【決算深読み】シャープ 巨額赤字の通期決算、テレビ向けパネル生産の堺工場を停止 - 岐路に立つSHARPブランド

2024年5月15日(水)23時59分 マイナビニュース

シャープが発表した2023年度業績は、2年連続での大幅な最終赤字となった。その元凶となったのは、ディスプレイデバイス事業である。同社では、堺ディスプレイプロダクトにおけるディスプレイパネルの生産を、2024年9月末までに停止することを発表した。また、新たに中期経営方針を発表。2024年度を「構造改革」のフェーズとし、アセットライト化を推進。2025年度〜2027年度を「再成長」のフェーズとして、成長モデルの確立と、本社機能の強化を図るという。
シャープ 代表取締役社長執行役員 CEOの呉柏勲(ロバート・ウー)氏は、「2022年度に新体制が始動してからの2年間、ディスプレイデバイスにおける変化への対応が遅れた結果、2期連続での大幅な赤字となった。中期経営方針を着実に実行し、信頼の回復に全力をあげる。2024年度こそ、全社での黒字化を成し遂げる。中期経営方針をやり切ることが私の責務である」としたほか、「2027年度までに、ブランド事業に集中した事業構造、既存ブランド事業と新産業の正のサイクル、成長を牽引および支援する強い本社の構築を目指す。信頼の日本ブランド“SHARP”を確立する」と宣言した。
再び暗いトンネルのなかに入り込んだシャープは、そこから抜け出せるのか。
最終赤字は1499億円の赤字、不振のディスプレイデバイス事業
シャープが発表した2023年度(2023年4月〜2024年3月)の連結業績は、売上高が前年比8.9%減の2兆3219億円、営業利益は前年度のマイナス257億円の赤字から、マイナス203億円の赤字。経常利益は前年度のマイナス304億円の赤字からは改善したものの、マイナス70億円の赤字となった。当期純利益は前年度のマイナス2608億円の赤字から、マイナス1499億円の赤字となった。
呉社長兼CEOは、「売上高はディスプレイデバイスやエレクトロニックデバイスが大幅な減収となり、前年度を下回った。営業利益と経常利益は、ディスプレイデバイスの不振により、赤字となったものの、ブランド事業の収益改善が進んでおり、赤字幅は減少した。最終利益は、ディスプレイデバイスに関連する減損損失を計上したことから大幅な赤字になった」と説明した。
ディスプレイデバイス事業の減損で1223億円を計上。さらに、OLED事業の終息費用を含む事業構造改革費用で117億円を計上している。
セグメント別業績では、ブランド事業の売上高が前年比2.7%減の1兆3352億円、営業利益は82.6%増の659億円となった。そのうち、スマートライフ&エナジーは売上高が前年比7.4%減の4413億円、営業利益は6.8%減の273億円。スマートオフィスは、売上高が前年比3.6%増の5820億円、営業利益は104.3%増の296億円。ユニバーサルネットワークは、売上高が前年比6.7%減の3118億円、営業利益は前年度のマイナス78億円の赤字から、88億円の黒字に転換した。
一方、デバイス事業の売上高は前年比16.5%減の1兆319億円、営業利益は前年度のマイナス516億円の赤字が拡大し、マイナス697億円の赤字。そのうち、ディスプレイデバイスは、売上高が前年比19.1%減の6149億円、営業利益が前年度のマイナス664億円の赤字から、マイナス832億円へと赤字が拡大した。エレクトロニックデバイスは、売上高が前年比12.3%減の4169億円、営業利益は前年比8.2%減の135億円となった。
「ブランド事業は需要の減速や急激な円安など厳しい事業環境にあったが、営業利益が大幅に伸長した。だが、デバイス事業は大型ディスプレイの苦戦が続いただけでなく、中小型ディスプレイも需要が急激に悪化し、業績が低迷し、大幅な赤字になった」と述べた。
今期は黒字化を計画、ディスプレイ生産は大型を停止、中小型も縮小
一方、2024年度連結業績予想は、売上高が前年比9.6%減の2兆1000億円、営業利益は100億円へと黒字転換、経常利益も100億円へと黒字転換。当期純利益も50億円の黒字化を目指す。
