることも分かります。どのくらいの時間が実際掛かったのでしょうか?
柿本:およそ3年くらい掛かったと思います。
——3年!
松浦:ふつうは長くても1年なので、相当長いですよね。劇場版「BanG Dream! ぽっぴん'どりーむ!」(2022)のころには、もう企画が動いていたので。
柿本:僕はやったことがないですが、原作ものだと半年なんてこともあると聞きますね。いままでのバンドリ!作品でもおおよそ1年半くらいですから。
松浦:脚本開発途中から制作に入ったりもしますしね。
柿本:いちど脚本があがってから稿(バージョン)を重ねていくわけですが、7稿とかもざらにありました。そのまえのプロット時点でも4回書き直していたりして、脚本家の皆さんの負担もかなり大きかったと思います。でも、それだけの時間を掛けるとキャラクターの芯の芯まで確かに見えてくるんです。大事な時間だったと思います。
——CG映像を作る段階でも脚本まで戻って直す?
柿本:それはないですね。その段階まで進んだら、直すのはせいぜいセリフとか音絡みまでです。脚本からコンテで変える(微調整をする)くらいで、声を吹き込む前段階、つまりカッティング(切れ目のない一続きの映像=カットの区切りを決める行程)以降はまずないです。脚本でしっかり固めておかないと、後工程への影響が大きくなり、戻れなくなっていくので。
——分かりました。それにしても3年というのは本当に長いですね。劇場アニメか、それ以上という印象です
●「もともとはバンドリ!ではなかった」
——すでに別のインタビューで答えておられますが、「It's MyGO!!!!!」「Ave Mujica」が最初はバンドリ!シリーズではない形で企画がスタートしたことも関係していますか?
柿本:そうですね。最初、根本さん(根本雄貴氏・BanG Dream! 総合プロデューサー)が持ってきたのはバンドリ!に加えるという話ではありませんでした。取りあえずバンドリ!とは別世界で2つのバンドを描こうということで、登場人物が通う学校も新設してたんです。彼女たちが集うライブハウスもバンドリ!シリーズに繰り返し登場する「RiNG」とは別の場所を想定していました。
松浦:でも実はバンドリ!に入れるかどうかは、ずっと悩んでましたね。
柿本:バンドものであるということだけは決まっていて、ある意味「野良」企画だったというか(笑)。でもバンドリ!じゃないところからスタートしたので、バンドリ!ではできないことを全部つぎ込もうということになって、当初の物語は今よりもさらにとがったものだったんです。「It's MyGO!!!!!」でも少し描くことになりましたが、リアルなバンドってケンカや解散がつきものですよね。そういうところに焦点を当てようということで、「反発しあう2つのバンドが目を合わすたびに一触即発」みたいな展開が続くものだったんです。方向性は全然違うけれど、それでも互いに影響しあいながら成長していく、といった感じの。
松浦:でも企画を開発していく過程で、舞台は池袋ですし、これまでのシリーズの舞台とも近い。進級したバンドリ!メンバーがこの世界のどこかにいるはずだよね、ということになり。
——なるほど、それにしても異質ともいえる物語をシリーズに合流させようというのは大きな判断だったと思います
柿本:そうですね。いざ合流させると決まったら、最初期のシリーズのメンバーたちは卒業して進学したり、社会人にもなっていますが、まだその次の世代は3年生だったりするので、その下の学年にいるということで接続できました。結果として、力強いお姉さんに成長している香澄たちもお見せすることができましたね。
●SNSでの交流と3DCGの進化が可能にした物語
——これまでは視聴者が元気づけられるような方向性の物語であったのが一転、見ている者の心を揺さぶるような展開が続いていますが、受け入れられるかどうかはフタを開けてみないと分からなかった?
柿本:そうですね。バンドリ!も10年がたって、キャラクターだけでなくファンの皆さんも年を重ねたわけで、一日働いて家に帰ってきて、キャラクターたちがギスギスしてたら疲れますよね。今までのバンドリ!は20代〜50代向けにどこか「ほっとするような」物語をつくってきましたが、今回はもう少し年齢層を下げて、10代〜30代くらいをメイン層に想定しています。いわば体力と時間がある人に向けた物語ですね。「この表現って何だったんだろう?」とストーリーを追う労力を掛けてでも、好きになってくれた人はついてきてくれるだろう、と。でもそれがこんなに多くの方々に受け入れられるとは正直思っていなかったので、本当に幸運だったと思います。
——私自身もMyGO!!!!!を学生たちが話題にしているのが視聴のきっかけでした。若い人からこれまでのファンや年齢の高い人たちにも拡がっていったのでしょうね
柿本:年齢が上の世代も「鬱展開」には耐性があるんですよね。「エヴァンゲリオン」をはじめとした名作にリアルタイムで触れてきた世代ですから。
——さまざまなアニメファン層がSNSを通じて交流するなか、現在「ガールズバンドアニメ」のブームともいえる状況ですが、「It's MyGO!!!!!」「Ave Mujica」の企画に影響を与えた面はありますか?
