吉川明日論の半導体放談 第301回 AMDとIntelの決算発表から見えるもの、「PC/サーバセントリック」から「AIセントリック」へ

2024年5月13日(月)6時35分 マイナビニュース

CPU市場をリードするAMDとIntelの2024年第1四半期の決算発表があった。
両社は半導体産業が爆発的拡大をするきっかけとなったPC/サーバ市場におけるCPUの2大企業で、これまで50年近く熾烈な技術競争を繰り広げてきた。PC/サーバはその出現から現在に至るまで、半導体市場の拡大をけん引する標準プラットフォームとしての役割を担ってきた。AMDとIntelの技術競争の歴史は、そのままPC/サーバの出現とそのコモディティー化の歴史と言ってよい。
PC/サーバは、未だに最大規模の半導体プラットフォームではあるが、その在り方にも大きな変化が見え始めている。最近発表されたAMDとIntelの2024年第1四半期(1-3月期)の決算発表から業界に迫る大きな変化を考えた。
データセンターでの存在感を増すAMDとシェアを失うIntel
AMDとIntelの両社は、x86ベースのCPU市場で長年のライバル関係にあり、両社の決算時期とその発表のタイミングは近接しているので、よく比較される話題だ。
また、両社が深くかかわっているPC/サーバ市場は、現在でも半導体のアプリケーション分野としては最大級で、CPUのみならず、メモリーやその他の周辺技術への影響も大きいので、業界の趨勢を見極める有力な指標にもなっている。最近発表された第1四半期決算の両社の比較を簡潔に言ってしまうと「果敢に攻めるAMDと未だに反転攻勢に出られないIntel」と言ったところか。
両社決算の現状比較の重要な指標となる数字を抜き出して表にしてみた。
昨年までの弱含みのPC市場が通常の規模に戻って、PC市場に大きく依存するIntelの総売り上げは9%アップの127億ドルで、AMDの2.3倍の規模である。私が勤務したころは5-6倍であったと記憶しているので、その差は急激に縮まったという印象がある。両社ともPC市場とサーバ市場でガチの競合関係にあるので、この単純な表を見ても何が起こっているかは明白である。
IntelはPC市場規模の正常化で売り上げを稼いだが、売り上げの伸び率の比較を見ると、ハイエンド分野で引き続きAMDにシェアを奪われている
半導体ビジネスで最も利益率の高いサーバ用CPUでもIntelは未だにAMDにシェアを奪われ続けている
その結果が粗利率の大きな差に出ている
AMDはPC/サーバ市場以外ではゲームコンソールで大きなビジネスを展開しているが、今回この分野はエンド機器の世代交代と在庫調整の時期に当たって、売り上げが落ちた。
またIntelは、データセンター分野で相変わらずAMDの後追いをしている状態で、巨額な投資を続けているファウンドリビジネスでも売り上げが落ちた。こうした背景から、証券アナリストからは弱気発言が多く出たので、株価が下落した。
しかしながら、今回の両社の決算分析レポートで大きくハイライトされたのは、多くのCPUノードがAI用のGPUノードに置き換わっているデータセンター市場での両社の現状と今後の見込みである。IntelはすでにAIアクセラレータ「Gaudi 3」を発表しているが、採用企業にはわずかにNAVER、Dell、Supermicroなどが名乗りを上げているだけで、Intelの発表でも具体的な数字は提示されず、大きく取り上げられることはなかった。それと比較して、AMDのCEOのLisa Suは前年比80%の増加を達成したデータセンタービジネスでのAI半導体「MI300シリーズ」の好調ぶりを強調し、「MI300シリーズのみでも今年は35億ドル以上の売り上げを見込んでいる」と胸を張ったが、AI半導体のビジネスに大きく期待するアナリストからは「まだ足りない」、「NVIDIAとの差は開くばかり」という肩透かしの反応だった。
今回の両社の決算で非常に明らかになったのは、半導体市場全体を牽引するプラットフォームが、CPUベースのPC/サーバから、生成AIをはじめとするAI半導体ベースのプラットフォームに急激にシフトしているということだ。
AIを中心に動く半導体業界
シリコンバレーでは、よく“Centric(セントリック)”という言葉を使う。「XXXを中心に動く」という意味であるが、現在の市場の変化はまさに「PC/サーバ・セントリック」から「AIセントリック」への大きなシフトであると言える。
その主役であるNVIDIAの決算発表は来月まで待たないと分からないが、前期以上の好決算を期待する声が多い。またNVIDIAの生産キャパシティを一手に引き受けるTSMCも、早々と現在稼働中の最先端3nmプロセスのさらにその先の微細加工技術と、CPU/GPU/HBMをインターポーザ上に並べる高密度な実装技術について少しずつ公開を始めている。
高性能メモリーが、PC/サーバCPUの高速化とともに急速な技術発展を遂げたように、現在最も注目されているのがHBM(High Bandwidth Memory)だ。この分野で先行するSK hynixの後追い状態だったSamsungは、ようやくこの分野でSKに追い付きつつあり、最近の決算発表では今後の反転攻勢の姿勢を強調している。
エッジ側のAI化も本格的に始まる気配だ。つい最近AppleからiPad Proに搭載されるという次世代SoC「M4」の概要が発表された。10コアのCPU、10コアのGPU、そして16コアのNeural Engine(NPU)を同一チップに集積したこのApple Siliconの最新チップは、TSMCの第2世代3nmプロセスで生産される。Appleは6月にも生成AI技術を含む発表を控えており、M4の発表はその前ぶりという印象がある。
“AIセントリック”の将来プラットフォームは今までになかったスピードで技術革新を加速化させる様相である。
吉川明日論 よしかわあすろん 1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、2016年に還暦を機に引退を決意し、一線から退いた。 この著者の記事一覧はこちら

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