呉社長兼CEOは、「シャープの今後の成長を見据えると、構造的な課題がある」と指摘。「資本力が競争優位に直結するデバイス事業では、長期間に渡り、技術や工場への投資が十分に行えず、徐々に競争力が低下し、新たなカテゴリーや新たな顧客など、成長分野の開拓が進まず、業績が低迷している。だが、ブランド事業は、投資が制限され、環境変化によるマイナス要因の影響を受けつつも、毎期、利益を確保している。しかし、将来の成長に向けた打ち手が不十分であり、成長ポテンシャルを十分に発揮できない状況にある。この結果、全社のキャッシュ創出力が向上せず、『負のサイクル』に陥ってしまったことが、シャープの成長が長年足踏みしている真因であり、このサイクルから早期に脱却し、持続可能な収益構造を確立することが、喫緊の課題である」とした。
なお、2024年度には、約200億円のリスク対応のための戦略的予算を確保しているという。
2024年度の最重要課題を、ディスプレイデバイスの収益改善に定め、2024年度上期中に、堺ディスプレイプロダクト(SDP)の大型ディスプレイの生産を停止することを決定した。
今後は、インドの有力企業への技術支援や、建屋およびユーティリティを活用したAIデータセンター関連ビジネスなどへの事業転換を進めていく。また、SDPの生産業務従事者に対する社外転身支援プログラムを用意する。
シャープディスプレイテクノロジー(SDTC)が担当している中小型ディスプレイ事業についても、売上規模に見合った生産能力の縮小や、人員の適正化など、固定費の削減を進め、赤字幅の縮小に取り組むことで、適正な規模での生産を続ける。
「大型ディスプレイを生産するSDPは、連結子会社化後の市場の変化により、当初想定の再生計画の遂行が困難になったことから、今回、生産停止を決定した。新たなテクノロジーに移行するときには、巨額投資を続けなければ、競争力を維持できない事業である。また、テクノロジーの進化やコスト競争が激しい。外部環境の変化を捉えて、今回の決定に至っている。対応速度が足りなかったという反省があるが、利益を最大化するという狙いから、生産を停止するという決断をした」と述べた。
SDPの今後の転換方向としてあげたAIデータセンターについては、「詳細が決まり次第発表する」とし、「鴻海は、AIサーバーの生産においては、世界で40%のシェアを持ち、AIデータセンターに関してもノウハウを持っている。シャープが持つB2B、B2Cの接点を生かし、様々な用途やアプリケーションのほか、クラウドAIやエッジAIにも対応。ストレージ、コンピューティングといったハードウェアでも両社が協力できる」などと述べた。
2024年度のディスプレイデバイス事業では、中小型ディスプレイにおいては、生産能力の縮小、人員適正化など、固定費の削減に取り組み、赤字の大場縮小を目指す。亀山第二工場では、日産2000枚を1500枚に縮小。三重第三工場では、日産2280枚から1100枚に縮小する。また、堺工場のOLEDの生産ラインを閉鎖する。一方で、車載向けやVR向けディスプレイの販売拡大を目指す。電子ペーパーディスプレイのePosterにも注力する。
「中小型ディスプレイの工場は複数あるが、適正な規模で中小型液晶ディスプレイの生産を続けながら、AIや半導体分野に、これらの工場を活用する。最大のテーマは、パネルのリソースをトランスフォーメーションして有効利用することにある。工場のリソースではファシリティをそのまま活用でき、豊富な人的リソースも活用できる」とした。SDTCでは、亀山事業所、三重事業所、堺事業所、白山事業所、天理事業所などの拠点を持つ。
また、エレクトロニックデバイスは、2024年度は減収減益の見通しだが、カメラモジュールにおける既存事業の収益構造の改善と、特長デバイスを活用した新規カテゴリー展開の加速を進める。センサーおよび半導体では、FA向けデバイスの拡大、パワーデバイスへのカテゴリーシフトを推進する。
ブランド事業では、特長商品や新規カテゴリー商材の創出、ASEANおよび米州を中心にした海外事業の強化、低収益事業の改善に取り組み、収益力のさらなる向上を目指す。
「円安が進行する厳しい事業環境にあるが、2024年度は、スマートライフ&エナジー、スマートオフィス、ユニバーサルネットワークのすべてのセグメントで増収増益を目指す」とした。