松浦:このシリーズがスタートした2017年のTVアニメ「BanG Dream!(バンドリ!)」のころは、「けいおん!」(2009〜2010年)以降、ガールズバンドアニメってほぼなかったんですが、いま本当に増えましたね。
柿本:僕は「3DCGの進化」がガールズバンドアニメブームの背景にあると思っています。フル3DCGアニメとして制作されることになった「2nd Season」(2019)の時点でも、3DCGでガールズバンドを描くなんてことをやってるのはサンジゲンしかいなかったですから。当時の3DCG業界は、例えばリアル寄りだったり、かっこいいモデルであったり、CG会社ごとにいろんな得意領域があって群雄割拠の時代でもあったんですが、キャラクターをかわいく見せて動かせて、しかもバンド演奏もできるのはサンジゲンだけだったんです。
松浦:ホントは第1期からやりたかったですけどね。あのころは柿本くんも助監督を務めていた「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」(2013)やその劇場版(2015)、「ID-0(アイディー・ゼロ)」などで手いっぱいでラインが全く空いてなかった。でも演奏シーンがCGになるんだったら、サンジゲンなら全編CGでやれるはず、と思っていたところ、ある日、木谷さん(木谷高明氏・ブシロード代表取締役兼CEO・2023年までバンドリ!プロジェクト 製作総指揮)から電話が掛かってきて「2nd Seasonを作ってくれ」と、即答で「できるよ。でも覚悟してね」と応えましたけどね。
——覚悟とは?
松浦:当時フル3DCGアニメは、そこまで受け入れられていませんでしたから、ファンからは最初はいろんな反応があると思うけど、だからといってプロジェクトをやめないでねって。「CGだったら観ない」というのも全然普通だった時代です。でも負けるもんかって思ってましたし、幸いゲームもあったのでルックにも慣れてくれている人が多かったし、ゲームとの連動で見続けてくれる人もいましたから。
柿本:アニメ「BanG Dream! 2nd Season」から6,7年たって「ウチでもできますよ」と、この分野にシフトしてきた会社が幾つか出てきたという感じですね。
松浦:技術を見せすぎたかもしれない(笑)。
柿本:(笑)。「ぼっち・ざ・ろっく!」は手描き作画がメインでしたけどね。「けいおん!」とおなじく「まんがタイムきらら」に系譜があるので、日常アニメ枠でバンドをやっているという分類かなと思います。バンドリ!はバンドの方が主体で、日常がそこにのっかる形で、同じガールズバンドアニメでもちょっと違っていたと思うんです。さらにそこに「ガールズバンドクライ」(ガルクラ)のような作品も登場してきて、そのあたりの境目も無くなってきた。それぞれの面白さ、良さがあると思いますね。
松浦:ガルクラ、面白かったですよね。
柿本:あのルック(絵柄)は東映アニメーションさんならではですよね。
松浦:作り方、手順が全然違いますからね。元サンジゲンのスタッフもたくさん参加していますが。バンドリ!がいろいろなところに影響を与えているのは間違いないかなと思います。
柿本:ガルクラにはProduction I.G時代の僕の同僚も参加してますね。業界は狭いです(笑)。
——演奏シーンは、手描き作画アニメーションでは非常に工数が掛かります。一方で3DCGでは、楽曲にあわせてキャラクターが楽器を演奏する様子が精密に描けますし、さらにさまざまなカメラワークを組み合わせることも自在に行えます。3DCG技術の発展が、これまでは難易度が高かったバンドアニメの扉を開いたというわけですね。そんなバンドアニメがここまで支持されるというのはどこにその本質があるとお二人は捉えていますか?
