NIMSなど、軽量かつ柔軟な運動センサにも利用可能な発電するゲル材料を開発

2024年4月19日(金)18時7分 マイナビニュース

物質・材料研究機構(NIMS)、北海道大学(北大)、明治薬科大学の3者は4月18日、多くの静電荷を内部に安定的に保持できるゲル材料「ゲル-エレクトレット」を開発したことを共同で発表した。
同成果は、NIMS ナノアーキテクトニクス材料研究センター フロンティア分子グループの竪山瑛人研修生(北大-NIMS連携大学院)、同・名倉和彦研究員、同・中西尚志グループリーダー、明治薬科大の中正道教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、独国化学会の刊行する機関学術誌の国際版「Angewandte Chemie International Edition」に掲載された。
これまで研究チームが開発を進めてきた「アルキル-π液体」は、光・電子機能を有するπ共役色素部位と、電気絶縁性を有し柔軟な分岐炭化水素(アルキル)鎖を組み合わせた、難揮発性の常温液体。さまざまな変形に追従できる流動性、塗布や浸透などの方法を活用した優れた成形加工性を示し、超高濃度に機能性色素部位を含有できることなどが特徴だ。
アルキル-π液体は、「コロナ帯電」によって注入された静電荷を液体内に安定に保持し、液状の「エレクトレット」(電界のない状態においても、素材の表面近傍に電荷を半永久的に保持できる荷電体材料のこと)として利用できることが見出されており、センサなどにも利用可能。
しかし、アルキル-π液体は流体であるため、液漏れや染み出しなど、電極素子作製時の固定化や封止に課題があったほか、より優れたセンサ素子の作製のため、帯電力をさらに向上させることも課題だったという。このような背景から、アルキル-π液体をゲル化することで、(1)弾性を高め、(2)難揮発性で、(3)大気中で長期間安定に取り扱え、(4)超高濃度に機能性色素部位を含有し、(5)帯電力に優れるという、これまでにない新規ゲル材料の創製に挑むことにしたという。
まずアルキル-πゲルの基本的な物性を解明するため、π共役色素の一種であるナフタレン分子に分岐アルキル鎖が導入された液体分子「アルキル-ナフタレン液体」についての詳細な検討が行われた。同液体に1重量%程度の微量な低分子ゲル化剤が加えられ、130℃に加熱して溶解させた後、室温に冷却することで、流動性を失ったゲルが作り出された。ゲル中には、ナノメートルスケールの微小な網目繊維構造が形成され、母材となる液体と比べて貯蔵弾性率が4000万倍にもなったとした。
今回の手法は、微量の低分子ゲル化剤をアルキル-π液体に混合する簡便さに加えて、比較的粘度の低いアルキル-ナフタレン液体(粘度:46mPa・s)だけでなく、粘度17Pa・sまでの3桁に渡って粘度の異なるさまざまなアルキル-π液体をゲル化でき、汎用性の高い弾性率の制御技術といえるとした。
また、揮発しやすい水や有機溶媒などを利用した従来のゲルと箱となり、アルキル-π液体は、常圧で195℃以上まで揮発せず液体として安定しており、大気中で10か月以上にわたってゲル状態を維持できるとした。
さらに、母材であるアルキル-π液体自体が高濃度で機能性色素部位を含有し、同時に優れた柔軟性・変形性を有することから、ゲル化した後も柔らかさを損なうことなく、かつ超高濃度(最大59重量%)に機能性色素部位を含有する、これまでにない機能性πゲルを実現したとする。
そうした中で、π共役色素の一種である「ピレン」を分岐アルキル鎖によって液体化した「アルキル-ピレン液体」は、比較的大きなπ共役色素部位や、絶縁性の分岐アルキル鎖を多く有しており、静電荷の安定的な貯蔵において有利な液体。今回は同液体をゲル化し、コロナ帯電処理によってゲル-エレクトレットが創成された。さらに、柔軟な電極で挟んで封止することで、振動センサ素子が作製された。
正極コロナ帯電処理では、N2+、O2+、H3O+などの大気中の帯電した化学種がアルキル-π液体またはゲル中に注入される。この素子に圧力、振動や歪みが加わると、電極間距離の変化に応じて電圧が生じることから、振動や歪みのセンシングに利用できるとした。今回作製された振動センサでは、エレクトレットの電荷保持量が大きいほど、大きい出力電圧が生じる。ゲル化によって、電極素子作製の際の封止や固定化が容易になったことに加え、帯電量は液体より24%増加したとする。これは、ゲル化で流動性が低下したことで、帯電した化学種がゲル内部により効果的に閉じ込められたためと考えられるという。なお、ゲル-エレクトレットを組み込んだ柔軟な電極素子では、17Hzの振動に対し出力600mV(液体素子より83%増大)の振動センサ機能が示されたとした。
さらに、一度エレクトレットとして使用したアルキル-πゲルを回収し、振動センサ素子に再利用することが可能なことも確認済みだという。サーキュラーエコノミーの観点でも有益な材料であることが実証されたとした。
研究チームは今後、帯電特性(帯電量、帯電寿命)とゲル強度をさらに高めて素子性能を向上させることで、微弱な振動やさまざまな歪み変形に追従可能なウェアラブルセンサとしての実用化(主にヘルスケアやロボティクス分野)を目指すという。
また今回開発されたゲル材料は、超高濃度にπ共役色素部位を含有することから、高性能な光電子機能性材料としても期待されるとする。エレクトレット応用以外にも、今後の研究開発によって新たなエレクトロニクス応用を開拓していくとしている。

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