飢えた若い女性の「危険行為」北朝鮮で急増
最近の日本ではあまり聞かなくなった「当たり屋」。保険金などを目当てに、故意に車にぶつかる行為を指すが、ドライブレコーダーや監視カメラが普及したことで、なりたたなくなったのだろう。
ドライブレコーダーはおろか、車の普及すら進んでいない北朝鮮でも、当たり屋は存在する。その実態を、咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
事件が起きたのは先月中旬のこと。咸興(ハムン)市の沙浦(サポ)区域で、チェという女性が貨物トラックに飛び込んだ。幸い、命に別状はなかったが、トラックにぶつかった衝撃で倒れて、脳震盪を起こし、足に傷を負った。
彼女は、トラックのドライバーに対して、補償金の名目で2万元(約38万8000円)を要求。ドライバーは、自分には何の責任もないと要求をはねつけた。
咸興市安全部(警察署)が詳しい調査を行ったか否かは定かでないが、どういうわけか女性の肩を持ち、「事実関係がどうであろうと、人が車に轢かれて怪我をしている、治療費を払うか、監獄に行くかを選べ」とドライバーにプレッシャーをかけているという。
情報筋は詳細を語っていないが、拝金主義の蔓延る北朝鮮の現実や、補償金の額の多さを考えると、安全部は女性からワイロを受け取り、グルになってドライバーを罠にはめようとしている可能性も考えられる。
情報筋は、このような当たり屋になる人が少なくないとし、そのほとんどが厳しい食糧難の中で一家の生計を担っている女性で、家族を飢えさせないために、手段を選ばず、自分の命をかけた賭けをしていると説明した。
2020年1月のコロナ鎖国以降、北朝鮮は深刻な食糧不足に陥っており、中でも前年の収穫の蓄えが底をつく、春から初夏にかけては最も逼迫、都市でも農村でも餓死者が出る事態となっている。市場での商売で収入を得て家族を支えてきた女性たちは、自分の命と引き換えにして、食べ物を得ようとしているのだ。
殺伐とした状況の中、金銭をめぐるトラブルも耐えない。咸興市では今月1日、30万北朝鮮ウォン(約6000円)の現金を貸した30代のキムさんが、債務者の40代のカンさんに暴行を振るう事件が起きた。
カネを返せと迫るキムさんに、カンさんは「返さないとでも思っているのか」と逆ギレしたのが、事件の発端だ。殴られたカンさんは安全部に通報。キムさんは、治療費として50万北朝鮮ウォン(約1万円)を支払うか、労働鍛錬隊(軽犯罪者を収容する刑務所)に行くかの選択を迫られている。
そもそも、他人にカネを貸して利子を取るのは違法行為。踏み倒されてもどこに訴えることもできない。そこで実力行使に出たキムさんだったが、逆襲されてしまったというわけだ。
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