柿本:バンドアニメの本質は僕は音楽だと思っています。
松浦:そうだね。アニメで僕たちは物語は作れるけれど、音楽を生み出すのは難しい。基本的にはできない。バンドアニメだとそれができる。しかも、音楽にも出自を持つ役者さんが声を当てて、そして実際にライブで演奏もする。3DCGによってバンドアニメの可能性が拡がったことによって、バンドリ!でもそれらを一緒に行うことが可能になった。アニメ映像とその中で描かれる音楽と、リアルな空間での演奏でメッセージを語ることができるようになったわけです。
柿本:ワンマンライブができるようになったのはバンドリ!からですね。シリーズのなかに登場する他のバンドとリアルに対バンライブができるというのもはじめてだったと思います。
●「CG臭さ」を無くせ! 繰り返された反省会
——先ほどアニメ「BanG Dream! 2nd Season」でのファンの否定的な反応も覚悟されていた、というお話もありましたが、「It's MyGO!!!!!」「Ave Mujica」では細やかな表情、所作がドラマに深みを与えていて、手描き作画アニメをしのいでいるのではないか、と思うカットもあるように思えます。表現をここまで磨き上げてきたのは、どのような過程があったのでしょうか?
松浦:僕たちは新しい作品に取り掛かるとき、いつもテーマを決めています。「It's MyGO!!!!!」「Ave Mujica」のときは「CG臭さを無くそう!」でした。作り終わったあとの反省会もみっちりやってます。劇場版「BanG Dream! ぽっぴん'どりーむ!」(2022)のころも、すごく長い箇条書きを作りましたね。
柿本:(笑)。ありました、ありました! クレーム満載のね。「なんでスカートが座ったときに曲がらないんだ!?」とか。
松浦:いっぱいあるんですよ。僕からもいっぱい出しました。「このハイライトは変だろ!」とか。そもそもCGでかわいくない部分があるぞ、と。僕たちは、サンジゲンは変わらないといけない! と言って、やれるかもしれないけれど、制作ラインにはのっていない改善に挑戦してみよう、といってやってみたのが劇場版「ぽっぴん'どりーむ!」だったんです。
 取り組みとしては、洗い出された改善を目いっぱい詰め込む、つまり手描き作画に近づける手法を取り入れた「スペシャルカット」を決めて、おカネと時間を掛けても良いから作品制作のなかで実践する、というものだったのですが、当時はまだそれができるカットが10数カットと少なかった。
柿本:そうでしたね。かなり厳選しました。
松浦:でも、結果うまくいったね。
——その改善というのは、ガルクラのようにレンダリングした結果そのままを手描き作画に近づける(いわゆる「一発出し」)ということでしょうか?それとも以前(※)、松浦社長に伺った、レンダリング後の修正を伴うものですか?
※劇場版公開中「蒼き鋼のアルペジオ −アルス・ノヴァ−」がアニメに与えたインパクトとは?
松浦:一発出しではないですね。修正の方法を変えたんです。絵を描くスキル・センスがまだ十分ではない作業者でも、そういうカットが量産できることを目指したわけです。もう少し詳しく言うと、基本的には「全身ではなく、腰から写っている」カット全てが対象となります。おおよそこれが全カットの半分くらい。その中から「情報が足りていない」「うまく行ってない」ものについて、「もう少し何とかしたいよね」と検討をしていく。
柿本:デッサンが取れていないなど、3Dモデルの都合で歪(いびつ)になっているところですね。
松浦:アオリとか俯瞰はどうしても3DCGは苦手なので、直さないといけない。ちょっと横を向いたときの鼻の位置、口の位置もうまく変えてあげないといけない。そういうカットを抽出したときに、まず気が付くのは特に女の子のキャラクターはハイライト(光源からの光がオブジェクトの表面で反射し、明るく見える領域)が足りていなくて、ディテール(細部)が表現できていないことが圧倒的に多いのです。男性キャラは逆に影がきちんと入っていれば引き締まった印象を与えることができるので、そこをしっかり押さえる必要がある。
 分かりやすく大きく言えばこの2点が挙げられるのですが、前作の作画監督に「こういうカットだったらこう描く」というサンプルを出してもらい、それをセカンダリーのアニメーターにもできるように、彼らがポイントを伝えるということをしつこくやりました。
 そしてその教えをうけたアニメーター——彼らの中には手描きでがんばって描く人もいますし、コンポジット(映像合成)ソフトで、マスク(効果を出す範囲指定機能)を駆使して表現する人などさまざまですが——、いずれにしても絵を描くことが本職ではないスタッフが行えるようにすることによって、スペシャルカットの量産ができるようになったのです。
——地道な訓練ですね。時間も掛かりそうです
松浦:そうですね。ただ、感覚や経験に頼って「うまい作家のマネをする」のではなく、「こういうときはこうする」というノウハウ、直すべきポイントをはっきりさせたというのは大きかったと思います。例えば、こういうカットでは眉毛を描く、さらにここに影を加えるといった具合にです。
