「AQUOS R9」のデザインが変貌を遂げた理由 ハイエンド推しから“情緒的価値”追求にシフト

2024年7月3日(水)13時51分 ITmedia Mobile

「AQUOS R9」のカラーバリエーションはホワイトとグリーンの2色

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 シャープは7月2日、新型スマートフォン「AQUOS R9」と「AQUOS wish4」の体験イベントを開催した。2機種は外部デザイナーを起用し、これまでのAQUOSシリーズとはイメージを刷新するモデルとなっている。
 イベントではデザインを手掛けたmiyake design(ミヤケデザイン)の三宅一成氏と、シャープのデザイン担当者である川充雄氏によるトークセッションが行われ、新デザインに込められた思いや開発プロセスが明かされた。
●「情緒的価値」を追求した新デザイン:人との関わりと空間との調和
 AQUOS R9/wish4の最大の特徴は、これまでのAQUOSシリーズとは異なる、柔らかな印象を持つデザインだ。三宅氏は、スマートフォンが日常生活に欠かせないものとなっている現状を踏まえ、人との関わりを重視したデザインアプローチを採用したと説明した。
 「製品が人とどのように関わるかという点に注目しました。このコンセプトに基づいて、形状の1つ1つの違いが、人にどう影響を与えるのかというのを考えていきました」(三宅氏)
 この「人との関わり」を重視したアプローチは、単なる機能性や外観の美しさだけでなく、ユーザーの生活や感情にどう溶け込むかを考慮したデザインにつながっている。
 さらに三宅氏が気を配ったのは、インテリアとの調和だ。スマートフォンを単体で見たときだけではなく、生活空間の中に置いたときにいかになじむのかを工夫したという。
 「仕事柄インテリアやデザインの雑誌やWebサイトをよく見るのですが、そういうものには家電や電子機器があまり置かれていない。シーンをスタイリングする人達やそういう雑誌を読む人達にとって、電子機器や家電をあまり感じいいものに写っていないのではないかという疑念がありました。生活空間のポンとスマートフォンが置かれたときに、電子機器のスマートフォンがポンと置かれたときに、変なような、邪魔しない、むしろ感じいいものになる。そういうものを作っていくということも情緒的価値につながっていくものだと思います」(三宅氏)
●デザイン哲学の変化:機能性から情緒的価値へ
 AQUOS sense7以降のAQUOSシリーズは、メインカメラをセンターに配置する機能性重視のデザインを特徴としていた。しかし、R9ではこの方針から大きく転換している。この変更について、シャープのデザイン担当者である川充雄氏は次のように説明している。
 「これまではハイエンド機種は機械的で無機質なデザイン、ローエンド機種は柔らかく親しみやすいデザインという固定観念みたいなものがどこかにありましたが、そういった区分けはもはや違うような気もするんです。ハイエンドであっても、ちょっと優しさを持つような商品があってもいいなという思いから、AQUOS R9のデザインを再構築しました」(川氏)
 この大胆なデザイン刷新はシャープ社内でも賛否両論があった。スマホ事業を統括する小林繁氏も「ラフスケッチの段階ではピンと来ていないようだった」(川氏)というが、実機を手に取って納得したという。
 その小林氏は「今はめちゃくちゃいいと思っている。愛着が湧いてくるような独特な感じの良さがある」と太鼓判を押す。
●「コダマ」「巨神兵」に似ているカメラデザイン
 AQUOS R9の「優しさ」を体現するデザインの中で、最も目を引く要素は背面のカメラバンプ(出っ張り)の形状だ。自由曲線を採用した独特な形状は、発表直後からSNS上で大きな話題を呼んだ。多くのユーザーが、このデザインをスタジオジブリ作品のキャラクター、特に「もののけ姫」に登場する「コダマ」や「天空の城ラピュタ」の「ロボット兵」に例えている。
 この予期せぬ反応に対し、デザインを手掛けた三宅氏は「意図していなかった」と応じつつ、何かに例えられることは「歓迎」と話している。
 「もともとデザインしていたときは、人に近いというところを目指してデザインしていたので、何かに似せようとか、キャラクターに似せようという感覚は全然なかったんです」(三宅氏)
 三宅氏の説明によれば、このデザインの本質は「人に近い」形状を追求した結果であり、特定のキャラクターを模倣する意図はなかったという。しかし、結果として生まれたアニメキャラクターとの類似性は、デザインの親しみやすさや記憶に残りやすさを高める効果がありそうだ。
