【決算深読み】ソニーが過去最高の本決算、主力となったエンタメ事業の好調はどこまで?

2025年5月15日(木)15時25分 マイナビニュース


ソニーグループは、2024年度連結業績を発表。それにあわせて、2025年4月1日付で、代表執行役社長 CEOに就任した十時裕樹氏は、中長期的視点から、同社の事業および戦略の方向性について説明した。
ゲーム、音楽、映画、ソニーの6割を占めるエンタメ事業
十時社長CEOは、「近年、ソニーの経営の軸は、エンタテインメントに大きくシフトしてきた。軸足を移した背景にあるのは、ソニーが持つエンタテインメント事業における強みや成長力である。加えて、人々の心を動かし、世界を感動で満たすことができるエンタテインメントの力にも突き動かされてきた。これはソニーグループのパーパスの核といえるものである」と前置きし、「ゲーム、音楽、映画、テレビ作品など、各カテゴリーでのコンテンツの拡充、事業を横断したIPの拡大、コンテンツや音楽カタログ、アニメへの戦略的投資、クリエイションを支える革新的技術の開発などに注力してきた。これらの取り組みがソニーグループの変革に寄与し、好調な業績につながっている」と切り出した。
2012年度には約30%だったエンタテインメント事業の構成比は、2024年度実績では61%にまで拡大している。「コロナ禍で証明したように、景気の後退局面でも高い回復力を持つ事業である。継続して注力することで、成長を目指す方針に変わりはない。長期ビジョンであるCreative Entertainment Visionの実現に注力することが、今後のグループ経営方針の中核になる」と述べた。
また、「かつてはトップダウンで進めていたシナジーが、ボトムアップによって様々なプロジェクトとして発生している。強いIPをもとに、シナジーのスピード感があがり、競争力が高まっている」と自己評価した。
Creative Entertainment Visionは、2024年5月に発表したもので、クリエイティビティとテクノロジーによって感動を届けることを目指す長期ビジョン。Create Infinite Realitiesをキーメッセージに、「創造性の解放」、「境界を超えたつながり」、「あらゆる場に広がる体験」の3つのフェーズで構成。クリエイター、パートナー、社員、ソニーグループの多様な事業間のシナジーを通じて実現するという。
ここでは、Creative Entertainment Visionを実現するエンタテイメンメント事業の状況について説明した。
ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)分野では、PlayStation 5のアクティブユーザー数と、ユーザーあたりの支出額の伸長が継続すると予測。安定した利益と成長をもたらすと見ている。「The Future of Playの創造に向けて、思慮深く、戦略的な投資を実行する。PlayStation Plusの収益拡大と、PlayStation Storeのパーソナライゼーション、価格の最適化によって、ARPUの最大化を目指す」という。
ストーリー性が高いシングルプレーヤー向けタイトルの「Ghost of Yōtei」や、ライブサービスゲームの「Marathon」などの新タイトルと、過去の名作ゲームカタログである「HELLDIVERS 2 | や「Destiny 2」によるユーザーベースの拡大を目指すほか、β版のクラウドストリーミング機能に対応し、外出先でも簡単にゲームを楽しむことができる「PlayStation Portal」といった収益性が高い周辺機器にも注力するという。
音楽分野では、グローバルの音楽市場におけるポジションの強化に注力し、継続的に収益を向上させるという。「ソニーミュジックグループでは、配信プラットフォーム各社との強固な関係を維持しながら、世界の主要市場における価値強化に取り組んでいる。YOASOBIをはじめとするJ−POPアーティストの海外展開での成功をさらに拡大していく。エコシステムを強化しながら、オーガニック成長と戦略的買収の2軸で展開し、南米やインド、アジア諸国といった拡大市場での成長や、音楽カタログへの戦略的投資機会の探索、タレントの発掘および育成、ローカルインディースレーベルとの関係構築、熱烈なファンへのサービス提供、所属アーティストの伝記映画やドキュメンタリー、ライブイベントを通じたIPの拡大などに力を注ぐ」と述べた。さらに、AIなどの最先端技術も活用し、価値創造とともに、アーティストの権利保護にも取り組むという。
映画分野では、コロナ禍やストライキの影響で、映画やテレビ作品の制作本数の減少が見られていたが、現在は回復傾向にあることを指摘。「ソニーの映画事業も、ハリウッド全体と同様に立て直しの最中にあるが、大型新作タイトルの公開も控えている段階にある」とした。
2026年には、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントから「SPIDER-MAN:BRAND NEW DAY」や「Jumanji」の最新作、バイオハザードシリーズの最新映画などが公開されるほか、2027年には「Spider-Man: Beyond the Spider-Verse」、2028年にはビートルズの各メンバーを題材にした伝記映画4作品が公開される予定だという。