柿本:手描き作画の世界でいうところの、作監(作画監督)修正集みたいなものですね。
松浦:そうだね。それを3DCGのキャラクターに対して作っておく。「絵をうまく描く」という作業とは全く次元の異なるルールブックとして。


 そうして数年間をかけて改善を図り、劇場版「ぽっぴん'どりーむ!」では10カットくらいだったところを、そのノウハウをそこからの作品、例えばボーイズバンド作品の「from ARGONAVIS」(アルゴナビス)など、全てに投入していきました。
柿本:「It's MyGO!!!!!」「Ave Mujica」では100〜150カットに及んでいます。
松浦:効率化、量産化が進んだ結果ですね。
柿本:システムが構築されたので、入社したばかりの人もすぐに対応できるようになりました。そして、副次的な効果として、彼らが一人前(ファースト)のアニメーターになった際に、かわいい・きれいな絵が描けるようになったのです。
松浦:絵をマネするだけだとつかめなかったコツ、極意が明示・共有された結果だよね。
柿本:手描き作画アニメの場合は、作監修正や動画検査からの修正指示をもらって「これが良い絵なんだ」ということを修得していくのですが、それと同様のことを3DCGアニメで行えたということになると思います。
松浦:僕がアニメ作りで何か新しいことに取り組む際、最も気を付けているのは「それが制作ラインに乗るのか?」という点です。ピンポイントですごく良いものができても、それは再現性がない。「良い絵とは何か?」という課題の洗い出しについては力づくでもおこなって、抽出されたポイントについては量産可能な手順に整えて制作工程に下ろして変えていくということを地道にやってきました。
●内製化が生んだ物語へのプラスの影響
——柿本監督が他媒体(※)のインタビューで、「It's MyGO!!!!!」「Ave Mujica」では、アニメーターが演出意図を自らくみ取って監督が期待する以上の表情や演技を表現してくれている、というお話をされていましたが、それが可能になった背景がよく分かりました
※BanG Dream! Ave Mujica:柿本監督が明かす、第9話までの制作秘話【インタビュー】 | アニメイトタイムズ
柿本:「It's MyGO!!!!!」の制作の段階で、この体制が構築され、「Ave Mujica」のときには私や演出からのリテイク出し(修正依頼)はほとんどしてないんです。
——そうなんですね!
松浦:これもここまでお話ししてきた改善と並行して進めてきたことなのですが、「サンジゲンの全員が演出家になる」というコンセプトも打ち出しています。
柿本:制作スタッフ全員が演出意図を理解して、それを絵に反映できるようになっていること、そして演出、脚本をはじめ全工程のスタッフが社内にいるようにしているのが、サンジゲンさんの強みですね。(※アニメスタジオの多くは工程の多くを外注に頼ることが多い)
松浦:全工程の内製化をすすめたのは「It's MyGO!!!!!」の制作のころからですね。
柿本:立ち上げの時に、ワークフローの洗い出しをしていた時に、松浦さんの方から絵コンテ(脚本に基づいて映像全体の流れや各シーンの構成をラフに示したもの)サンジゲン社内の3Dアニメーターの方にお願いしたいと話を頂いて。先んじて絵コンテの基本知識を共有するワークショップ的なものを社内でやらせてもらいました。実際にこのシステムが稼働すると、ある意味コンテを切る(描く)という工程がなくなったんです。というのも、普段手書きのコンテをもとに3Dソフトでカメラを置く、レイアウト(正確な画面構成)作業という工程があるのですが、元からアニメーターが3Dソフト内にカメラを置いてコンテを切ると、それはそのままレイアウトを切っているのと同じことになるんです。いわば、レイアウトを並べたものがコンテになるというわけです。
——以前の別作品のインタビューでも「コンテを切らなくてもよいのではないか」という話題が上がっていました。フル3DCGアニメだと本当にそれが可能になるわけですね
柿本:時間とお金の節約にもなりますしね(笑)。
 でもこれが効果てきめんで、手描き作画アニメの場合、アニメーターは「カッコイイ絵」を追求するが故に空間把握がおろそかになる面もあるものなんですが、3Dレイアウトなら実際に空間にキャラクターやオブジェクト、カメラなどを配置していろいろ試せるので、イマジナリーライン(撮影や演出のルールの一つ。視聴者に空間認識を分かりやすくするために仮想の線を設け不自然な視点の切り替えを避ける)の習得なんかも早い。
 脚本開発の段階で、設定制作(作品の世界観やキャラクター、メカなどのデザインを詳細に決定するスタッフ)が動いて、「この建物は絶対でてきますよね? 動かさなくてもよいですよね?」と僕に確認を取ってくれて、「はい……(おそらく)」と答えると3DCGスタッフと共にレイアウトの制作をはじめてくれます。脚本が完成する時点で、レイアウトを切るためのモデルは用意が整っているわけです。
