「冷凍牛乳」賞味期限は半年以上、解凍しても風味が落ちず…「メイド・イン・北海道」のブランド力生かす
2025年5月21日(水)15時56分 読売新聞
酪農王国・北海道の牧場が「冷凍牛乳」を商品化し、販路を広げている。冷凍牛乳は解凍後の味が落ちるとして避けられてきたが、常識を覆したのは急速冷凍。解凍しても鮮度や風味が損なわれなくなり、冷蔵で1〜2週間とされる賞味期限も半年以上に延びたという。牧草だけで育てた牛から搾ったオーガニック牛乳をアジアへ輸出する——。そんな構想を描く牧場もある。(北海道支社 宮下悠樹)
「メイド・イン・北海道の信頼性やブランド力は強い。富裕層向けに需要があると考えている」。酪農が盛んな十勝地方の広尾町で約90頭の乳牛を飼育する鈴木敏文さん(43)は、冷凍牛乳に自信を見せる。
曽祖父が始めた鈴木牧場で働くようになった当初、トウモロコシなどを原料とした「濃厚飼料」や人工のサプリメントを与えていたが、牛が繰り返し伝染病にかかった。「より自然に近い環境で育てた方が健康になるのではないか」と考え、2010年に方針転換。餌を無農薬の牧草のみに切り替えると、病気は減り乳の味も格段によくなった。
昨夏、冷凍牛乳の商品化を思いついた。きっかけは、肉や魚の鮮度を保つ急速冷凍機の存在を知ったことだ。
急速冷凍機は横浜市のメーカー「テクニカン」が開発した製品で、マイナス30度の液体に容器ごと浸し、細胞を壊さず一気に凍らせるという。「肉や魚の鮮度が保てるなら牛乳でもできるのではないか」。そう直感した。
解凍した牛乳は通常、たんぱく質と脂肪分が分離して飲み口がざらつく。このため、日本乳業協会(東京)は冷凍を推奨していない。しかし、鈴木さんが急速冷凍機で冷凍牛乳を試作すると、解凍後も鮮度が失われず、風味も搾りたてと変わらないことが確認できた。
外部検査機関の確認を経て昨夏、賞味期限6か月の冷凍牛乳(180ミリ・リットル、税込み700円)を発売した。賞味期限を気にせず、健康な牛の牛乳を味わえることから、ふるさと納税の返礼品として人気があるほか、余っても廃棄するリスクが少ないため、乳製品関連のイベント用に購入する顧客もいるという。
鈴木牧場は早ければ来月、賞味期限12か月の冷凍牛乳も売り出す。秋には香港やシンガポール、タイへの輸出を始める計画もある。「賞味期限の壁を越えて、世界中の人に牛乳本来のおいしさを知ってほしい」と意気込む。
十勝地方では他にも、牧草のみで育てた牛の冷凍牛乳を売り出す牧場がある。
清水町の宮地牧場は、急速冷凍した牛乳(180ミリ・リットル、税込み540円)を新千歳空港内の牛乳専門店や福岡市のスーパーに出荷している。5月中にもすべての牛乳を冷蔵から冷凍に切り替える予定で、宮地晋也代表(63)は「在庫管理もしやすくなる。少しずつ販売量を増やしていきたい」と話している。