「ソニー・ピクチャーズには、Creative Entertainment Visionの中心となる事業間シナジーやコラボレーションを生み出すハブとしての役割を担うことを期待している」と述べた。
また、Crunchyrollが、会員数やサービスを順調に拡大しており、アニメが映画分野の成長を牽引しているほか、PlayStation Productionsでは、「Uncharted」や「The Last of Us」などのゲームIPを映画やテレビ作品化。現在10本以上が制作過程にあることも示し、事業を超えたシナジーが拡大していることを強調した。
アニメにおける広範なコラボレーションや、ソニー内外のファンコミュニティをつなぎ、様々なエンタテインメント領域での機会やシナジー創出を目指すエンゲージメントプラットフォームを通じた取り組みと、ロケーションベースエンタテインメント(LBE)の展開にも力を注ぐとしている。「LBEは、IPを広げるために有効であり、世代を超えて愛されるIPを作るという点でも重要である。だが、ソニーガテーマパークを手掛けるといったことは考えていない」と述べた。
また、ゲームの「Ghost of Tsushima: Legends/冥人奇譚」のアニメシリーズ化、グローバルなアニメファンに向けて良質なアニメ作品を企画およびプロデュースするHAYATEの設立、KADOKAWAとの戦略的資本業務提携によるメディアミックスやグローバル展開、バンダイナムコホールディングおよびGaudiyとの戦略的パートナーシップの締結などについても紹介。十時社長 CEOは、「アニメ市場は、2023年の240億ドルから、2030年には350億ドルに拡大し、とくにアニメ配信市場は年平均成長率10%台後半の成長が期待されている。Crunchyrollの成長を加速させるためにサービスの拡充、ユーザー獲得施策を強化していく。アニメは、ソニーグループの複数の事業において、成長を牽引する主要な領域になる」と位置づけた。
Crunchyrollは、2025年3月末時点で有料会員数が1700万人超となり、今後はソニーグループ最大の月間アクティブユーザー数を持つプレイステーションネットワーク(PSN)と連携を推進。新規および再登録ユーザーは、PS5からCrunchyrollの有料サービスにスムーズに加入できるようにしている。
「PSNの強固なネットワーク基盤をベースに、決済、データ基盤、セキュリティなどをソニーグループ全体の各種ネットワークサービスとして活用。ファンの興味や要望をもとに、ユーザーとクリエイターをつなぐ、新たなプラットフォームの構築を目指す。ソニーグループ横断で、活用可能な質の高い収益化、共通基盤の開発および運用も強化する。これにょって、グループ各社は事業の競争力強化や差異化にリソースを集中でき、顧客エンゲージメントの拡大や進化を通じて、事業成長にフォーカスできる」と位置づけた。
また、Crunchyrollではアニメグッズを対象にしたeコマース、モバイルゲームライブラリサービス、マンガアプリの提供を進めているほか、2025年5月25日には、Crunchyroll Anime Awardsを東京で開催することも紹介した。
「創作」に軸足をシフトするイメージング事業
一方、エンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)分野は、事業の軸足をコンテンツクリエイションにシフト。成長の原動力として、イメージング領域のエコシステムを拡充し、シネマトグラファー向けツールやソリューションの拡大、真正性カメラ技術の提供などのほか、スポーツエンタテインメントなどの成長領域の技術にも注力。Hawk-Eyeの審判判定やプレイ分析などのデータ活用能力を高めるためにKinaTraxを買収。さらに、ファンエンゲージメントを高め、新たなオーディエンスを獲得するためにオルタナティブ放送を拡大していく考えも示した。さらに、コンテンツクリエイションに向けて、空間コンテンツの制作を支援する「XYN」や、リアルタイムVFX、360Virtual Mixing Environmentなどによる技術革新も進める考えも示した。
また、イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)分野では、イメージセンサーがコンテンツクリエイションの精度をさらに高め、エンタテインメント体験のリアルティを新たな次元に押し上げる役割を担うことになるとし、モバイル向けイメージセンサーでは、大判化のトレンドを捉えた製品化を推進。解像度やノイズ性能、ダイナミックレンジ、消費電力などのイメージセンサーの性能進化に対するニーズが高いことから、モバイルセンサー向けに新たな世代の製造プロセスを導入することも明らかにした。2030年度に向けて段階的に導入する計画だという。2層トランジスタ画素積層型の「TRISTA」などと次世代プロセスを組み合わせることで、差異化したセンサーを継続的に提供し、顧客の期待に応えていくことができるという。
