【インタビュー】シュー・グァンハン&藤井道人監督「ボーダーを取り払って作った」新たな挑戦

シネマカフェ2024年5月2日(木)7時45分

シュー・グァンハン(許光漢)&藤井道人監督/photo:You Ishii

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日本に先駆けて公開された台湾をはじめ、アジアの国々でヒットを記録している日台合作映画『青春18×2 君へと続く道』。5月3日(金・祝)の日本公開を前に、来日した台湾の人気俳優シュー・グァンハンと藤井道人監督に話を聞いた。

国際的なプロジェクトへの参加は初めてだったというお二人。新たなチャレンジの裏にあった思いとは…?

お互いの作品は観ていた?
「すごい才能」「定義付けない」

――グァンハンさんにうかがいます。藤井監督と今回一緒にお仕事をされる前に、監督の作品をご覧になったことはありましたか? 

シュー・グァンハン(以下、シュー):最初に観たのは『ヤクザと家族 The Family』でした。ヤクザの映画も撮れるしアクションも撮れる、おまけに美しいラブストーリーも撮れる、特別な監督だと思いました。『青春18×2 君へと続く道』を撮り終わってから、時間がなくて事前に観られなかった『余命10年』も観ました。何でもできるすごい才能を持った監督だと思います。

藤井道人監督(以下、藤井):本当に?(笑)

――実際に一緒にお仕事してみて、監督に対するイメージは変わりましたか?

シュー:変わりました。よりよい方向に(笑)。プライベートでも監督のほうから声をかけてくださって友達のような、とても付き合いやすい監督だと思います。撮影現場では、演技指導をするとき、とても適切な方法で、僕らと意思疎通を図ってくださいます。俳優が想像を膨らませやすいように導き、自分が撮りたい形にもっていく。その能力に非常に長けた監督だと思います。本人が隣にいなければ、もっと褒めますよ(笑)。

――藤井監督にも同じ質問をさせていただきます。一緒にお仕事をされる前に、グァンハンさんの作品をご覧になったことはありましたか? 

藤井:悩んだのですけど、見なかったです。俳優はたくさん人の目に触れて、勝手に定義される。僕が俳優だったら見て欲しくないなと思いました。俳優の演技を研究していこうとか、そういうことは自分の中ではやりたくなくて、フラットな状態で一緒に物を作りたかったんです。

でも、たまたま見ちゃった作品はありました。Netflixでおもしろい台湾のドラマを見ていたら、「グァンハンが出てきた!」みたいな(笑)。撮影が終わってから、台湾で大ヒットした映画『僕と幽霊が家族になった件』を観て、彼はこっち(コメディ)もできるんだなと思いましたね。かわいかったです(笑)

――あらかじめイメージを持たず、新鮮な気持ちで撮影に臨まれたのですね。

藤井:僕は「決めつけない」「定義付けない」ということを大事にしているんです。ビジュアルのイメージや僕自身が求めているものはありますけど、ジミーの心の部分は、僕が持っているものより、グァンハンが持っているものを見せてほしいと思いました。



監督「スタッフは、表現者たちが集まっているという認識」

――グァンハンさんが演じるのは、36歳で情熱を傾けてきた仕事と人生の目標を失った主人公ジミー。18年前に日本からやってきたバックパッカーの女性アミとの初恋の記憶をたどり、日本の彼女の故郷を訪ねる旅に出ます。驚いたのは、18歳と36歳のジミーが全く別人に見えること。演出の面で、違いが出るように工夫されたことはありましたか?

藤井:ありました。グァンハン自身の年齢は、大人になったジミーの方が近いので、18歳のジミーのシーンは、お互い共通認識を持つことが必要だと思っていました。18歳のシーンでは“恥ずかしいことも愛しい経験なんだよ”というメッセージが必要で、18歳のジミーがかっこよく見えたら、この映画は失敗だと思っていたんです。「いろんな失敗をしてジミーは大人になった」ということをちゃんと表現したかった。そういう思いをグァンハンに伝えました。

――グァンハンさんの出演作は、いろいろ拝見しているのですが、今回のように大きな年齢差を行き来する作品(「時をかける愛」)や、ラブストーリーやコメディの主役、『ひとつの太陽』や「罪夢者 NOWHERE MAN」で演じたような個性的な脇役まで、いろんな顔を併せ持った振り幅の大きさに驚かされます。そんな持ち味をご自身ではどう思っていますか?

シュー:意識することはないですが、できる限り、自分が思い描いているとおりの人物を演じられるよう努力しています。たとえば、この映画で36歳のジミーを演じたときは、僕の実年齢と近いので歩き方や話し方といった外見より、できる限り心理的な部分を考えて演じようとしました。18歳のジミーは、年齢的にまだ落ち着きがないし、とても活発。そこに可愛らしさみたいなものもあっていいと思って、そういうイメージで演じました。

藤井:18歳のジミーの手の落ち着きのなさとか、なんだか背筋が定まっていない感じは、グァンハンがテストでやってくれることを、そのまま取り入れました。見ていてすごく楽しかったです。

――撮影に入る前、必ず行う準備はありますか?

