「企業は誰のものか」の答えとは? 会社の本質を見抜いたドラッカーの名言

JBpress2024年10月2日(水)4時0分

 1984年に「ユニクロ」を立ち上げ、ファーストリテイリングを世界的な企業に育てた柳井正氏。一方、初代シビックはじめ数々のホンダ車をデザインし、本田技研工業の常務を務めた岩倉信弥氏。二人はビジネスにおけるデザインの重要性を追求した点で共通している。本連載では『一生学べる仕事力大全』(致知出版社)に掲載された対談「ドラッカーと本田宗一郎~二人の巨人に学ぶもの~」から内容の一部を抜粋・再編集し、組織と経営の本質に迫る両氏の対話を紹介する。

 第3回は、会社と顧客の関係、ホンダ流のプロジェクト推進について取り上げる。

<連載ラインアップ>
■第1回 「世界」を常に意識した本田宗一郎が、部下に繰り返し投げかけた質問とは?
■第2回 ユニクロ柳井正氏は、なぜドラッカーを読んでもピンと来なかったのか? 
■第3回 「企業は誰のものか」の答えとは? 会社の本質を見抜いたドラッカーの名言(本稿)
■第4回 がむしゃらに働くと、なぜ仕事は面白くなるのか?
■第5回 ユニクロ柳井正氏が捉えた、本田宗一郎とドラッカーの共通点とは? (10月18日公開)

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本田宗一郎の教えは日本企業の教え

柳井 僕は本田さんの教えは、日本企業そのものの教えにも通じるんじゃないかと思うんです。要するに、全員で経営をやらせていく。社員も経営者も、全部横一線。本田さんはずっと町工場のおやじであり続けた人だと思うんです。

 そして自分の会社の社員に対して「こういうことをやっていこう」と宣言して、そのとおりにやった。非常にシンプルなことなんですが、僕は日本の企業はもう1回、そういったところに立ち返らないといけないと感じています。

 そういう創業の心とか、企業はどうあるべきかといったことを、全社員が理解して、全社員が実行していく。SEDシステムにせよ、プロジェクト制にせよ、全員で知恵を出し合って、全員で経営していくということですよね。

 ドラッカーの場合は、会社や組織、人間とはどういったもので、どうあるべきかといった基本的な部分を全部、経営学という体系にしたんじゃないかと思うんです。だから、たぶん本田さんがやってきたことや考えてきたことと、ドラッカーが考えていたことはあんまり違わないのかもしれません。

岩倉 同感ですね。

柳井 戦後の日本がそうだったように新興国でいま成長している企業も、やっぱり同じような経営をしているんじゃないかと僕は思いますね。日本企業の人はそういったすごくいい先輩がいて、どんなことを述べていたかを思い出さないといけない時期に来ているから、ドラッカーの本も本田さんの本もすごく売れているんだと思います。

 それから、本田さんもドラッカーも、大衆とか現実といったものに関して、すごく理解があったと思うんです。いくら理想を持っていても、そこに対しての理解がないと、理想が理想にはならない。それはもう自分の独り善がりにしかすぎない、といったことを教えてもらった気がしますね。

岩倉 僕も本田さんから、現場・現物・現実の「三現主義」とよく言われました。とにかく、理論だけでは事は運ばないんだと。

 実際に現場で、ちゃんと現実を知った上で、物と格闘しながらやるんだぞ、という教えなんですが、何のためにそうやるのかといえば、そこでつくられたものが、お客様の喜びに繋(つな)がるからなんですよね。でもその喜びがなかなか分からない。だから自分が本当にお客様のつもりになって、お客様の立場で考える。そういう習慣をつけることを教わりました。


企業の目的は顧客の創造である

柳井 ドラッカーは企業経営の本質というものを、こんな言葉で表現しています。「企業の目的として有効な定義は1つしかない。すなわち、顧客の創造である」。

 ビジネスをやるというのは、結局そういうことですよね。お客様がいない限り、ビジネスは成立しない、という当たり前のこと。

 近頃、会社は誰のものかということが論じられ、株主のものとか、社員のものとかよく言われるんですが、「お客様のもの」ですよね。お客様に奉仕する集団が会社であり、それをいかにうまく経営して収益を上げるかという競争をしている。ドラッカーはそういう、会社というものの本質を見抜いたんじゃないですか。

岩倉 あぁ、そうかもしれません。

柳井 でもほとんどの場合、表面的なことにばかりとらわれていて、会社は何のためにあって、そこで仕事をする人は何をしないといけないのかを掴(つか)まずに仕事をしている人や、会社自体が存在する。