松浦:3DCGコンテをどうやって作るかも、だいぶ議論を重ねましたね。やっぱりアニメーターに考えてもらいたいよね、僕たちらしいやり方を追求したいよね、と。
柿本:やりましたね。最初僕もちょっと戸惑いましたけど、いまは「これじゃないと嫌だ」くらいの感じになってます。他の人が手描きで描いたコンテにもう修正入れたくないです(笑)。僕が○とかの記号でアタリを用意しておけば、3Dレイアウトができてくるのはホントありがたかったです。
松浦:さらに3Dレイアウトで切ったコンテに対して監督修正ってなかったですから。普通はそれだけで1週間くらい掛かるもんですが。「Ave Mujica」についてはそれがなかったです。
柿本:でしたね。おかげで「カッティング(カット割りを決める作業)中に、コンテを修正する」というスキルを僕は手にいれました。すごく疲れますけどね(笑)。効率は圧倒的です。
松浦:カッティング作業日に必要に応じてコンテも修正できちゃう。コンテを切ったCGディレクターが作業には同席しているので、「ここはこんな感じに」と伝えれば、そちらもあとでちゃんとした3Dモデルにしてくれる。全体でみれば2週間ほど前倒しにできるので効率はすごくあがってます。
柿本:カメラワークについても、全てを正しい位置に配置して上から見るようにすれば、画面上でラインが見えますからね。結果「Ave Mujica」ではイマジナリーラインの間違いをアニメーターに指摘する必要も無くなりました。キャラクターに対するカメラの寄り/引きもすごく考えてくれるようになりましたし、この変化はディレクションにも生きてますね。
松浦:3DCGのディレクターって、技術的な素養がまず求められるので、演出よりも技術を重視する場面が多かったと思うんです。でも、ディレクターって本来は演出家であるべきなんですよね。だから、それまでは外部から演出家を招いたりもしていたのですが、いやこれからは社内のディレクターが演出になるんだよ、コンテ(3Dレイアウト)も切るんだよ、って、もちろん混乱もありつつも発破をかけています。
——フル3DCG、かつ制作機能の内製化が進んだことで、各工程の担当者が自分の「作業」をこなすだけでなく、物語全体のクオリティー向上に取り組む体制となったわけですね
●圧巻のライブシーンも仕事の透明性から生まれた
——#10のライブシーンは私もリアルタイムで見ていて正直しびれました。ライブ映像としてのクオリティーの高さはもちろん、フル3DCGならではの現実ではできないカメラワークがあり、しかも演奏中に物語が同時進行していく。これはすごいモノを見ていると感じました。どうやってこの映像が生まれたのか、知りたい人は多いと思います
柿本:カメラワークについては曲や担当するアニメーターによりけりなのですが、基本的に楽曲が完成したらすぐ演奏のモーションキャプチャーを撮っています。その段階でキャラクターそれぞれの動きに対する演出はまず完了させています。次に、そのモーションのついたキャラクターモデルをシーンに持ち込んで、観客も置き、それらが動いているものをカメラで撮っていく——先ほど説明したようにCGディレクターがコンテを切っていきます。つまり「本当にライブを撮影している」のと同じように作業している形です。
松浦:何も無いところからいきなりライブシーンのコンテを切っているわけではない、というのがポイントですね。ステージ上に1曲まるまる演奏している=動いているキャラクターたちがいて、それをみながらカメラワークを検討していくことになるのです。
——いろいろ試しながらベストなものを決めることができるわけですね
柿本:もう1つのポイントは「曲のなかにドラマを持ち込んだ」というところです。これは「It's MyGO!!!!!」「Ave Mujica」での新しい試みでした。(ライブシーンのコンテを切る)演出家(CGディレクター)のなかで「これは絶対に見せたい」というものが出てきたとき、それを映像としておさえられるようになった。演出上の狙いと脚本コンセプトがうまく交わったのがあのライブシーンですね。メンバーがどちらを向いているか、メンバーと視線を合わせるか、あえて合わせないか、といったことについても細かくモーションアクターさんにお願いしています。コンテ担当には「ここはこういう風に撮ってください」というポイントは押さえてもらうようにも指示しています。
松浦:バンドリ!をはじめたころは、いろんなライブ映像をみて勉強しつつ、「こんな感じだよね」というところからでしたからね。歌詞のこの部分はこの子を見せようとか、ライブの中に物語も入り込ませられるようになったというのは、すごく進化したなと思います。
柿本:必要な指示はこちらで入れるのですが、ネット上で話題になっていた「初華が十字を切ると背景のモニターにAve Mujicaのロゴが現れ、悪魔の羽根が生えたように見える」という演出は、僕が当初想定していたものではなく、複数のセクションの合わせ技なんです。
——そうなんですか!?