白物家電では、特長商品の投入による日本市場のシェアアップ、米州およびASEAN市場の重点強化を推進。エネルギーソリューシュンでは、電力会社などとの連携による国内住宅向けのシェア拡大と、V2Hの販売拡大を目指す。ビジネスソリューションでは、ソリューション提案力の強化による顧客基盤の維持拡大と、ITサービスディーラーの開拓によるサービス領域の拡張に取り組む。PCは、B2B向けプレミアムモバイルモデルの販売拡大と、PC顧客基盤に対するLCM(ライフサイクルマネジメント)サービスの拡大を進める。また、TVシステムは、独自特長商品の拡大による日本市場の収益力強化、他社との連携による海外事業の拡大に挑む。通信は、国内携帯事業において、ハイエンドおよびミドルエンド比率の向上と、XR事業および決済端末事業の立ち上げを進める。
ディスプレイは大切な事業だが、「負のサイクル」脱却を優先
今回発表した中期経営方針では、「ブランド事業に集中した事業構造を確立し、2025年度以降、新たな姿で飛躍的成長を目指す」という基本姿勢を示した。
「巨額な投資を必要とする事業からは撤退するが、コアテクノロジーは保有し、開発を進める。たとえば、次世代ディスプレイのnano LEDディスプレイは重要な技術であり、開発を続ける。車載向けディスプレイの開発も進める」とし、「シャープにとって、ディスプレイが大切な事業であることは理解している。デバイスを開発することに変わりはない。だがモノを作るところから撤退する。大型ディスプレイの生産を海外のほかの地域に持っていく。一方で、ブランド価値を高める活動に力を注ぐ。112年目を迎えたシャープが、次の100年を目指すため、ブランドを再度強化し、新たなチャンスを掴む。イノベーションを行うブランド企業になることを目指す」と語った。
2024年度を「構造改革」の1年とし、2025年度〜2027年度を「再成長」の3年と位置づけ、将来の飛躍に向けた変革に取り組むという。また、鴻海との連携をより一層強化し、構造改革と再成長の両面において、鴻海のリソースを有効に活用。構造改革と再成長の取り組みを加速する姿勢も強調した。2028年度以降、グローバルエクセレントカンパニーを目指す。
構造改革の柱となるのは、「アセットライト化」である。ブランド事業に集中して事業構造を確立し、「負のサイクル」から脱却する考えだ。
アセットライト化では、「競争力強化に多額の投資が不可欠なデバイス事業は、工場の最適化や他社の力を活用した事業展開へと舵を切る」とし、SDPによる大型ディスプレイ事業は、先に触れたように2024年度上期に生産を停止。中小型ディスプレイ事業は他社との協業や工場の最適化を進める。エレクトロニックデバイスでは、カメラモジュール事業および半導体事業は、事業の親和性が高く、両社のさらなる成長につなげることができるパートナーに事業を譲渡する。
アセットライト化が完了した2025年度からの再成長フェーズでは、既存ブランド事業と、新産業による「正のサイクル」を創出。将来の飛躍を牽引する強い本社の構築を進める。
ここでは、「成長モデルの確立」として、スマートライフ&エナジー、スマートオフィス、ユニバーサルネットワークの3つの既存ブランド事業において、抑制していた投資を再拡大し、売上、利益成長を目指すとともに、成長領域へのシフトを加速。これによって創出したキャッシュによって、先端技術への投資を進め、成長する新産業分野での事業機会の獲得に挑戦し、事業成長と企業価値向上を目指すという。
「既存ブランド事業は、積極投資により、着実に利益成長を実現するとともに、将来の飛躍に向けた布石を打つ。また、新産業では、AI、次世代通信、EV領域を中心に、鴻海のリソースも有効活用し、Next Innovationを探索する」と述べた。既存ブランド事業では、2027年度に営業利益率7%を目指す。
スマートライフ&エナジーでは、環境/健康分野を中心に、コア技術を活用した高付加価値商材の売上比率を拡大。メリハリのあるエリア戦略を展開する。また、「家電×AI」による新たな顧客体験の創出、カーボンニュートラル関連需要の拡大を捉えた新商材の展開を進める。スマートオフィスでは、MFPの顧客基盤の維持および拡大と、これらの顧客基盤を活用したソリューションビジネスの強化を進める。ユニバーサルネットワークは、TVシステム事業およびスマートフォン事業の筋肉質化を進め、XRや車載、衛星通信分野へのリソースシフト、新たなAI関連端末の創出に挑む。
