AnsysとBMWはどうやってレベル3の自動運転機能を開発したのか? 鍵はシミュレーションとAIの活用にあり

2024年5月23日(木)20時45分 マイナビニュース

Ansysの日本法人であるアンシス・ジャパンは5月23日、22日より24日にかけて開催されている「人とくるまのテクノロジー展 2024 YOKOHAMA」に併せる形で、自動運転の実現に向けた同社のシミュレーション技術に関するメディア向け説明会を開催し、BMWが実装したレベル3自動運転能力実現における協業内容などの説明を行った。
自動車技術の進化の方向性の1つとして期待されている自動運転。すでに日本でも高速道路上という条件付きながら実現されており、今後の一般道への対応に向けた技術進化などが求められている。
そうした環境の下、BMWグループとAnsysは2019年に自動運転/自律走行車向けシミュレーションソフトウェアの共同開発を宣言。BMWグループがAnsysの機能を活用してSAE Internationalが定義するレベル3の自動運転を実現する最初の自動車メーカーの1社となることを目指す取り組みとして進められ、2023年11月に、BMWはドイツ国内向けに新型BMW 7シリーズ(G70)に、自動運転レベル3に対応する自動運転機能「Personal Pilot L3」をソフトウェアとして提供することを発表した。
AnsysのAutonomyチームにてDirector of Application Engineeringを務めるPierre Vincent(ピエール・ビンセント)氏は、「BMWがAnsysと協力することを決めたのは、同社があらゆる段階でシミュレーションを活用していくというアプローチを提案しており、それが開発の加速を可能にする取り組みであると判断したことによるもの。特に、今回の取り組みは自動運転の安全面に関する評価のスピードを向上させることを重要視したもので、レベル3の走行において問題が生じないことの評価や、センサに対する評価、シナリオベースの大規模バリデーションという3点を重点的に進め、結果としてWin-Winの関係性を構築することができた」と、これまでの取り組みの背景と、その結果得られた成果を説明する。
また、Ansys側としても、BMWという自動車メーカーがバリデーションに対する物理的評価ならびにシミュレーション上での評価をどのように考えているのかを理解できた点や、BMWから出された要件を製品開発に生かすことができた点、そしてそうしたコラボレーションを踏まえた成果が実際に製品化され、発売されるに至ったのは、今後の自動運転の高度化などにもつながる重要な成果だとする。
フルスタックのサポートも可能としたAnsysの自動車向けシミュレーション
通常、自動運転を実現するためには、さまざまなシチュエーションに基づいた膨大な走行データが必要になるが、実際に車両を道路上に走らせることは難しいし、想定したシチュエーションが必ずしも実走行中に生じるとは言い切れない。また、ごくまれにしか起こらないが、起こってしまうと事故につながるようなエッジケースなどを実車両で調べることは難しい。そうした問題を解決するのがシミュレーション上での走行検証であり、しかも大規模クラウドの活用により、一気にさまざまなシナリオの処理を実施することも可能であるため、「シミュレーションの活用により、従来手法に対して条件次第だが1000倍の高速化が実現できることを確認した」(Vincent氏)とするほか、市場投入までの時間としては100倍ほど早めることができたとしている。
BMWによると、2023年だけでシミュレーション上で2450万kmの走行テストデータを収集したという。しかし、同氏は「これは物語の序章に過ぎない。今後、数年にわたってもっと多くの走行シミュレーションが実施されていくことになる」と、今後の自動運転性能の向上に向けて、さらなる走行データがシミュレーション上で収集されていくことを強調する。
また、アンシス・ジャパンのAutonomyチームにてManager,Application Engineerを務める川端茉莉氏は、「自動運転を成立させる自律走行システムの安全性を示すための論拠を構築するためには、安全分析と安全管理に向けた安全性とサイバーセキュリティのための体系的なモデルベースアプローチを使用したロバストな設計の構築が重要だが、これだけでもシステムとして安全だという論証ができないため、Safety by Validationとして、仮想空間上でのさまざまなシミュレーションの実行と、シミュレーションではカバーできない物理部分の実走行による検証の組み合わせによる最終的な安全論証が重要になる」と、自律走行システムを実用化するためにはシミュレーションだけに頼らず、ハードウェアを含めた実世界での検証も必要であると説明する。
また、その実現のアーキテクチャとして「Safety by Design」として機能安全分析やサイバーセキュリティなどの安全分析における要件やテストプランの構築、「Safety Management & Safety Case」として適切な検証担当への割り振りなどの実施、「Safety by Validation & Verification」として、テスト結果の分析、フィードバックを行う流れと、こうしたテストの結果などをツールとしてトレーサビリティをかけた状態でレポート化することを通じて、論拠を得て、最終的な結果として安全論証として提出できる仕組みが重要であると指摘。しかも、Ansysとしては、従来より物理べースの精緻なシミュレーションを得意としてきたが、システムとしての周辺状況認識といった単体のみならず、その認識結果を踏まえた走行計画の策定、計画に沿ったブレーキやステアリングの動きまでを含めてシミュレーションで支援するフルスタックまでサポートが可能である点が強みとなっており、全体としてECUや顧客がすでに有しているソフトウェアと組み合わせたクローズドループにも対応しているとする。
さらに、周辺状況の認識1つとっても光学カメラ、レーダー、LiDAR、赤外線など、それぞれの物理特性を踏まえた検証が可能なことに加えて、現実の現象を再現したさまざまなAIトレーニングも可能で、しかもPC上におけるソフトウェアインザループ(SIL)のみならず、ECUを組み合わせたハードウェアインザループ(HIL)にも対応可能だともしている。
なお、AnsysとBMWが共同で開発したレベル3対応の自律走行システムの成果は、Ansysのソリューションとして2024年1月以降、BMW以外のユーザーに向けても提供を開始しており、現在、国内外の自動車メーカーなどから注目を集めているという。
初日だけで2000人超が訪れるほど注目を集めるAnsysブース
同社は人とくるまのテクノロジー展の展示会場にもブースを出展しているが、初日だけで同社ブースを訪れた来場者は2000人を超したという(同社がブースにて来場者のQRコードを読み取った数)。初日の総来場者数は主催者発表(速報値)で2万1203人とのことであったので、実に10人に1人が同社のブースを訪れた計算となる。
同展における同社の来場者に向けたポイントは「EV向けコンセプト設計ツール」と「AIソリューション」で、実際にブースに来る来場者の多くから、AIを自社の設計・開発に活用したいという話などの相談が来ているという。
また、同社ブースでは学生のソーラーカーレースの開発支援に関するコーナーなども用意されており、エンジニアの育成などにも注力していく姿勢を見せていた。

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