柿本:まずあの振り付けを考えてくれたモーションアクターさん。彼女がリハで曲のサビのところで十字を切る動きをしてくれたんです。そこで絵コンテの設計を元にアニメーターが後ろにモニターが通るようにカメラを仕込んでくれた。その後、グラフィックアーティストがちょうどいい位置とタイミングで羽の形のロゴのアニメーションを作ってくれたんです。
——うわー!
松浦:モーションアクターの皆さんはミュージシャンでもあって、曲をコピー(演奏)できるようになってから現場に入ってくれています。初華を演じてくれた彼女は、アニメ「BanG Dream! 2nd Season」からずっと関わってくれていて。
柿本:「ここは開放弦だから、こっちの手が使える」とかも振り付けとして提案してくれますからね。「KiLLKiSS」の“completeness”で初華が印象的なしぐさをするのも、アクターさんからの提案です。また、これも気がついてくれていた人がいましたが、海鈴と睦で回り方が違うんですよね。睦を演じてくれていたのはバレエの経験もあるアクターさんで、睦の動きにバレエの動作を取り入れてくれました。
 照明や撮影のスタッフも、社外のスタッフも含めて、皆作品へのモチベーションが高く、お互いがそれぞれの仕事をよく見ています。全てを指示に基づいてやっているというのではなくて、誰が何をやっているのかの透明性が高いし、物語への理解度も高いため、都度のアドリブも加わってさらによい映像になっていくんですね。関わってくれているスタッフの数だけ、物語の重厚さが増すといいますか。アニメ「2nd Season」からの蓄積がよく生かされていますし、「It's MyGO!!!!!」「Ave Mujica」でまたさらに現場スタッフのレベルが数段上がった感があります。
——10年の時を重ねた成果でもあり、地道な改善の効果が生まれているのが、映像や脚本や演出の世界だけにとどまっていないわけですね
●分散型のアニメ制作を可能にしたITインフラ
——3DCGによるアニメ表現の向上、内製化も通じた仕事の透明化などさまざまな改善が行われていることがよく分かりました。一方で、サンジゲンは東京では杉並・立川・台東の3箇所、そして京都、名古屋、福岡、金沢、神戸にも制作拠点を構えています。地方にも分散しているなかで、これまで伺ってきたような制作・改善が行われているのか、コミュニケーションの面が特に気になります
松浦:サンジゲンはデータベースの開発を精力的に進めてきました。どのスタジオにいても全員同じ仕事ができる環境を整えています。データベースを通じて、発注、納品、チェックなどあらゆる作業がオンライン上で完結しています。
 セキュリティの観点からデータベースへのアクセスは各拠点内からに制限していますが、拠点からであれば場所を意識することなく作業できます。打ち合わせも会議室を無くし、自席からオンラインで打ち合わせを行うことを基本としています。社内で紙資料を用いることもなくなりましたね。
——コロナ禍でアニメスタジオのDXは進みましたが、かなり先を行っているような印象ですね
柿本:僕自身も実際に映像のプロダクションに入ってからはリモートの方が助かりますね。作業している画面をそのまま共有してもらって、直接指示を出しながら確認ができるので。ただその前段階、脚本会議だけは会議室を用意してもらっています。何も素材がない、ゼロから話し合って生み出していくので、互いの表情やしぐさなどのリアクションも確認しながら進めていかないといけませんので。それ以降の工程はやはりオンラインが効率が良いですね。
 制作さんがあらかじめ用意してくれた成果物を見ながら、ペンタブで直接書き込みながら指示を出せます。会議室で口頭でニュアンスを伝えていた頃のような、例えば服の裾のことが袖のことだと誤って伝わってしまうような齟齬が無くなりました。対面よりもむしろオンラインの方が、より近くで作業してるような感覚があります。
松浦:それが全て録画されて共有されているのも大きいよね。
柿本:そうですね。アニメーターが脚本会議の録画を見て、自分が担当しているカットの演出意図を確認しながら作業していたりもします。6時間くらいある録画映像をBGMのようにしながら(笑)。
——アニメの制作現場で相当気を配らないといけないのが、コミュニケーションとニュアンスで、またそれがトラブルの元になったりもするのですが、オンライン化によってやはり改善されているわけですね