「I&SSの高い成長を目指す一方で、必要な投資をいかに適切なレベルに抑制し、投資効率を引き上げることができるかが大きなチャレンジとなる。今後、様々な選択肢を検討していく。モバイル向けセンサーだけでなく、カメラや産業機器、社会インフラ向けセンサーで安定した収益を計上し、車載向けセンサーなどの将来の成長が期待される事業については、市場成長のスピードや事業性を見極めながら、最適な開発投資や体制のもとで事業成長を目指すことになる」とした。
最後に、十時社長CEOは、「Creative Entertainment Visionの実現において最も重要なのは、ソニーが持つ事業と人の多様性である。約11万人の社員は、世界各地の様々な会社や組織で活躍しており、多様で異なる視点、アイデア、戦略を生み出す環境を形づくっている。多様な事業と人を有機的に結びつけることで生まれるシナジーは、ソニー独自の競争優位性の源泉となる。ソニーは今後も進化を続け、クリエイターの創造性を解放し、無限のリアリティ、エンタテインメント、感動が生まれる世界の実現に注力する」と宣言した。
2024年度業績は過去最高、2025年度はトランプリスクも影響
一方、ソニーグループが発表した2024年度連結業績は、売上高および金融ビジネス収入が前年比0.5%減の12兆9570億円、営業利益は同16.4%増の1兆4071億円、税引前利益が同16.2%増の1兆4737億円、当期純利益が同17.6%増の1兆1416億円となった。
また、金融分野を除く連結業績は、売上高は前年比6.9%増の12兆439億円、営業利益は同23.3%増の1兆2766億円、調整後OIBDAは同17.9%増の1兆9389億円、調整後EBITDAは同13.7%増の1兆9176億円となった。売上高、営業利益ともに過去最高を更新した。
また、2025年度の通期業績見通しは、継続事業ベースで、売上高が前年比2.9%減の11兆7000億円、営業利益が0.3%増の1兆2800億円(関税影響反映前は1兆3800億円)、税引前利益が4.7%減の1兆2800億円、当期純利益が12.9%減の9300億円とした。
金融事業の完全子会社であるソニーフィナンシャルグループは、2025年10月にパーシャルスピンオフを実行する予定であり、継続事業ベースの業績見通しでは金融事業を除いている。
ソニーグループ 執行役 CFOの陶 琳(タオ・リン)氏は、「2025年度は、米国追加関税の影響と、グローバルでの景気減速懸念など、不透明な事業環境にある。事業運営は慎重かつ保守的な想定のもとで進めていく。事業環境に大きな変化があった場合には、キャピタルアロケーションの迅速、柔軟な見直しも行う」とした。
また、トランプ関税の影響については、「米国関税政策の影響は、日々変化しており、先行きも不透明であるが、G&NS、ET&S、I&SSでは、すでに実施されている追加関税に迅速に対応するとともに、今後想定される複数のシナリオへの対策の検討を進めている。米国内での戦略在庫の積み上げやグローバルでの製品出荷アロケーションの調整、市場動向を踏まえた一定の価格転嫁などにより、営業利益への影響は1000億円程度と見ており、見通しの1割未満にマネージできる。注視しながら、適切な対応を進める」と述べた。
トランプ米大統領は、米国外で制作された映画に100%課税するという考えを示し、現時点では留保しているが、「映画は、様々な場所でロケをして、ひとつの作品にまとめることが一般的である。また、米国外で映画が制作されている背景にはハリウッドのコストが上がり過ぎたという要素もある。米国の問題というよりも、カリフォルニア州の問題である。映画に関しても追加関税の動向に注目していく必要がある」(十時社長 CEO)と述べた。
セグメント別の2024年度業績と、2025年度の通期見通しについても説明。ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)分野の売上高は前年比9%増の4兆6700億円、営業利益は43%増の4148億円、調整後OIBDAは32%増の5377億円となった。
「サードパーティーソフトウェアの増収や為替影響がプラスに働いた。営業利益は過去最高を更新した」という。
2025年3月におけるプレイステーション全体の月間アクティブユーザー(MAU)数は、前年同月比5%増の1億2400万アカウントとなった。10四半期連続で前年同期比を上回っている。また、PS5の年間出荷台数は1850万台(前年度は2080万台)となった。PS5の購入者の多くは新規ユーザーであることを指摘。その結果、今後もMAUを拡大できると予測している。
G&NS分野の2025年度通期見通しは、売上高は前年比8%減の4兆3000億円、営業利益は同16%増の4800億円、調整後OIBDAは同12%増の6000億円とした。「米国追加関税への対策として、PS5のハードウェア生産地の分散や、米国内での在庫積み上げなどを進めている」という。PS5は、中国を含めて、世界4拠点で生産。流通在庫+3カ月間の在庫を確保していることも明らかにした。
