組織づくりのプロから見た「投資したくなるスタートアップ」は? リンクアンドモチベーションに聞く

2024年5月23日(木)11時41分 ITmedia NEWS

白木俊行さん

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 スタートアップにとっての悩みの種、資金調達。いわゆる“SaaSバブル”が崩れて以降、資金調達難に陥る企業も多く見られる。一方、政府が「スタートアップ5カ年計画」としてスタートアップの支援を掲げるなど、状況は大きく動いている。
 資金集めが難しい局面では、当然それだけベンチャーキャピタル(VC)や銀行、投資家とのコミュニケーションの重要性も上がる。しかし、VCや投資家の考え方は広く共有されているものではなく、情報を集めにくい。
 そこで、本連載ではVCなどスタートアップ投資に携わる人たちに、出資に当たっての考え方などをインタビュー。事業領域、指標、経営者の人柄……どんな部分に注目しているか聞く。
 今回は、これまでラクスル、ビジョナル、アカツキなどに出資してきたリンクアンドモチベーションに取材。インキュベーション事業担当者である白木俊行さん(インキュベーション推進室 室長)に、投資に当たっての考え方を聞いた。
●祖業はコンサル、なぜスタートアップに投資
 リンクアンドモチベーションはコンサルティング事業を祖業とする企業だが、2014年にはインキュベーション事業も開始。きっかけはリーマンショックだ。「コンサルティングは成長軌道に乗っているタイミングでしか投資の対象にならない」(白木さん)こともあり、ダウントレンドのときにこそできる組織支援の形を模索した結果、投資事業を始めるに至ったという。
 ただしその目的は投資による利益だけではない。「株式を持ち、半ば一心同体となって歩む。せっかくであれば、未上場時の支援によって、その後素晴らしい組織になったという“組織の傑作”を作る」ことが事業の目的という。つまりはコンサルティング事業のブランディングを兼ねるわけだ。
 そのためインキュベーション事業では「組織をテコに成長させていきたい企業」(白木さん)への投資を重視。投資ラウンドは絞っておらず、国内外の区別もしていないという。1社あたりの投資額は非公開。これまでの投資先企業は以下の通りだ。
 白木さんは投資の基準について「この組織でグロースすると決めているかが必要条件」と話す。どういうことか。
●「組織づくり」を重視 投資先選定の考え方
──まずはざっくりと、投資先選定において重視している点を教えてください
白木さん(以下敬称略):必要条件と十分条件がありまして、必要条件は「共感性」です。この組織でグロースすると決めている企業でないと、そもそも検討の俎上(そじょう)に載りません。その上で、十分条件としてIPOの蓋然(がいぜん)性があるか、成長性があるかを見ていきます。
 他のVCはまず成長しているかどうかを見て、最後に相性を見ていると思うのですが、私たちは逆です。まず相性から見ていって、その上で成長するかどうかを検証しています。
──では重視している共感性の部分について詳しくお聞かせください。具体的に、どういう企業に対して「組織的な成長の意識がある」と感じるのでしょうか
白木:大きく「過去」「未来」「現在」に分かれると思います。まず過去は、きちんと組織に投資をしてきたかの実績ですね。あまり社員を大事にしていなかったり、採用に投資をしていなかったりすると、あまり信頼ができません。
 未来は事業計画の中に、組織に投資する計画やストーリーが組み込まれているかどうかですね。現在の部分はかなり定性的な判断ですが、経営者の人柄や、組織を大事にしそうかどうかです。この3つの掛け算で見ています。
──事業の領域については
白木:先ほど述べた点が満たされていれば問いません。
──特定のテクノロジーを重視することは
白木:特にありませんが、組織の在り方に影響し得るテクノロジーとしてWeb3に関心はあります。実際の投資に影響するかどうかは別ですが。
──Web3が組織づくりに影響を?
白木:いま、ZoomなどWeb会議ツールの影響で働く環境が自由化されています。そして、ChatGPTなどの影響で人間がすべきこととそうでないことの取捨選択も進んでいる。つまり「人間は付加価値があること以外はしなくていいよ」という形になっていくと考えています。
 そして、先のことになるとは思いますが、ブロックチェーンが浸透すると信用が個人にひもづくようになるかもしれません。そうすると、企業に対する個人の交渉力が増大する可能性があるとみています。つまり、選ばれる企業・個人とそうでない企業・個人が二極化する。その中でどういう組織を作るべきなのか、という点が変化すると思うので、一連のテクノロジーに注目しています。
──組織への注目度が高い印象ですが、組織の現場を見ることはありますか。例えば、経営層だけでなくマネジャー層とコミュニケーションすることは
白木:ビジネスモデルや成長計画によります。極端な言い方ですが、経営者の独力で伸ばせるビジネスなのか、経営陣含めた組織化が必要かで変わってくるかなと。
──ITエンジニアの数・質に注目することは
白木:基本的には未来評価なので、あまり見ません。経営層が優秀なエンジニアを集めたいと思っているかどうか、実際に集まってきそうかどうか、計画に組み込んであるかどうかはチェックしますが、今何人いるかはあまり見ませんね。
──経営者を見るときのポイントは
白木:まずは経歴ですね。どういう企業に所属していたか、連続起業家の場合はどんな会社を作ってきたか。もう1つは、定性的ですが“挑戦の履歴”です。
──例えば新規事業への挑戦など、でしょうか
白木:そうですね。基本的には初めてではない方が成功確率が高いと思うので、そういうことをやっているかどうかを見ています。
──数値指標で気にする点は
白木:一般的なデューデリジェンス(投資先のリスクや価値の調査)という感じですね。普通に事業計画と事業戦略の妥当性を見ています。ただ正直、事業計画に正確性というものはあまりないと思っているんですよね。特にアーリーステージはその傾向が強い。
 私たちは市場を安定的に取る企業より、競合がいない市場を創り出すゲームチェンジャーに投資をしてきたのですが、そういう企業はほとんど未来予測ができないので。
──ゲームチェンジャーにこだわるわけは
白木:私の考えですが、スタートアップ経営者の頭の中を数値化した場合、だいたい事業6割、財務3割、組織1割ぐらいだと思うんですね。組織が大事だ、と目をつけられる人はあまりいない。逆に言えば、そこに目をつけられる人こそ、これまでとは違うやり方が可能な、ゲームチェンジャーである可能性が高いと考えています。
──逆に、投資に後ろ向きになるポイントは
白木:これまでの話の裏返しですが、共感性と成長性が低いケースですね。すごく成長しているけど組織を大事にしていない会社や、その逆は投資しにくいと思います。
──いわゆる“SaaSバブルの崩壊”や生成AIの勃興など、現状はスタートアップ業界が大きく動いているところだと思います。一連の動向について、何か思うところがあれば教えてください
白木:まずはもっと起業する人を増やさないといけない。いまの環境がポジティブかネガティブかを論じられるほど先見の明はないのですが、やはり日本は欧米に比べ開業率が低い。もっと多くの人がスタートアップにチャレンジしないと、確率論的に素晴らしいスタートアップも生まれないのかなと。
 あとは、廃業率も欧米に比べて低い。要は新陳代謝が進んでいないんですよね。スタートアップに限りませんが、起業もしにくいしつぶすのもやりにくい。与信や融資の環境を含め、もっとスタートアップを作ってもっとつぶせるような状況にしていかないと、なかなか変わっていかないかなという気がします。

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