柿本:一般的なアニメ制作では、原画の作業に入る前に「作打ち(作画打ち合わせ)」と呼ばれる会議を、演出と各カットの原画担当者で行って演出意図を共有しますが、サンジゲンでもそういった会議は持つものの、ディレクターに対して僕から絵で示すことはしませんね。絵で伝えてしまうと、どうしてもそれをなぞってしまうことになりがちなので、ディレクターに考えてもらうように指示を出します。
松浦:考えるの、大事です。
柿本:アニメの仕事は集団制作で、かつ分業化されているわけですが、自分の仕事はここだけ、あとは外の別の人の仕事、とそこしか知らずに作っていると、いざ考えて作ろうとなったときにソースがないために、もらったコンテだけを頼りに勘でやっていくことになりがちなんですね。でもサンジゲンでは、オンラインで制作を介して僕に相談してもらうこともやりやすいですし(※一般的にアニメ監督は複数の作品をディレクションするケースも多く、1つのスタジオに終日詰めてはいないこともある)、ディレクターとアニメーターがバーチャルオフィスを用いて相談しながら作業を進めたりもしています。
——バーチャルオフィスですか。アニメスタジオで採用している例ははじめて聞きました
松浦:サンジゲンではMetaLife(メタライフ)を使っています。
 全国に制作拠点が現在8つあるのですが、ヴァーチャルオフィスでは1つの建物に入っているイメージです。先ほどのデータベースとあわせて、コミュニケーションもどの拠点にいても気軽に声をかけられるインフラとして用いています。
柿本:アニメーターとディレクターが「何時にヴァーチャルオフィスで相談させてください」という具合に、やりとりしてたりもしますね。
——制作を円滑に進めるインフラがよく整えられていることが分かりました。制作拠点が分散していると、どの作業をどこの誰が担当するか、作業の平準化や進捗管理などマネジメントが難しくなりがちですが、その点はどうされていますか?
松浦:「It's MyGO!!!!!」「Ave Mujica」より前は、通常のアニメ制作でも一般的な制作進行(各話に原画などのスタッフを確保し、納品までの素材や進捗の管理を行う職種)をおいていましたが、現在は制作進行とは別に、「制作管理」というセクションを私の直下に置くことにしました。そこが予算・工数・タスク配分を全作品について監督する体制です。
 それにともなって各制作拠点の制作進行は、制作管理から配分されたタスクと工数のもとで進行管理だけを行う方針に切り替えています。制作管理はカット毎の工数を割り出して、どの拠点のどのディレクター配下のラインにそれを配分するかを綿密に検討し、工数がオーバーしている場合には即座に対応を図るように動きます。
柿本:バンドリ!シリーズなど、サンジゲンでは制作実績が積み上がっているので、正確に工数のシミュレーションができているという印象がありますね。
——一般的には監督や演出が、どのラインにどのカットを任せるか差配することが多いと思うのですが、サンジゲンではそうではない、ということですね
松浦:どのラインが担当するかは制作管理が担っていますね。
柿本:そのうえでラインのなかでの素材・進捗の管理は制作進行、クオリティーの管理はディレクターという役割分担ですね。サンジゲンでは「あの人はアクションが得意だから」という具合には決めていなくて、先ほどのスペシャルカットのように「誰でもできる」のが前提で、いざ制作管理からタスクが降りてくれば、得手・不得手は関係無く「やらないといけない」というのが基本です。もちろん「このカットは重要なので優先してやろう」というのは各ラインの判断なので、そこはディレクターの裁量ですね。
松浦:うまい人だから早い、という風にはなってなくて、「一定レベルのサンジゲンのスタッフであればこの工数でできる」というのが基準になっています。もちろん、いろんな事情でその工数で収まらないこともある。それがダメだ、ということではなくて、即座に対応策が取られてスケジュールが守られること、スキル向上や改善が必要であればそのための対策が取られることが重要なんです。いずれにしても制作管理は人のスキルや事情、クオリティーを見ているのではなくて、あくまでプロジェクト全体を数字で管理することに特化してもらっています。
——大規模なITプロジェクトにおけるPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)のような存在ですね。それだけの規模・体制があってこその作品であるということもよく分かりました
●革新の連続体としてのアニメ制作
——最後にこれからのサンジゲンの方向性や、クライマックスを迎えるTVアニメ「BanG Dream! Ave Mujica」の視聴者やバンドリーマーの皆さんへのメッセージをお願いします
松浦:人気が出てしまって、この先、制作スケジュールがさらに埋まっていくなと(笑)。これは僕もまだまだ作り続けないといけない。もちろんそれは楽しいし、嬉しいことなんですが。「It's MyGO!!!!!」「Ave Mujica」の続編シリーズの制作も決まっていますし、全く新しいものだってあり得るかなと思っていますし、もうその準備ははじめています。
 僕たちは新作ごとにクリアすべきテーマを決めています。「It's MyGO!!!!!」「Ave Mujica」のときは「CG臭さ無くそう!」だったわけですが、常に「これまでになかったやり方でアニメを作りたい」と思ってます。これからも今日お話ししたような改善は続けて行くことになるでしょう。
 実はモデリングの工程は今後減っていく方向になっていくと思っていて、既にアセットとして購入できるものも増えましたし、サンジゲンにも1万5000を超えるライブラリがあるので、ゼロから作るということはほとんどありません。もっとも作業が大きくなるのはキャラクターの髪の毛の表現で、その次にディティールの多い洋服だったりするのですが、顔についてはすごく早く完成させられるようになっています。
 AIの進化もありますので、今後モデラーの需要は減っていくと思ってますが、それはネガティブなことではなくて、ツールやライブラリはどんどん使った方が良いし、そこにアレンジを加えられる人の需要はむしろ逆に高まっていくと思います。
 そういうビジョンもあって、サンジゲンでは次の「GUILTY GEAR STRIVE: DUAL RULERS」からは、制作ツールを3DSMaxからblenderに完全移行しています。オープンソースのツールを用いることによって、プラグインを自社で開発するなどより新しい作り方ができると考えているからです。ここに3DCGアニメの未来があるなと考えています。
 僕がサンジゲンを創業した2006年には、アニメ制作はスタジオシステムが主流になっていて、作品毎にスタッフが入れ替わるのが当たり前でしたが、サンジゲンはそれに逆行するように内製化とそれを支えるインフラ整備を進めてきました。それが一つ実を結んだのが、本作だと捉えていますが、これからも変革は進めていきたいですね。
柿本:ずっと会社に興味を持ち続けている社長って偉いなと思います(笑)。作品は終わりがありますが、会社は終わりがないですから。松浦さんは「もっとこうしたい」というエネルギーがすごいし、そこにちゃんとコストをかけてくれるのが有り難いです。効率化の結果として、クオリティーもどんどん上がってきていますしね。
 アニメは、デジタル化が始まったときにその波についていけないクリエイターと、なんとか乗りこなした人とで差がついてしまって、しかも変化の間隔はどんどん短くなり、3DCGの次はAIという具合になっています。とにかくあがき続けていかないと、沈んでいってしまう。ですので、作り方も日々変わっていく方が正しいと思っています。アニメ業界全体に言えることですが、同じやり方では作れるものが減っていきますから。
 バンドリ!もアニメ「2nd Season」「3rd Season」、劇場版とアップデートを重ねて、今回の「It's MyGO!!!!!」「Ave Mujica」はいわば大型アップデート、車でいえばフルモデルチェンジにあたるような作品です。もちろん「前のモデルの方が良かった」という人もいると思うので、そちらも引き続き楽しめるようにコンテンツは続きますので、シリーズを引き続き楽しんでいってもらえたらと思っています。
——作品だけでなく、アニメ制作の在り方としてもフルモデルチェンジ=革新だったなと今日のお話を通じてよく分かりました。「新型車」には驚いたファンも多かったと思いますが、私も含め多くの人がその乗り心地を楽しんだはずです。今日はお忙しい中、ありがとうございました

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