また、2025年度は、1500万台の出荷を目指しているが、「数字に強い意志はない。数字を追うよりは収益性をみていく。適切な場所で生産し、適切な数量を出荷したい」とし、「台数を気にする経営ではなく、MAUを意識する経営に変化している。エンゲージメントを重視した経営は、収益力の向上にもつながっている」とも述べた。
音楽分野の売上高は前年比14%増の1兆8426億円、営業利益は18%増の3573億円、調整後OIBDAは22%増の4491億円となった。音楽分野の2025年度通期見通しは、売上高はほぼ前年並みの1兆8500億円、営業利益も前年比1%減の3550億円、調整後OIBDAは前年比1%減の4450億円とした。
「2024年度は過去最高益を達成した。ストリーミングの売上高は、音楽制作が前年比5%増、音楽出版は13%増となった(いずれもドルベース)。2025年度は、為替が悪影響するが、海外音楽事業を束ねるSony Music Groupでは、ドルベースで1桁台後半の利益成長を見込んでいる」という。
映画分野の売上高は前年比1%増の1兆5059億円、営業利益はほぼ前年並みの1173億円。調整後OIBDAは2%増の1743億円となった。映画事業の2025年度通期見通しは売上高がほぼ前年並みの1兆5000億円、営業利益は同7%増の1250億円、調整後OIBDAはほぼ前年並みの1750億円とした。「2024年度はテレビ作品制作での減収があったが、為替がプラスに働いた。2025年度は、為替影響を除いたドルベースでの営業利益では、主にCrunchyrollが牽引し、前年比約10%の成長を見込む」という。
エンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)分野の売上高は前年比2%減の2兆4093億円、営業利益は2%増の1909億円、調整後OIBDAは1%減の2909億円となった。2025年度通期見通しは、売上高が前年比5%減の2兆2800億円、営業利益は同6%減の1800億円。調整後OIBDAは2%減の2850億円とした。
「2024年度はテレビやスマホの販売台数が減少。だが、レンズ交換式カメラは、補助金施策の追い風を受けた中国市場で販売台数が増加し、第4四半期は台数ベースで、前年同期比9%増の成長を遂げた。2025年度は、米国追加関税の影響による市場やサプライチェーンの混乱を想定し、リスク抑制を優先した保守的な事業運営を行う」という。
イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)分野の売上高は前年比12%増の1兆7990億円、営業利益は35%増の2611億円。調整後OIBDAは21%増の5342億円となった。2025年度通期見通しは、売上高は前年比9%増の1兆9600億円、営業利益は同7%増の2800億円、調整後OIBDAは同3%増の5500億円とした。
「モバイルセンサーの増収がプラスになった。製造経費の増加はあったものの、為替影響や増収効果、生産歩留まりの改善などにより増益となった。売上高、営業利益ともに過去最高を更新した。2025年度はモバイルセンサーの大判化の進展により、売上、利益の成長を期待している。現時点では、米国追加関税の影響による顧客からの発注見込みに変化は見られていない」という。
2024年度の金融分野における金融ビジネス収入は前年比47%減の9314億円、営業利益は25%減の1305億円、調整後OIBDAは13%減の1579億円となった。なお、ソニーフィナンシャルグループの2025年度連結業績見通しは、営業収入が前年比8%増の1兆円、税引前利益が同54%減の600億円、修正総利益が75%増の1075億円としている。
ソニーフィナンシャルグループ 執行役 CFOの山田和宏氏は、「2024年度は、ソニー生命における資産運用益が減少。営業利益は、変額保険の最低保証等に係る市況変動による利益の減少が影響した。だが、ソニー生命の新契約高は前年比11%増と、引き続き順調に伸長している」という。
2024年度からスタートしている第五次中期経営計画の進捗についても触れた。
同社では、経営数値目標として、2026年度までの3年間で、継続事業ベースにおいて、営業利益年平均成長率で10%以上、3年間累計営業利益率で10%以上を打ち出している。
陶CFOは、「2024年度は、G&NSとI&SSが利益成長を牽引し、営業利益成長率は23%、営業利益率は10.6%となっている。中期経営計画の初年度としては大変いいスタートを切ることができた」と評価。「米国追加関税の影響を踏まえた2025年度の業績見通しを加えると、営業利益年平均成長率見通しは11%、累計営業利益率見通しは10.8%となる。不透明な環境下ではあるものの、目標達成に向けて軌道には乗っている」と語った。
さらに、キャピタルアロケーションについては、3年間累計営業キャッシュフローの見通しを4兆5000億円から、4兆8000億円に見直したことも明らかにした。

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