東北大と住友商事、「カーボンリサイクル型SiC合成技術」の共同開発開始
2025年5月15日(木)19時1分 マイナビニュース
東北大学と住友商事の両者は5月14日、自動車や半導体分野の省エネルギー化を支える次世代パワー半導体材料として注目される炭化ケイ素(SiC)に関し、従来の製造プロセスが抱える高温加熱に伴う大量のエネルギー消費や二酸化炭素(CO2)排出といった課題解決を目指し、CO2と「シリコンスラッジ」を原料とする「カーボンリサイクル型SiC合成技術」の共同開発に取り組むことを共同で発表した。
同発表は、東北大大学院 工学研究科 応用化学専攻の福島潤助教の研究チームと住友商事の共同研究チームによるもの。
2050年のカーボンニュートラル実現に向けては、CO2の排出削減に加え、CO2を資源として再利用するカーボンリサイクルが重要視されている。さらに、資源循環を最大化し、廃棄物を最小限に抑制して新たな価値を生み出す経済モデル「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」の重要性も増している。こうした背景から、シリコンインゴットの加工過程で生じる微細な粉末や切削くずなどを含む産業廃棄物、具体的にはシリコンスラッジの有効活用が不可欠となっている。
現在、電気自動車(EV)の普及促進が進み、省エネルギー化への要求が一段と強まっている。それに伴い、次世代パワー半導体として期待されるSiCの需要が急速に拡大しており、その製造において、カーボンリサイクルとシリコンスラッジ活用の両立が強く求められている。
今回のプロジェクトは、日本において新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の主導によって進められているカーボンリサイクル技術の社会実装に向けた取り組みの一環である。今回の技術開発は、NEDOの「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2有効利用拠点における技術開発/研究拠点におけるCO2有効利用技術開発・実証事業」(基礎研究エリア)における委託事業として採択されたものだ。実証試験は、中国電力大崎発電所内にNEDOが整備したカーボンリサイクル実証研究拠点にて実施される予定となっている。
両者の役割について、まず東北大はカーボンリサイクル分野で有する先進技術、特許、学術的知見を活かし、新たなSiC合成技術の反応条件の最適化や高純度化プロセスの検証を行う。一方の住友商事は、原料となるシリコンスラッジやCO2の安定調達ルートの調査検討、国内外の市場開発、販路構築をリードするとのこと。こうした両者の強みを結集し、迅速かつ効率的な実用化・事業化を目指すとした。これにより、CO2とシリコン系産業廃棄物を用いた低消費エネルギー型SiC合成プロセスの確立を図るとする。今回の技術は、CO2の資源化と産業廃棄物の有効活用を両立させ、環境負荷の少ない新しい材料製造モデルを提示するものとなるとしている。
今回のプロジェクトを通じて得られる成果(高純度化手法、スケールアップ技術など)は、カーボンリサイクル型SiC粉末の品質、コスト競争力、環境貢献度の向上に寄与し、住友商事のグローバルな流通ネットワークを活かした市場展開を加速させるものと期待される。これにより、環境配慮型新素材産業の創出、採用企業のグリーン調達、シリコン資源の有効活用、およびSiCの国内製造による半導体資源の戦略的確保につながるとした。さらに、カーボンニュートラル社会の実現に向けた高度なサーキュラーエコノミーの構築にも寄与することが期待されるという。
実施期間は、2025年4月から2028年3月までの約3年間が予定されており、CO2削減、産業廃棄物の有効利用、低コスト化という3目標を同時に達成し得る今回の技術は、国内外で高い導入ニーズが見込まれるとする。これにより、半導体業界のみにとどまらず、幅広い産業への波及効果も期待されるとした。加えて、SiCの一部国産化を通じ、国内サプライチェーンの強化と地政学的リスクの低減にも貢献し得ると考えられるとした。今後は、両者の連携を一層深め、共同研究やスケールアップ試験を通じた早期の実用化と市場投入を目指すとしている。