●新色「グリーン」は色味のさじ加減に妙
 AQUOS R9はホワイトとグリーンの2色展開になっている。カラーバリエーションについてこの色選択の背景について、川氏は次のように説明している。
 スマートフォンで定番色の黒ではなく、あえてグリーンを採用した意図を、川氏は以下のように説明している。
 「スマートフォンでカラー調査をすると、白と黒の2色は色が候補に挙がると思います。今回はブランドを刷新する上で、何か新しいメッセージを発信したいという思いがあり、新色としてグリーンを入れました。単純な緑という色じゃなくて、生活スタイルやインテリアへなじむかという着想で出てきた色です。ですから、彩度や明度にはすごくこだわっています。環境によってはあまり色味が感じず、逆にファッションによっては緑がさえて見えるといった、視覚的効果を効果というのを考えたカラーになっています」(川氏)
 一方でホワイトは食器のような清潔な印象を与える質感で、カメラバンプは銀色で柔らかな光沢がある。川氏は「素材感を生かした色、素材、仕上げの選定を行っている」と説明した。
●カメラを引き立たせる“切り方”もこだわり
 より細部を見ていこう。カメラバンプの細部にも、こだわりが見られる。エッジ部分に施されたダイヤモンドカットだ。川氏の説明によると、この削り方には特別な工夫が凝らされている。
 「一般的なダイヤモンドカットは、ダイヤの刃を斜めに当ててカットするだけで済ませます。実はAQUOS R9のダイヤモンドカットは2段階あります。単純な角度ではなくてカクカクっと2段階に角度を付けています」(川氏)
 全体のフォルムはシンプルな形状としつつ、断面のアール(丸み付け)にこだわっており、また、サイドフレームの金属と、バックパネルのガラスの接合部分にも細心の注意が払われている。これらの細部へのこだわりが、AQUOS R9の柔和な印象と高級感を形作っている。
●「AQUOS wish4」は再生プラスチックを多用
 AQUOS wish4はAQUOS R9と共通のデザイン言語を持ちつつ、異なる素材でそのボディーを形作っている。背面は60%再生プラスチックを試用し、しっとりとした表面塗装を施して手触り良く仕上げた。
 巨神兵のようなカメラバンプの部分にガラス素材を活用して、アクセントとしている。
 カラーバリエーションはブルー、ホワイト、ブラックの3色。Y!mobileでは限定色としてピンクも展開する。
●“日本発スマホ”でグローバル化を進めるシャープ
 AQUOS R9のデザイン戦略を理解する上での重要な文脈となるのが、シャープが海外戦略強化の方針を打ち出していることだ。展開国は従来のインドネシア・台湾に加え、シンガポールでも販売する。
 国内市場も変化している。スマホ販売のほとんどを携帯キャリアが独占する構造が徐々に変化しつつあり、メーカーが独自にSIMフリーモデルを販売するケースが増えてきた。これを小林氏は「日本がグローバル化している」と形容する。
 小林氏は「日本メーカーが少なくなり、中国系やアメリカ系のブランドが勢いを増している」状況を指摘し、「日本らしさのリニューアル」の必要性を強調している。
 日本のモダンデザインを得意とする三宅氏との協業も、日本発のスマホを実現していく上で、訴求力を持つ可能性がある。グローバル化した日本市場と、シャープが進出を目指す海外市場の双方に通用するアイデンティティーを持たせたデザインリニューアルといえる。
●R proやsenseはどう変わるのか
 AQUOS R9/wish4で大きくデザインチェンジしたところで気になるのは、現行ラインアップに残された「pro」と「sense」のデザインチェンジだ。
 AQUOSの最上位ラインproシリーズはR9世代ではラインアップから外れる。小林氏は「1回スキップ」と表現しており、再度投入する意欲はあるようだ。このproシリーズはライカ監修の1型カメラを目玉としており、まさにカメラ中心のハードウェアデザインの象徴のようなモデルだった。
 AQUOS R9の新しいデザインがproやsenseに取り入れられるのかという問いに対して、直接的には「将来の製品には言及しない」(小林氏)と答えている。
 一方で小林氏は「当然デザインにおいては、UXと製品性が表裏一体にあるものなので、商品ごとに、たとえ仮に三宅さんにデザインをしていただくにしても、やっぱり一個一個根本から考えていく形になる」とも言及している。カメラが主役のproシリーズが新デザインを採用するとしたら、AQUOS R9とは大きく趣の異なる容貌となりそうだ。

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