また、「新産業の方向性」では、「技術力強化による付加価値の向上、事業領域の拡大の2つの観点からNext Innovationの探索を加速する」と述べた。
「多様な顧客接点を持つ強みを生かしたAIの活用、長年の技術蓄積があり、今後、重要性が高まる次世代通信の領域を中心に、開発を加速する。人々の生活空間を主な事業領域とし、ホームやワークプレイスを中心に事業を展開しているが、今後はモビリティもひとつの生活空間として捉え、新たな価値創出に挑戦する」と述べた。
Next Innovationの切り口として、AIと次世代通信の掛け合わせにより、家庭向けおよびオフィス向けソリューションの高度化と最適化、生成AI利用環境の構築ニーズの拡大、AIエージェントの普及、衛星通信の普及とV2X技術の確立に挑む。また、EVエコシステムの領域では、自動運転の拡大、普及に伴う新たな生活ニーズの高まりや、電力マネジメント技術の重要性の高まりにあわせて、事業領域拡大に取り組む。
新産業の確立においては、鴻海との緊密な連携を進め、鴻海が持つリソースやプラットフォームを積極的に活用することで、取り組みのスビートを一段加速するという。
鴻海では、「3+3トランスフォーメーション」を推進しており、三大未来産業として、EV、デジタルヘルス、ロボティクスの3分野、三大コア技術(プラットフォーム)として、AI、半導体、次世代通信の3分野をあげている。これらの分野での緊密な連携が進むことになる。
本社機能の強化については、グループマネジメント、人材戦略(HITOを活かす経営)、ブランドマネジメント、研究開発、DX戦略、ESG経営の6つに力を注ぐという。
具体的には、中長期成長を見据えたトップダウンマネジメントの実践、ポートフォリオマネジメントの実行、人への投資の拡大、従業員エンゲージメントの向上、コーポレートブランド戦略の再構築と活動強化、新プロジェクト「I-Pro」を活用した全社横断での新規事業立上げおよび技術開発の加速、フレキシブルな社外協業と外部人材活用によるスピードアップ、ITによる経営スピードの向上、AI活用による業務効率化、ESG戦略の再構築と加速に取り組む。
「シャープの最悪の時期は過ぎ去った」のか?
一方、説明会では、鴻海科技集団の劉揚偉(リュウヤンウェイ)董事長がビデオメッセージを寄せた。
劉董事長は、「不安定な社会情勢やパンデミック後の非常に厳しい事業環境のなか、シャープが、自らの優位性を活かせる領域を見つけることで、この難局を乗り切り、早期に業績回復を果たせるように、鴻海は支援をしてきた。シャープの最悪の時期は過ぎ去った。これからは、ますます良くなる」と切り出し、「鴻海にとって、シャープは長期的なパートナーであるとともに、グループの重要な会社のひとつである。常にシャープと力をあわせてきた。2023年7月以降、私は毎月1週間ほど、日本に滞在し、シャープの戦略的変革を支援すべく、様々なアドバイスを行うとともに、シャープの経営陣や従業員と直接コミュニケーションをとってきた。これにより、市場の変化を明確に把握し、即座に適切な打ち手を提案することができている。シャープの独創的な技術と、100年を超える歴史があるブランドは、世界でも希有な存在である」とした、
また、「シャープの最大の懸念事項であるSDPに適切な手を打ち、AIデータセンターなどへの転用を図るとともに、デバイス事業のアセットライト化を鴻海と協力して進める方針である。私は、これを支持している。鴻海は3つの未来産業と3つのコア技術による3+3トランスフォーメーション戦略を積極的に推進している。シャープがこの戦略に則り、個人、クルマ、家、オフィス向けのスマート製品を融合させ、AI技術革命における新たなチャンスを掴むことに協力していく。鴻海の3大プラットフォームとシャープのブランドが連携して、1+1が2以上になるWin−Winの関係を作り上げていく。鴻海のグローバル戦略と実行力が、シャープの成功の原動力になると確信している。鴻海は常にシャープと手を携えている。ともに困難に立ち向かい、成果をわかちあい、シャープの輝かしい姿を見届けていく。シャープが新しいステージに前進していくことを期待している。2024年度は、より良い成果をあげてくれるものと信じている」と述べた。

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