 僕はたぶん、本田さんは「大衆の心」を知っていたと思うんです。創業経営者は皆そうだと思うんですが、大衆の心を知らないと事業はできないですよね。だから僕の中で本田さんは、典型的な日本の社長というイメージがあるんです。

岩倉 ホンダの社員も代々「ずっと偉大なる中小企業でいよう」と言い合っていますしね。

 先ほど本田さんを「中小企業のおやじ」と言われましたが、そうやって皆の顔が見える、それこそ風邪をひいているだとか、どういうことを考えてるのかといったことが分かる範囲で夢をつくっていく。そんな感じのマネジメントで、お客様の気持ちをどうすれば具体的なものに落とし込めるかを毎日考える姿勢がすごかったですね。

 ドラッカーも「考える」ということの大切さを繰り返し述べていますが、僕は本田さんから、とことん考えて考えて、考え抜くことの必要性を教わりました。そしてこの考え抜く姿勢は、やがて会社の中でシステム化され、我々はそれを「缶詰」「山ごもり」「カミナリ」と呼んでいました。

柳井 ほぉ。何ですか、それは。

岩倉「缶詰」は1グループ約10人が部屋に閉じ込められ、普段の仕事や外界の情報から完全に遮断(しゃだん)されます。よいアイデアが出てくるまで出してもらえず、家に帰ることも許されない。その空間でとことん考え抜く。最長で1か月に及んだこともありましたよ。

「山ごもり」は温泉に行ってこいと言われ、喜び勇んで出掛けると、その安宿にあるのは紙と鉛筆だけ(笑)。仕事に必要なものが何でも揃(そろ)っている研究所を離れ、立ち位置を変えることで、新たな考えを生み出そうという試みです。

 最後の「カミナリ」は、目標を引き上げて頭を切り替えさせる方法ですが、私たちの頃は本田さんそのものでした(笑)。本田さんが毎日怒るのを「カミナリ、カミナリ」と我々は言ってたんですが、怖いから皆逃げるわけです。

 ただ、なぜ怖いのかと考えてみると、カミナリが上にあるからなんですよね。ジャンボ機でそのカミナリより上に行けば、怖くも何ともない。

 結局、本田さんが怒るのは、経営者として考えているからなんです。こうしなきゃお客様は喜ばないという発想だから、考え方が哲学的になる。一方、こちらはデザイナーとしての視点だけで考えている。つまり「シンキングレベル」が違うわけです。

だから自分のシンキングレベルを上げるしかないんだと。カミナリの怖さを克服するために、体を逃がさず、心で勝っていこうと考えたんです。そうやって本田さんになったつもりで、本田さんと同じ視点で考えると、急に怖くなくなったという経験がありますね。

 そう考えてみると、僕がすごいなと思った仲間たちは、その時は年が若くて、立場も低いんですけど、常に経営者的視点を持って物事を考え、後に社長になったり、役員になったりしていましたね。

岩倉 信弥(いわくら・しんや)
昭和14年和歌山県生まれ。多摩美術大学卒業後、本田技研工業入社。大ヒット車シビックやアコードのデザインをはじめ、日本カーオブザイヤー大賞、日本発明協会通産大臣賞、グッドデザイン大賞、イタリアピアモンテデザイン大賞など受賞歴多数。その他の代表作にアコード、オデッセイなど。デザイン室の技術統括、本田技術研究所専務、本田技研工業常務などを歴任。平成11年同社退職後、多摩美術大学教授就任。16年立命館大学経営学博士。22年より多摩美術大学名誉教授。

柳井 正(やない・ただし)
昭和24年山口県生まれ。早稲田大学卒。46年早稲田大学卒業後、ジャスコ入社。47年ジャスコ退社後、父親の経営する小郡商事に入社。59年カジュアルウエアの小売店「ユニクロ」第1号店を出店。同年社長就任。平成3年ファーストリテイリングに社名変更。11年東証1部上場。14年代表取締役会長兼最高経営責任者に就任。いったん社長を退くも17年再び社長復帰。

<連載ラインアップ>
■第1回 「世界」を常に意識した本田宗一郎が、部下に繰り返し投げかけた質問とは?
■第2回 ユニクロ柳井正氏は、なぜドラッカーを読んでもピンと来なかったのか?
■第3回 「企業は誰のものか」の答えとは? 会社の本質を見抜いたドラッカーの名言(本稿)
■第4回 がむしゃらに働くと、なぜ仕事は面白くなるのか?
■第5回 ユニクロ柳井正氏が捉えた、本田宗一郎とドラッカーの共通点とは? (10月18日公開)

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筆者:藤尾 秀昭

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