シュー:特に意識してこれをやらなきゃと決めていることはないですが、だいたい1日から2日の時間を自分に与えて、自分自身を空っぽにするようにしています。

――基本的には監督の話を聞いて一緒に作り上げていくようなイメージですか?

シュー:今回の作品でも、監督は自分が欲しいものを明確に持っているので、僕はそのとおり一生懸命に演じるだけです。方向性に関して、監督が求めているものと僕がやっていることに違いが生じた時には意見を交換します。どの作品も、現場で話し合うといえば、だいたい同じような状況ですね。そういう時以外は冗談ばかり言っています(笑)。

――藤井監督は今回の台湾の現場で学んだことを今後の仕事に取り入れたいとおっしゃっていましたね。その後の現場で実際に応用したり、実践したりしたことがあれば教えてください。

藤井:台湾で学んだことをそのまま持って帰ってきたのは、12時間以上の撮影をしないということです。スタッフのことを、労働者ではなく、表現者たちが集まっているという認識のもとにケアしているという感じがすごくしました。

日本には日本独特の文化もあるんですよね。日本では演出部がカチンコを打つけど、台湾では撮影部が打つ。台湾のやり方を丸ごと使うわけではなくて、たとえば演出部の手が足りていないときは撮影部に打ってもらうとか、「そういうパターンもあってもいいよね」というフレキシブルな考え方になりました。「みんながやりやすい現場って何なんだろう?」ということを、以前より考えるようにもなりましたね。

――台湾のスタッフには、海外帰りの若い方が多いとうかがいました。そういう部分も、日本とは違いますか?

藤井:違いますね。日本人は日本の現場で学んで、日本で作品を発表する人が多いですが、台湾のチームは、海外から戻ってきて仕事をしている人がすごく多かったです。映画に対する敬意のレベルが高いという点はすごく参考になりました。スタッフの年齢層も僕と同世代がメイン。それをプロデューサーたちが校長先生と教頭先生みたいな感じで見守っているという感じです。



「日本映画」「台湾映画」ではない
アジア映画としての作品

――グァンハンさんは本作が初の国際プロジェクトへの参加でしたが、その後、韓国ドラマにも出演されましたね。中国語圏のマーケットは非常に大きく、今はNetflixなどで世界各国に台湾の作品が配信されています。仮に台湾の作品だけに出演していても、世界中の人に見てもらえるわけですが、それでもこういう国際プロジェクトに参加する面白さをどう感じていますか?

シュー:今回、仕事という形で異なる文化を体験できて、とても嬉しかったです。日本も韓国も、それぞれ文化が全然違う。僕が一番好きな異文化体験はご飯を食べる時間なのですが、現地だからこそ味わえる楽しさがあります。僕は自分に挑戦し続けることが必要なタイプ。韓国での撮影は、詳しくは言いませんがまた別のチャレンジです。新しいことを学ぶことが好きなんですね。

例えば、飯山線の電車内での撮影は、実際に走る電車の中で俳優がとった行動を記録するという方法でした。「こういう撮り方もあるのか」と、新しく学んだことがたくさんあります。

――監督にうかがいます。日本のシーンやロケ地について「こういう場所を見せると喜んでもらえる」など、台湾の観客のことを意識しましたか?

藤井:すごく意識しました。なぜかというと、今回この作品の企画書を見て、監督をお引き受けしようと決めた大きな理由が二つあるんです。その一つが、僕がジミーと同じ36歳だったということ。そして、もう一つが、企画書の1枚目にあった「雪の中を電車が走る」という言葉でした。台湾の人たちは雪が好きだということは知っていましたし、(プロデューサーの)チャン・チェンやロジャー・ファンの「コロナ禍で会いたかった人に会えない、行きたかった場所に行けなかった人たちが、もう一度“旅”というものを考え直す作品にしたい」という思いも知っていたので、「こういう景色を撮ってほしいんだろうな」という景色を取り入れたりはしましたね。

――本作には、日本の人がイメージする台湾と、台湾の人がイメージする日本の風景が、うまく両方取り込まれていると感じました。バランスには気を遣ったのでしょうか?

藤井:カメラマンと一緒に、それぞれ色味や場所の撮り方は工夫していますが、「この地域だからこう撮ろう」というより、「ジミーという人の生きている世界が同じアジアの中にある」ということを意識しました。多分みんな意識的に「日本映画」「台湾映画」と区別して映画を観てきたけれど、今回は「アジア映画を作る」という思いで作っているんです。僕らがボーダーを取り払って作ったことがこの映画の中で作用していたなら、うれしいですね。

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